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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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「ううっ……」


 ドラゴン同士が正面からぶつかり合う様な爆音と衝撃が何度も響き渡っている。それを聞いてシュドラが意識を取り戻した。体全体が焼けるように熱い。体が悲鳴をあげているが魔力もほとんど使い切ってしまったので回復魔法は使えなかった。


 しかしそんな事よりもシュドラは目の前に光景に息を飲んだ。ラスターと小さくなったサーモが戦っている。超大陸で最強の存在だと思っていた竜人王ラスターがサーモに正面から打ち負けている。体を圧し潰す様な重力よりもその事実の方がシュドラを打ちのめした。


 ラスターは必死に抗戦しているがサーモにはまだ余裕があった。シュドラは軋むような音を聞いてはっとした。音の発生源は自分の歯軋りだと気が付いた。シュドラはサーモが何度も力を付けろと言ってきたのを思い出して己が恥ずかしくなった。


 サーモは最初からシュドラに力の重要性を説き続けていたのにシュドラはそれが理解できていなかった。シュドラの中に悔しさが炎の様に燃え上がった。ゾグルの言は正しかった。弱肉強食の世界で力のみが共通言語なのに自分はそれを蔑ろにしていた。


 訓練をしていない訳でなかったが上との実力差が余りにもありすぎて短期間ではどうにかなるものではないと考えていた。それは甘い考えだった。とにかく我武者羅に力を求め続けるべきだったのだ。


 シュドラはサーモの事が嫌いでは無かった。手下というより傭兵みたいな存在だったが頭は切れたので話していて面白かった。変に下手に出ない所は楽だったし、今思えば一歩離れた場所から状況を見ていたのだと確信した。逆に賢すぎてスパイを疑ったがマナスに見張らせてもそれらしい動きはなかった。


 シュドラは程々の強さを得て満足しきっていた。だが失敗は失敗と受け止めてすぐさま切り替えた。圧倒的な強者の動きを見て、それらを自分の力にしようと誓った。シュドラはサーモを観察した。


 武器は城壁都市で手に入れたエルフを石化した物だ。腹の部分が異様に膨らんでいて魔力が強く感じられる。腹に魔石を詰め込まれているのだろう。それなりに強そうだがしっかりと職人が作った武器に比べると劣る。


 次にサーモ自体を見た。防具は服だけといった様子だ。服も大したものではない。小さくなった体には腕や足を補強しているようで背丈の割には腕や足が異様に太くなっている。腹が凹んだドワーフの体形に近い。


 強化魔法の状態は相当強いのだが、本気ではないのが一目瞭然だ。強化魔法の状態の割にはとにかく攻撃力が高い。シュドラが同じ強さの強化魔法を使っても数分の一の力しか出せないだろう。


 サーモの肉体に答えが隠されているのかもしれないが、竜人族のシュドラよりも身体能力的に優れているとは思いにくい。サーモの戦い方は凡庸そのものだ。派手な動きは一切なく、教科書通りのつまらない戦い方だ。


 あえて特徴をあげるとしたらどっしりと構えていて無駄に動きすぎない所だろう。しかしその凡庸な動きから生み出される攻撃の破壊力は想像を絶する。武器を使う技術は確かに上手いがもっと上手い人物を見た事がある。


 優れた強化魔法なら後々真似られただろう。しかしサーモには真似られる部分が無かった。それが明らかに異質だ。強さには理由がある。大きな体だったり、力が強かったり、魔力が多かったり、武器の扱いが上手かったり、様々な理由がある。その理由が全く分からない。力の方程式の外に居る存在だ。


 何かシュドラには分からない要素があるとしか考えられなかった。観察しながらもシュドラは無意識の内にラスターを応援している自分に気が付いた。状況は分からないがきっとサーモの裏切りなのだろう。竜人王と戦ってまで自分を守るとは考えられなかった。


 そうなると自分を囮にして竜人王をおびき寄せたかったのだろうか。違う。竜人王が呼び戻しに来た事すら驚きなのにそれを事前に予測できたのだろうか。シュドラは違う気がして余計に混乱した。


 最初からサーモはやる気がなかった。関心があるのは町を作る事くらいだった。ゾグルのように戦いを楽しみもしない。淡々とした印象しかない。



 順当にいけばサーモが勝つのは明白だ。しかしシュドラのラスターに対する感情は複雑なもので普通の親子と比較は出来ない。負けたなら負けたで良いという思いも少しある。それでも不利な状況下で逆転を狙って虎視眈々と機会を窺っている自分の父が勝ってほしいと願ってしまった。


 シュドラは自分が賢い部類の人間だと思っていた。だからと言って慢心はしていない。だが目の前の光景を目にすると自分の力に対する渇望が全く足りてなかったと実感した。シュドラは病を治す為に超大陸の各地を旅した。その経験から自分は強いと思い込んでいたようだ。


 魔物化特性を得てもラスターには歯が立たなかったし、そのラスターを上回る力を持つ人間がすぐ近くに居たのに気が付かなかった。シュドラは自分の浅はかさに恥ずかしくなった。





 マサモリが本格的な攻勢に移るとラスターは劣勢になった。マサモリが石像を振るうとラスターの結界が壊れる。結界が壊れた隙にラスターへと石像を振るうがラスターは両脚で防いだ。ラスターの鱗や爪が簡単に破壊される。


 しかしラスターは即座に結界を張り直し、損傷した部分を回復させた。マサモリは押しているが決定打を与えられていない。再びマサモリがラスターの結界を破壊した。マサモリが右足で強く踏み込むと足元から氷の樹がラスターに向かって生えた。


 するとラスターは迷うことなく鱗を飛ばして氷の樹を迎撃した。マサモリは何度か得意な氷魔法と相性の良い闇魔法を使ったがどれもあっさりと対処された。ラスターはどちらの魔法も対策済みの様で当たる気配が全くしない。


 ライムが氷属性で、闇属性は光属性の弱点となり得るのでしっかりと対策をしたのだろう。マサモリは迂闊な攻撃は逆に危険だと判断した。


 マサモリが明確に優っているのは重量術と結界魔法、魔力量だ。重力魔法を使っているせいで魔力の消耗はマサモリの方が激しいのだが重量術を使えているので効率は良かった。マサモリは魔法による攻撃を諦めて近接戦闘に集中した。



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