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ライムは竜人王ラスターの正妻でラスターに意見を言える唯一の人物である。ライムは階級を笠に着ない人柄であったので竜人族の学校で出会ったピュルムと友達になった。ピュルムは常にライムを立てていたが階級差を考えると当然だった。
それでもライムは病弱なピュルムが心配で実の姉妹の様に目をかけていた。そしてライムはピュルムの今後の事について心を砕いていた。学校にいる内は生徒なので学校から薬が貰える。しかし結婚したらその負担は夫へと向かう。
中級竜人には高すぎる薬だった。だからと言って無理やり上級竜人の妾に押し込めても下級竜人のピュルムが上手くやっていけるか危うい所だ。上級竜人の妾となると普通は最低でも中級竜人でなければ妾にもなりにくい。ピュルムはそのうえ、病弱というハンデを抱えている。
上級竜人に下級竜人の女性が嫁げる場合もある。しかしそういう場合の大半は強い子供が生まれなくて尻に火が付いた上級竜人の一族だ。とにかく数を増やして優秀な子供が生まれるのを願うと言った塩梅だ。そういった所では下級竜人の妾の扱いは悪い。
病弱なピュルムが上手くやっていけるかライムは常に不安に思っていた。ピュルムは美しく、穏やかな性格だった。下級竜人の中では魔力が優れていたのだが持病のせいでそれを生かしきれなかった。
そこでライムは閃いた。ライムは竜人王ラスターの妾になる事が決まっていたのでピュルムも一緒に押し込めないかと。ライムはその案をピュルムに話したがピュルムは困った笑みを浮かべるばかりだった。ライムは一念発起してラスターへと話しを持ち込んだ。
普段ならそんな思い付きの行動が上手く行くわけがない。しかしライムが上級竜人でも上位の一族であったのと学校に在籍している時点で既に強者だった事から話しが通ってしまった。ピュルム本人もまさか自分が竜人王の妾になるだなんて思ってもいなかったので大層驚いた。
ライムはその後もさらに力を付けていき、遂には誰もが認める存在となった。ライムが竜人王ラスターと結婚する頃には本妻と認められた。そうなるとピュルムの扱いも良くなり、病で死ぬばかりだと思っていたピュルムにも平穏が訪れた。
ピュルムは生活に満足していた。下級竜人の自分が竜人王の妾になれたのは一族にとって名誉でもあるし、以前よりも優れた環境で治療が受けられた。ピュルムの病は治らなかったが小康状態で落ち着いていた。
結婚して数年が経過した。ライムとピュルムは同じ年に子供を身籠った。人口が少ない竜人族では子供の誕生は何よりも喜ばれる。特に竜人王の子供なら最低でも中級竜人、ライムの子供はきっと上級竜人だろうと期待された。
ライムはその期待に応えた。ライムの子供は男の子で体に一枚の仄かに輝く鱗を持って生まれた。最初に生えている鱗は逆鱗と呼ばれ、竜人族の弱点でもあるが力の源でもある。逆鱗にはその竜人の本質が映し出される。
竜人王ラスターは竜人族でも最高の光鱗と呼ばれる光属性の鱗であった。光鱗は最も硬度が高く、光のブレスは不浄をかき消す。火属性の上位属性だと言われている。光の結界は耐魔性が高く、毒に強い。ライムの子供はラスターには劣るが仄かな光を帯びていた。
光と他の属性、性質が混ざり合った特性なのだろう。属性が混じりあっていると対応できる範囲が広がるので一般的には強いとされている。しかし光や闇属性だけは強属性で他の属性と混ざらない方が強力だ。
光属性を受け継いだ子供の誕生に親族のみならず国民全体が歓喜の渦に包まれた。竜人王ラスターには多くの妾が居たが光属性を継いだのはライムの子供のみだった。一部の竜人族の女性の中にライムを崇拝する者も現れた程だ。
ライムはその強さと光属性の子供を数年で産んだ事で竜人族の宝であると、まことしやかに囁かれるようになった。
ライムとは少しずれてピュルムにも子供が生まれた。子供、シュドラは真っ赤に燃える鱗を持って生まれた。ライムの子供に比べると劣るが中級竜人の中でも上位に喰い込める鱗を持っていた。
今までピュルムはライムの付き人、おまけ扱いだったが健康な子供を産んだ事で評価が見直された。特に竜人王ラスターはその強さ故に子供が生まれにくかった。
十数年から数十年間、子供を授からない妾も居た。子供が生まれたピュルムは後宮から別邸へ移った。子供が生まれた妾は別邸に移されて今までよりも一段上の立場に置かれる。そこで子供は最高の教育を受ける。
シュドラは小さい頃から優秀な子供だった。鱗の格は落ちるが上級竜人の子供相手にも負けなかった。シュドラは竜人族の社会が弱肉強食だと理解していたので懸命に修行に励んだ。ひとえに病弱な母の為だった。
シュドラが強くなればなるほど、ピュルムは評価された。ピュルムはそんなシュドラを見て、いつも無理しなくてもいいのよと優しく微笑んだ。シュドラは満ち足りていた。そのうえ、自分が強くなるだけで母の為になる。
ピュルムは下級竜人の出だったし、病弱だ。裏で母の悪口を言う輩が多数居る事もシュドラは気が付いていた。だから力を求めた。ライムは実の母の様にシュドラを愛してくれた。シュドラが頑張れば母の地位も安定するし、推薦したライムの功績にもなる。
それにシュドラとしても日々の鍛錬で強くなっていく感覚は楽しいものだった。シュドラは強くならねばという思いもあったが、強くなれる才能と強くなるのを楽しめる性格だったので日々の鍛錬は重荷ではなかった。
成長するにしたがってシュドラはメキメキと頭角を現していった。上級竜人の子供は成長すると付き人を親から与えられる。竜人族は個体としては最強だが全てを一人で出来る訳ではない。竜人族は戦いと鍛錬に集中できるようにその他の雑務を遂行する付き人を多数抱えている。
上級竜人は仕事を使用人に任せてほとんどが己の力を研き続けている。中級竜人は自分で生活費を稼がなければならないので実力差は広がるばかりだ。シュドラのドラゴンとしての特性は中級竜人並であったが竜人王の子供なので付き人を雇う費用を竜人王が負担してくれる。
しかし下級竜人族で病弱であった一族は付き人とは無縁の生活をしていたので伝手が全くなかった。そこでライムが気を効かせ、付き人を集めてくれた。付き人は主と共に成長し、使用人となって主に仕える。優れた主の付き人になれれば一生安泰と言っても過言ではない。