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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 再生したばかりの尾の強度を回復した後、マサモリはシュドラの巨体に深々と手刀を入れた。シュドラの体が異物であるマサモリの手を拒絶した。


 マサモリは自分の手の表面が徐々に溶かされていくのを他人事に観察した。強化魔法を纏えば防げるのだがそんな事はしない。マサモリの手の表面が溶けてマサモリの手とシュドラの体内の境界が曖昧になるとマサモリは言霊を発した。


『光耐性を解除せよ』


 マサモリの手を中心にして黒くなっていた鱗が入れ替わるように元の火を宿した鱗に変化していった。第一段階が成功してマサモリはほっとした。一度言霊が通ると次からも言霊が通りやすくなる。簡単に説明すると発言力がある人物だと認定されたような具合だ。


『この力は人を守る為にある。人を殺す為にこの力を使う事を禁じる』


 力の方向性を攻撃よりも守りに誘導した。余り硬く縛りすぎると何かの拍子に解除される恐れがある。川の流れのように塞き止めるのではなく、誘導する方が上手く行く場合が多い。これでシュドラの子孫が免疫の過剰攻撃で体を壊さないようになった。何もせずに滅びるのを放置するのは勿体ない特性だ。マサモリはそういう事にしておいた。


『ボタン、よろしく』

『はっ』


 ボタンがマサモリの様にシュドラの体に手刀を入れた。マサモリはその様子をじっくりと観察した。ボタンの手がマサモリの様に溶かされるが、マサモリの時ほどではない。


『多少の反撃はあるようだが想定範囲内だ。ボタンありがとう』


 ボタンが手刀を抜いて傷口に回復魔法をかけた。シュドラの傷と魔力を回復させると記憶を消去した。そしてラスターと同じ洗脳を施した。


『よし、処置完了だ。各自周囲の魔力跡を消す作業にかかれ』


 氷山の外側に張った結界にはライムが氷山を出した時の状態で映像が固定されている。氷山の中を窺おうとしてもライムがかけた隠蔽魔法で中の様子は見られない。外から見ていた者が感じられるのは戦いの衝撃くらいだろう。もちろん、光線が氷山を破壊したのは周囲からは見られていない。


 マサモリ達が戦った魔力跡が消されると今度はシュドラ達が戦った様子を再現して魔力跡を上書きする。結構大変な作業だ。それが終わるとシュドラ達をシュドラが気絶した時の位置に移動し直した。


 一連の作業が終わってマサモリは一息ついた。そして全員が遠くへ移動した。遠くまで離れると外側の結界を解除する。すると中の時間が動き出し、ラスターとライムが目を覚ました。


 ライムが気絶したシュドラを慈しむ様に抱えた。その後、ライムがゾグルとマナスを抱えるとラスターと共に去っていった。マサモリは式神を飛ばして暫くラスター達の様子を窺っていたが特に問題はなさそうだった。


 マサモリ達は自分達の町へと帰還した。





 マサモリ達は何事も無く椿を中心に植えた自分達の町に到着した。町の名前はある程度、町が完成してから発表するつもりであった。ハーフエルフ達にも町を作るのを手伝って貰って町に愛着を持ってほしかったのが名前の発表を遅らせた理由だ。


 町の完成と共にお祭りをやろうと思っていたが今はそんな事を言っている場合ではなくなってしまった。マサモリの到着と共に意識を取り戻したハーフエルフ達を会議場に集めた。まだベットから動けない者が多数居るので集合には時間がかかっている。



『今回は色々な事の連続で疲れたなあ。みんな色々とありがとう』

『はっ』


『やっぱりマサモリ様に着いて来て正解でした。エルフの森では数百年生きてもこんな体験は出来ませんでした。ああ、私のモブ人生に一片の悔いなしです!』


『問題はこれからどうするかだ。シュドラが居なくなって魔人軍は大暴れするのは確実だ。折角整備した畑も荒らされるなあ』


『町も未だ整備途中です。まさか竜人王が動くとは予想出来ませんでしたから』

『ああ、戦乱が広がっていく……。無辜の民が踏みにじられていく……。あっ、無辜じゃないか。はぁ、つまらない』



 とりあえず町の防備を固めて様子を見る事になった。ハーフエルフの大半はまだ眠ったままで、少数のハーフエルフがリハビリを始めたばかりだ。ハーフエルフだけで町を守るには力が圧倒的に足りない。


 助けたからにはせめて町を出ても生きていける力を付けさせないと意味が無い。その為には最低でも数か月、願わくば一年位の時間が欲しい。



 町の防衛はモブツリーマンに任せるのでモブ美に託された。忍者エルフが捕まった場合は大変な事になるので防衛には使えない。超大陸のエルフやハーフエルフを出来る限り救いたい。それでもマサモリにとって最重要なのはエルフの森のエルフ達だ。



『えー、私を捨て駒にしないんですかー! 残念です』


 モブ美の良く分からない感性に引きつつもマサモリは町の守備をモブ美に任せた。


『へへっ、私にかかれば百年は守り通して見せますよ! いざとなれば私の命で……、ギュフフ』

『危なくなったら逃げていいよ。いや、絶対に逃げろ。いいな?』

『……ハイ』


 モブ美はマサモリから目をそらした。マサモリは限りなく心配になってきた。なので本当に危なくなったら忍者エルフが助けるように指示を出しておく。




 ハーフエルフ達が集まるとマサモリはサーモとして宣言した。


「魔人王のシュドラ、四天王のマナス、ゾグルが竜人王に拉致された。俺だけは逃れられたがシュドラ達の帰還は難しいだろう。俺は魔物化特性上の問題で長時間樹海から離れるのは困難だ。だから魔人王になるつもりはない。残った魔人軍は確実に暴走する」


「サーモ様! 俺達はどうなるんだ?」


 クザームがハーフエルフ達の思いを代弁した疑問を投げかけてきた。


「今回のベヒモス討伐、城壁都市ラギドレットの攻略、竜人王の襲撃で俺は魔力の大半を使い切ってしまった。当分は戦えないだろう。俺が魔人王に無理やりなろうとしても今の体調では危険すぎる。もし今攻められたら町を捨てて樹海に逃げる」


「そんな……」


「だがそうはならないだろう。町を作る時にわざわざ僻地を選んだのはこういう時の為だ。魔人軍が暴走してもここに来るまでに相当猶予がある。本来ならハーフエルフの回復を待ちたかったがそうも言ってられなくなった。小規模な襲撃なら防衛、大規模な襲撃なら逃亡だ。クザーム、お前達にも戦ってもらうぞ」


「分かった! その為に訓練してきたんだ。本格的な襲撃はいつになるんだ?」


「現地には多くの使い魔が隠れて俺達を見ていたはずだ。情報はすぐに知れ渡って、魔人軍が暴走してすぐに略奪に走るだろう。この町まで到達するには、早くて一か月って所だな。それまで死ぬ気で鍛えておけ。もし逃亡する事になったら俺達は樹海に逃げる。お前達は自由にしていい。お前達が望むなら、今逃げてもいいぞ」



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