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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 自分より格下の相手の群れと戦う場合は多少の傷を受けても相手の数を減らす事に専念する。長引けば長引くほど、体力や魔力で優っているドラゴンに勝負の天秤が傾くからだ。それに劣勢ならば逃げれば良い。


 昔は竜人族もプライドが高かった。しかし社会の発展と戦いの形、流れが変わってくると竜人族の意識も変わっていった。そこが竜人族の優れた点と言える。現在ではとにかく死なない事が最重要とされている。


 下手に殺されれば竜人族の戦力は減るし、竜形態で倒されてしまうと鱗や牙が残ってしまう。それらが武器となり、防具となって敵の手に渡る。一人の竜人が殺されただけで損失が非常に大きい。


 傭兵に出るのが中級竜人までなのはそれを防ぐ為だ。中にはその優れた竜鱗や牙の為に竜人族狩りを目論む輩も居るが竜化出来る竜人はほとんど竜人郷から出ない。特別な事情が無い限りは竜人郷の外での竜化は制限されている。




 ライムは魔力の消耗を考えずに目の前の強敵に真正面から倒すと決意した。このままでは勝ち目は薄い。ライムが魔力を籠めると全身の鱗が逆立った。鱗に氷が纏わりついて一枚一枚が鋭い剣の様になった。


 ツリーマン達はライムの変化を見て一か所に集まった。そして土鎧のツリーマンが正面に立った。ライムは準備が整うと結界に魔力を注ぎ込んだ。ツリーマンは集まり、結界を張った。ライムの背後で悲鳴があがった。


 集合せずに潜んでいたツリーマンが居たようだ。ツリーマンの結界が陶器が割れるような音を発して壊れた。ツリーマンは焦ってその場から離れようとしたが足に力を入れた瞬間、足から凍り付きそのまま全身が砕けた。


 ライムがツリーマンの結界へ向かって走るとライムの足元を中心にして氷の草原が生まれた。ライムは正面から助走をつけてツリーマンの結界を斬りつけた。結界の中ではツリーマン達が土魔法を中心に反撃する。結界面がライムの前脚と共にツリーマン側にめり込んでいく。六人のツリーマンが球形状の結界の中で六角形の頂点になるように等間隔に並んだ。


 そして一人一人が樹に変身した。すると結界の守りが硬くなりライムの攻撃を抑え込んだ。ライムはくるりと反転すると尾を大きく円を描くようにして結界面に叩き付けた。ツリーマンの結界が攻撃に耐えきれずに砕け散った。


 一番外側にいた樹になったツリーマンは一瞬で氷になって砂の様に散った。土鎧のツリーマンがライムの尾の攻撃を受け止めたがすぐさま樹になったツリーマンの様に細かい氷の粒になって砕け散った。ツリーマンはギリギリの所で新しい結界を張り直してライムの尾を受け止めた。


 ライムは再び回転した勢いをつけて前脚で結界を斬りつけた。新しく展開された結界も固く一回の攻撃では破壊できない。もう一回尾で攻撃しようとした瞬間、目を見張った。さっきと倒したはずの土鎧のツリーマンが再び前に立ったのだ。


 土鎧を纏っているので見間違いの可能性がある。しかしそれに続いて先程と同じツリーマンが六角形に配置されて樹になった。先程と同じ光景が繰り返された。幻術を疑ったライムは喉に魔力を籠めて吠えた。並の魔物なら聞いただけで消滅しそうなドラゴンの咆哮が氷山の檻という特殊な密室の中にこだました。


 しかし見えている景色は変わらない。結界の内部には先程よりも樹が増えていて、十二本の樹が生えている。土鎧のツリーマンも健在である。ライムが回転して尾を結界に打ち付けた。しかし先程までの手応えと違って逆にライムの結界が押し返された。



 ライムは自分が一手間違えた事を一瞬で理解した。ライムは慌てて押し返そうとするが結界の強度がギリギリで技を繰り出す余裕がない。ツリーマンの結界内部の樹が成長し、一本の大樹となってライムの結界にぶつかった。ライムの結界が破壊された。




『ああ、私が殺されていく。圧倒的な力の前に戦士達が散っていく……』


 モブ美は恍惚とした顔で戦いを見守っている。


『私はなんて弱いんだ。なんて戦いは残酷なんだ。尊い、全ての犠牲が尊い』


 モブ美が作り出したツリーマンが少しずつ殺されていく。忍者エルフも戦闘に参加しているが本気を出さずにモブツリーマンと同等の力で戦っている。一見ではライムが健闘しているように見えるが倒せているのはモブ美の出したモブツリーマンだけだった。


 モブ美さえ生きていれば魔力が続く限りモブツリーマンをすぐに呼び出せる。忍者エルフはモブツリーマンに混じってライムの魔力を徐々に削っている。モブ美のお陰で忍者エルフは安全に戦えている。モブツリーマンはデコイの役目を果たすと共に戦いに偽りの臨場感を与えている。


 これが少数の圧倒的実力を持った忍者エルフと戦っている場合はライムも戦い方を変えてきただろう。今のような時間と魔力をじわりじわりと削るような戦いにはならかった。モブ美が場を整えたお陰でライムだけが大きく消耗し、エルフ側はモブ美の魔力が少々減っただけだ。


 モブ美はモブ美で今の戦闘を楽しんでいる。戦いは信念のある者同士が戦ってこそ意味があるとモブ美は常々思っている。魔物や魚、樹海の樹等は喰う為に戦っているのでモブ美の好みには合わなかった。食べる為の戦いはただの生存競争でしかない。


 それでは駄目なのだ。信念を持って強敵と戦い、散っていくのが美しい。戦いにはストーリーが必要なのだ。モブ美はマサモリに着いて来て正解だったと興奮しながら思った。人は一人一人がストーリーを持った唯一無二の存在だ。だがそれでも戦場ではあっけなく散っていく。


 人の価値の大きさとそれが湯水の如く消費される矛盾。だから美しい。モブ美は壮大な物語のほんの数行でしかない光景を目に焼き付けた。



 だが楽しい時間程あっという間に過ぎ去っていく。ライムが勝負を決めに来るという事はこちらも勝負に出なければならない。


 ライムの攻撃でモブ美や忍者エルフを守っている結界が破壊された。壁役の土鎧のツリーマンが死に、結界の基点にしていた六人のツリーマンも砕けた。モブツリーマンがすぐに結界を張り直したがこれ以上は危うい。


 モブ美は死んだツリーマンを再召喚して一気に反撃に移った。死んだはずの土鎧のツリーマンや六角形に配置したツリーマンが再び現れたのでライムは幻術を疑ったようだ。魔力が籠められた咆哮が響いたがモブ美の魔法は幻術ではないので打ち消せなかった。


 モブツリーマンは使い捨て出来る儚い存在である。本来は使い捨てにしながら数で押すのだがそれでは唯の召喚魔法使いと一緒だ。人である部分を最大限に利用してこそモブエルフなのだ。



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