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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
133/211

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「母さん!」


 シュドラはピュルムの部屋に駆け込むように入った。


「こほっ、こほ。シュドラ、病気が移るから離れなさい」


 ピュルムの容態が突然悪化した。今までは小康状態を保っていたピュルムだったが全身が裂かれるような痛みに脂汗が見じみて出ている。


「そんなっ、俺は大丈夫だ」


 シュドラはピュルムに魔力を譲渡した。他人が譲渡するには訓練をしないと譲渡効率が激減する。しかし親と子なら効率がそこまで落ちない。特にピュルムの病気は謎の奇病で他者からの魔力譲渡にも強い拒絶反応が出た。


 病で弱っていても外から魔力を与え続ければ強靭な肉体を持っている竜人ならばそれだけで病を克服できる。シュドラはピュルムの手を握って魔力を分け与えた。


「シュドラ、病気が移ったらどうするの。お願いだから離れて」

「嫌だ」


 シュドラは短い休憩を挟みながらも三日三晩看病に明け暮れた。



「シュドラ、聞きなさい」


 シュドラが長い看病に疲れ切って舟を漕いでいるとピュルムは弱った状態とは思えない凛とした声でシュドラに語り掛けた。


「私の人生は病気との戦いでした。でもあなたという子供を授かれて世界で一番幸せです。私の子供になってくれてありがとう。あなたも幸せになってね」

「母さん!」


 ピュルムの体から力が抜けた。ピュルムの魔力が霧散していくが手を握っているシュドラには手を取るように分かった。シュドラは賢明に残り少ない魔力をピュルムに送り込んだ。しかし散りゆく魔力を留める事は出来なかった。ピュルムは寝顔は穏やかに微笑んでいた。




 シュドラは声を押し殺して泣いた。シュドラが目を覚ました時、体を包む倦怠感と全身の痛みを覚えた。その日からシュドラの闘病生活が始まった。


 ピュルムの葬儀はひっそりと執り行われた。そこにはやせ細って眼光だけが鋭くなったシュドラも同席していた。シュドラは自分が病にかかった事を誰にも教えていなかったが、ライムにだけは一目で看破された。


「そんな、こんなことって……」

「俺は大丈夫です。ライムさん」

「私が無理やり止めておけば良かった」


「いえ、これは俺の命を賭けた決断です。こうなると分かっていても同じことを必ずしていました。母の最期の声を聞けて良かった。それが無ければ俺は自分を許せなかったでしょう」



 ライムは極秘裏にシュドラの治療をしたが、効果は薄かった。それでもなんとか小康状態まで持ち直せたのは幸運だったのだろう。しばらくするとシュドラは数人の付き人と共に竜人郷から姿を消した。




 シュドラが変身した炎のドラゴンとラスターの変身した光のドラゴンの戦いは続いている。しかしシュドラの魔物化特性である疫病攻撃がラスターには全く通じない。ただでさえ能力差があるのに疫病攻撃が通じないとなるとシュドラに勝ち目はない。


 シュドラが鎧通しを打ち込んだ。しかし経験豊富なラスターは危険な攻撃をしっかりと防いだ。シュドラの攻撃は通じないがラスターの攻撃は全てシュドラに通じる。それでもシュドラは工夫しながら戦った。だが地力の差は大きく、シュドラの魔力は尽き始めた。


「この程度か。もういい」


 ラスターは大きく吸い込むと今までで最大の光のブレスを吹いた。光のブレスは氷山に囲まれている一帯を包み込んだ。マナスとゾグルがその余波で吹き飛ばされ、気を失った。


 シュドラは何度もブレスを受けていたお陰でブレスの衝撃の反響が一番少ない場所を見つけていた。それでも体全体に浄化されるような燃える痛みが走った。朦朧とする意識の中それでもシュドラは諦めずにラスターを睨みつけた。


『お前の特性は疫病ではない。強すぎる免疫能力が自分自身を傷付けていただけだ。お前の一族が命を削って受け継いできた特別な特性だ。自分の一族を信じろ。お前が一族から受け継いだものは祝福だ。お前の特性は正しい認識の元、呪いから祝福へと変わる。敵を殺す技ではない。人を守る技だ』


 朦朧とするシュドラの頭の中に言葉が焼き付けられた。しかし朧げにしか理解できない。ただ祝福という言葉だけがシュドラの胸の内を暖かくした。


 ラスターが止めとばかりにブレスを放つ。


『光による攻撃を防げ』


 強い言霊がシュドラを反射的に動かした。ラスターのブレスが届く前にシュドラの体が一瞬で黒焦げになった。ライムが慌ててシュドラに駆け寄ろうとしたがラスターが目で止めた。黒焦げに見えたシュドラだったが良く見ると鱗の一枚一枚が黒くなっただけだった。


 さらに良く観察すると鱗の中に小さい黒い球がびっしりと規則正しく並んでいる。離れてみたら唯の黒い鱗だ。ブレスを浴びたシュドラだったが不思議な事に無傷のようだ。


 シュドラがけだるげに口を開けた。そこには先程のシュドラのブレスとは比べ物にならない魔力が集まっている。シュドラがブレスを吐いた。ラスターは刮目して光の結界を展開してシュドラのブレスに自分のブレスで迎撃した。


 シュドラが放ったブレスはラスターのブレスと同じで光り輝いている。そしてシュドラの光のブレスはラスターのブレスと結界を破った。ラスターに光のブレスが直撃した。ラスターの鱗に当たったブレスは鱗一枚一枚によって反射されたが受け流しきれなかった熱がラスターの鱗を溶かした。


 シュドラはブレスを放つと気絶して倒れ込んだ。ラスターの焼かれた鱗が一瞬の内に回復する。しかしラスターの顔には驚愕が浮かんでいる。ライムも状況を把握できずに困惑している。




 気を失ったはずのシュドラの体が動いたのとラスターとライムの影に苦無が刺さったのは同時だった。しかしラスターの影が一瞬光ると苦無の能力は無効化された。シュドラはマナスとゾグルが倒れている所に投げられた。


 ライムは金縛りにあって動けない。ラスターはシュドラを投げた男を殺意を籠めて睨みつけた。数瞬後、ライムの影から無数のつららが生えて苦無を弾き飛ばした。ライムは上空へ飛ぼうと大きく羽ばたいた。しかし上空へ到達する前に見えない壁にぶつかって落下した。


「何者だ!」


 ラスターが咆哮をあげた。ラスターの目の前には先程自分が倒したはずのツリーマンが居た。その体は小さくなっているが内包する魔力は健在だ。ライムの周りにも無数のツリーマン達が現われた。




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