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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 ラスターは己の不甲斐無さに怒りで頭が可笑しくなりそうだった。


「ぐおおおおお!」


 ラスターは光の結界を強く張った。そして己の爪に強化魔法を集中させた。そして必殺の一撃を目の前のマサモリに叩き付けた。マサモリは結界を展開してエルフの石像に闇を纏わりつかせた。ラスターの結界と爪が、マサモリの透明な結界と石像に衝突し合った。


 互いの攻撃が相手の結界を破壊できずに衝撃が氷山の檻へと逃れて行った。衝撃で氷山の一角が崩れ落ちる。ラスターは多くの魔力を強化魔法と結界に費やしてやっと均衡を作り出せた。


 そして自分の敗北を確信した。相手は全力を出していない。何よりマサモリの目には怒りも闘争に対する興奮も浮かび上がっていない。感情を消しているわけでもない。ただ普段の日常と変わり映えのない平坦な目をしている。


 ライムも懸命に戦っているが押され気味だ。他の竜化出来る竜人を連れて来ても結果は同じだったという思いが何故か沸々と沸いてきた。




『重力をかける』



 忍者エルフ達がライムを大樹で絡めとった。マサモリはそれに合わせて念話で他のエルフに通達した。そして氷山の檻の全域に重力をかけた。ラスターの足元の氷が悲鳴をあげる様な音を立ててひび割れた。重力魔法は相手の質量が大きい程、有効的だ。


 敵には過負荷を、自分には重量術を使う為の適度な重さを与えてくれる。以前であったら自分に魔法をかけて重力魔法を相殺していただろうが重量術を知ったお陰でそれは無駄でしかないと分かった。全く利のない行動だったが重量術を知らなければそうしていただろう。


 知識と経験の重要性が分かる一例だ。




 ライムは大樹に絡めとられてたうえに高重力を受けて動けなくなった。ツリーマン達がライムに近付き、大樹への魔法の供給を強めた。ライムはそのまま重力と大樹の締め付けで動けなくなったという振りをした。まだ動けるのだが止めを刺してこないなら少し観察した方が良い。ライムは大樹を剥がそうとする振りを続けながら戦いの趨勢を見守った。




 マサモリにブレスが効かないと分かったラスターは圧し潰されるような重力の中、距離を縮めるしかなかった。マサモリは一貫して遠距離魔法を使って来ない。ラスターにはマサモリが自分に対して有効な魔法がないと思うしかなかった。


 どちらにせよ、光のブレスが通じないなら距離を詰めるしかない。ブレスと相手の結界でどちらの方が魔力の消耗が激しいかと問われたら確実にブレスの方が消費魔力が激しい。忌々しい事に漆黒の結界は少ない魔力でラスターのブレスを無効化した。


 多くの敵を一瞬で灰にしてきたブレスがあっさりと受けられた事にラスターは内心戸惑っていた。普通の相手なら結界ごと相手を燃やし尽くしていた威力があった。結界の魔力消費がブレスよりも多かった場合はブレスを放ち続ければ良かった。しかし現状ではあのまま打ち合えばラスターの方が消耗してしまう。


 近づくとマサモリは結界を通常の透明なものにした。漆黒の結界では視界が塞がるからだろう。魔力視をすれば漆黒の結界でも外を見れるのだが普通に目で見た方が楽だし魔力も必要ない。


 マサモリが結界を通常に戻した事でラスターにも勝機が出てきた。ブレスをするには一瞬の溜めが必要だが最初から漆黒の結界を展開された場合は結界を破壊できたとしても内部に与えるダメージは少ない。しかし通常の結界なら隙を付けばブレスでダメージを与えられる。


 瞬時に結界の性質を変化させる技量を持っていそうではあるが遠距離の打ち合いよりはましだ。ラスターは重力に負けないように以前にも増して強化魔法に魔力を消費している。しかし敵は先程と同じ程度の強化魔法のままだ。


 そのはずなのにマサモリの一撃は重く鋭くなっている。何か特殊なカラクリがあるのかもしれないがラスターには見抜けなかった。しかし重力魔法を広範囲に使った事で魔力の消費ではラスターが有利になった。現状を打開する策を考えながらラスターは戦い続けた。





 マサモリは重力魔法を受けて重量術を使った。重力が低くて物足りないが重力を強くしすぎるとモブ美のモブツリーマンに影響が出てしまう。マサモリは受ける重力を増やす為に体の体積を増やした。ツリーマンらしく樹を生やして体に巻き付けると体に掛かる重さが増えた。


 体のバランスを崩さないように出来るだけ重力を受けやすい体格に調整する。その間もラスターとの戦いは続いているので戦いながら重さを調整していく。調整相手が居ると調整も捗る。


 体格の大きい敵は動きが読み易くてとても戦いやすい。一撃一撃は重いが人相手にした時の何をやってくるか分からない戦いと比べると予想がしやすい。一撃を受けられる能力があるか否かで戦いにくさに天と地ほどの差が出来る相手だ。


 そんなマサモリの心を読んだのかどうかは分からないがラスターは鱗を飛ばしてきた。鱗はまずマサモリを囲んでから一気にマサモリへと向かった。結界に当たると爆弾の様に爆発した。結界の性質をついた賢いやり方だ。


 マサモリは石像と化したエルフを振るったが鱗の数は多く、うち漏らしが出てしまう。結界が徐々に削られていく。だがマサモリは焦らない。マサモリが注意すべくは相手の魔力を練り込んだブレスだ。


 近接攻撃なら強化魔法をかけているので結界が壊れても一発位なら受けても大丈夫だろう。ラスターも同じ考えのようでブレスを撃つ気配は無いが決定的な隙を探している気配が読み取れる。お互いに決定的な隙を探しながら戦いが続いた。



 しばらく戦っているとラスターの動きが重力に対応してコンパクトになった。そして前脚の攻撃に重量術がのり始めた。本人は自覚していないだろうがラスターの攻撃は重力魔法を使う以前よりも小さい動作なのに強力になった。


 マサモリは純粋に感心してしまった。シュドラもそうだったがラスターも戦いのセンスが抜きに出ている。体に纏う魔力から百歳は超えていそうな感じがする。しかし衰えているというよりも脂がのった状態だ。長引けばその状況に適応した成長を遂げるだろう。追い込んではいけないタイプの相手だとマサモリは思った。


 マサモリは重量術の調整を終えるとすぐさま猛攻に移った。



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