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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 ダンジロウはこの初仕事を絶対に成功させる意気込みでいる。ダンジロウは農家の生まれだ。どこにでもいる農家の倅のダンジロウは全ての男子が憧れるように武士に憧れた。


 しかし子供の夢は所詮夢で大きくなるにつれてそれを諦めるのが当たり前だ。だがダンジロウには他の子供にはない長所があった。小学校に入学する年頃になると他の子供よりも背が伸びていった。


 ダンジロウはエルフでは稀な恵まれた体格を得たお陰で学校でも屈指の強者になれた。だが長老族は駄目だ。恵まれた魔力に生まれてすぐ結界魔法を教え込まれる生粋のエリート。ダンジロウは自分の背丈の半分もない長老族の同級生が作った結界を破れなかった。


 ダンジロウは驚愕したが腐ったりしなかった。その頃には武士への憧れよりも体を動かして技を研く事の面白さが優っていた。


 中学を卒業したダンジロウは農家をせずに浪人となった。高校は勉強するという側面が強く、武力を付けたかったダンジロウは浪人になって道場に通い詰めた。


 生活費の為に荷運びや樹海から迷い込んでくる魚の駆除等をした。農家の出で大した知識もなかった当初は苦労したが少しずつ仕事を覚えていった。


 恵まれた体格もあってか百二十歳になると仕官できる程度の実力が付いた。しかしそれは入り口に過ぎない。寿命のお陰で百年単位で修行できるようになったエルフにとっては武術の世界へ入り口に立ったに過ぎない。


 仕官先は選ばなければ潜り込めたかもしれないが良い所はどこも空きはない。それに少ない空きに無理やり入り込むのも好みではなかった。


 それに体を動かすのが好きなダンジロウは農家になっても楽しく生きていけるだろうという確信があった。農家のゆったりとした生活はダンジロウの性に合っていたのだ。


 しかしせっかく体を鍛えたのでいける所までいってみよう、ダンジロウはそう思っていた。


 口入屋で割の良い集団向けの仕事を見つけた時はダンジロウにとって他人事であった。十人以上の集団向けの仕事だった。


 すぐにその仕事の事は忘れたダンジロウであったが道場でも同じ話題が金欠の若者中心に囁かれていた。道場に通えば通うだけお金を稼ぐ機会は減る。


 割の良い仕事は人気があるので中々取れない。道場で稽古した後はとにかく腹が減る。


 俺達でやってみるか、とダンジロウは何も考えずに気軽にそんな事を呟いてしまった。金の無い若者が光に集まる虫の様に集まって来た。彼らの反応の良さにダンジロウはたじろいでしまい、気が付けば発起人にされてしまった。


 どうせ駄目だろうと思いつつ口入屋に確認したが、ダンジロウの普段の仕事っぷりや道場の評判も良い事から話しはすんなりと通った。使い魔を持っているのも良かったのかもしれない。


焦ったダンジロウは道場の先輩方に相談した。そしてやってみろとのありがたいお言葉を頂戴した。


 ダンジロウ達は初仕事をそつなくこなした。内心では新しい事尽くめで頭がいっぱいになっていたダンジロウだったが周りはそれに全く気が付かなかった。


 打ち上げに安い大衆酒場でみんなで酒をかっ喰らっている時にダンジロウは得も言われぬ面白さを感じた。これはそう、学生時代にみんなで集まって何かをやり遂げた時のあの感覚に似ている。


 一回仕事をこなすと後はとんとん拍子に進んでいった。人も集まってくるようになるし、仕事も今までとは違うようになる。先輩や友人から助言を得て、四苦八苦している内にダンジロウは浪人衆の頭になっていた。


 立場が変わると考え方も変わるものでダンジロウは自分の夢よりも浪人衆をしっかりとした集団にしていきたいと願うようになった。ダンジロウにはとある事情でエルフの森に居られなくなった友人がいた。


 浪人衆にはしっかりとした立場をエルフの森で持ってほしい、そう考えながら仕事と稽古に明け暮れた。一人で仕官するのは容易だが集団となると困難極まりない。ダンジロウはそれとなく情報を集めていたがそんな好機が巡ってくる機会など稀である。


 転換期は黒船の来航だろう。彼らは別の仕事をしていて東京村には居なかった。しかし広域念話で発せられる避難警報を聞いた時、今までの世界の形が変わっていくのを実感した。


 口入屋に彼らが呼び出されたのは黒船が来航した翌日だった。浪人衆が揃って用意された部屋に入るとそこには東京村の村長がいた。村長を間近で見た時に感じた感情は正に感服だった。


 魔力の質や量、そして何より細身だが鍛えられた肉体からは技量の高さを感じられた。恵まれた魔力に胡坐をかかないその姿にダンジロウは身が引き締まる思いがした。


「君達には私の息子の家臣になって出島の防衛をしてもらいたいんだ」


 広域念話で超大陸の人達の処遇をダンジロウ達は既に聞いていた。そして村長の話しを聞いてダンジロウは今しかないと思った。ダンジロウは心より体が先に反応して気が付けば武者震いをしていた。しかし他の仲間が着いて来てくれなければそれは意味がない。ダンジロウは後ろを向いて仲間達の反応を見た。


 ダンジロウが振り向いた先には目を輝かせる仲間達がいた。彼らは若く、無鉄砲で、向上心があって、そして何より怖いもの知らずだった。そしてダンジロウも彼らと同じ顔つきをしているはずだ。彼らは互いにニヤリと笑みを浮かべた。 


「他にも話しを持ちかけたけど君達ほど前向きに考えてくれている浪人衆はいなかったよ」


「私達に出来る事ならよろしくお願いします」

「うん。君達のような前途ある若者が引き受けてくれて助かったよ。うちの息子をよろしく頼む」


 二人はがっしりと握手した。

 村長は思った以上に他の浪人衆が乗り気でなかった事に胸を痛めていたそうだ。今後、超大陸の人と関わる事になる仕事はかなり敬遠されているようだ。


 他の長老族も同じで、人を出せと言ったら、いつもなら絶対出さないのに即金を押し付けられたそうだ。


 ヒデヤスは数少ない有望な浪人衆が仕事を引き受けてくれて胸を撫で下ろした。いざとなれば東京村の武士を派遣しようと思っていたが彼らの様に若くはないので乗り気とはいえないだろう。


 やる気がある人が居るから立候補したというマサモリの言葉を思い出してヒデヤスは納得した。ダンジロウ達を眺めていると自分の若い頃を思い出す。若者達の息吹を感じられてヒデヤスは爽やかな気持ちになった。




 開拓団が慎重に移動しているとサビマルが突然念話をした。


『さっさと出てこい!』


『ふぁっふぁっふぁ、ばれてしまっては仕方ない』


 開拓団の後方、エルフの森側から一人の覆面武者が現われた。


『わしは謎の放浪武者ダダダンビラじゃぁ! 義によって助太刀いたす』

『じっちゃん来てくれたの!?』


『わしは君の格好良すぎる祖父ではない。あの素晴らしい男には借りがあってな、孫である君を守ってあげようじゃないか』

『あ、そう。よろしく……』

『なんだこの茶番は……』


 サビマルの苛々とした感情がのった念話が響き渡った。初の戦闘かと思い、武器を構えていた武士達も肩を落とした。



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