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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
13/211

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 出発の日が来た。


「マサモリ、お前に渡す物がある」


 マサモリはヒデヤスから小さなお守りを受け取った。


「ありがとう」

「がんばってくるのよー」

「おーいおい、儂もマサモリに着いていくー」


「駄目ですよ、爺さん」

「行ってきます!」


 出島予定地へと向かう日となった。広場には朝も早いのに見送りの人だかりが出来ている。背負子に大きなつづらを付けた歩荷達の中に一際目立つ男達が居た。


「博士。準備は大丈夫?」

「おう、坊主。昨日はワクワクして眠れなかったわい。もし樹海で貴重な物質が見つかったら必ずわしに見せるんじゃぞ」


「わかってるって。向こうに着いたら好きなだけ自由にしていいから道中はちゃんと言う事聞いてよ」

「わしだってそれくらいはわかっておるわい。けど貴重な石があったら飛び出しちゃうかも」

「博士には紐を付けておいた方がいいかもしれない……」


「殿! おはようござます!」

「おはよう。今日からよろしく」

「「「はっ!」」」


 ダンジロウは二十人の部下を引き連れて誇らしげに笑った。部下も魔力を見れば若いエルフばかりだ。完全武装しているがそのほとんどが安っぽい。しかしそれに負けない熱気があり、目は光り輝いていた。 


 マサモリは彼らを見て、自分は仕事をやり切る事ができるのか一瞬だけ不安になったが彼らと握手をしている内に俄然やる気が漲った。彼らの周りには知り合いが集まってきて新しい門出を祝った。


「ダンジロウや。頑張っておいで」


 ダンジロウが野良着姿の両親と両手をきつく握り合っている。完全武装のダンジロウに比べると野良着の両親はとても小さく見えた。


「本当に武者エルフになれるなんて思ってもみなかった。体に気を付けてな」

「おっとう、おっかあ。行ってくる」


 そこかしこで同じ光景が見られた。


 歩荷達は慣れているだけあって準備は既に万全のようだ。石像を上手い具合にまとめてがっちりと縄で固定している。


「よし、揃ったようだな。マサモリ頑張ってこい。でも駄目だったらみんなでさっさと逃げてきていいからな」

「わかった。いってきます!」


 マサモリが一人一人に結界をかけ終わると開拓団全員が強化魔法を使った。そしてダンジロウを先頭にして歩荷を守るように開拓団は進み始めた。ボタンは一人で先行し、配下の忍者が開拓団の外側に配置されて周辺を警戒する。



 魔白雀のハクが一行の上空をゆっくりと飛んでいる。小さい頃からダンジロウと一緒に育ったハクはダンジロウと契約する事で魔力の補給回路を得た。今では強化魔法を自由自在に操れるようになった。


 ハクはダンジロウが浪人時代から上空からの索敵を担当していてダンジロウがハクの視界を見る事も可能だ。肉体派ばかりのダンジロウの集まりには欠かせない探索役だ。


『今回は移動を優先するから魚避けを積極的に使う。樹海に入ったら以後は念話で話すように』


 念話からもダンジロウの緊張が伝わって来たがそれを笑う者は誰も居なかった。


『忍者は先行して地面に潜む貝や木に擬態した生物にマーカーを付けるのでマーカーがある場所には近づかないでください』


 進行方向にはボタンが設置したマーカーが薄く光っている。


『我が道を指示する。特別な事がない限りは従うように』 


 サビマルはいつも通りに偉そうだ。


 開拓団が道を進むと池に小石を投げたかのように魚達が逃げて行く。魚避けは魔クジラの出す声を模した音を出す袋で知らない人が見れば皮製の小さな水袋に見えるだろう。


 それに魔力をのせて音を鳴らす。魚が逃げるようになるまでは結構な鍛錬が必要だが樹海を歩く時には必須の道具といえよう。



 マサモリが向かう小笠原村跡地までは水深の浅いプレートが流れているがすぐ近くには深いプレートが蠢いている。浅い場所なら魚避けが通じるし、もし魔物や巨大魚が出てきても対処できる。

しかし深いプレートの敵性生物は強力で少人数の開拓団では対処不可能だろう。


 軍師のサビマルは刻々と移動し続けるプレートの中から小笠原村までの安全なルートを探し続けている。深いプレートから大物が迷い込んでくる場合もあるので注意が必要だ。


 軍師の一族はエルフ史上最高の軍師と呼ばれた初代からその能力を引き継いできている。その為、魔力は普通のエルフに劣るし複雑な魔法を使いこなすのが困難だ。軍師としての能力に力の大半を費やしている。


 軍師の能力を継承し続けた結果、戦闘だけに関わらず多くの経験を積んで汎用性の高い能力となった。最近では占い師と同じ役割をこなす事も増えてきた。その汎用性で樹海での水先案内人にもなれる。


 しかし能力を使いこなせるかどうかは個人次第である。最近では戦自体が無い為、戦の才能があるのか無いのか誰も判断できなくなってしまった事が最大の問題点となっている。


 知識を溜め込めば溜め込むだけ軍師能力も向上するので軍師は常に様々な事を学ばなければならない。今回のサビマルの派遣は道案内に留まらず、樹海の情報の獲得にある。



『博士。気を付けてくださいね』

『大丈夫じゃ。わしが何度フィールドワークをしてきたと思っておるのじゃ。わしは博士じゃぞ?』


 助手の一人が博士に声をかけた。


『ぬあ』


 それが不味かったのかもしれない。つい反論してしまった博士は注意力が散漫になって躓いた。そしてマーカーのある場所を踏みつけてしまった。


 博士の足をレイピアの刃のような物が突き抜いた。そのままバランスを崩して前に倒れそうになる。助手が慌てて博士の手を握って転倒を防いだ。


 だが倒れ込んだ先には魔ウニが居た。近付いて来た博士に向かって魔ウニが大量の棘が噴出した。魔ウニは獲物が一定の範囲内に入ると棘を噴出するのだ。


 博士に棘が到達する前に薄い結界が出来て飛んでいる棘を一瞬止めた。しかし棘は先端の部分だけが切り離されて結界を突き破って博士へと飛んだ。武者エルフは棘が博士に当たる寸前に刀で払った。


 他の武者エルフが博士の足を貫いてうねって傷を広げている物を切り裂いた。すると残ったレイピアの刃のような物はすぐに地に潜った。


『いたた。マサモリ回復じゃ。はよう』


 マサモリは周りを注意しながら回復へ向かう。靴を脱がせて傷を回復させると血を水魔法で洗い流す。


『血の匂いで他の生物が集まってくる前に少し駆け足』

『博士、気を付けてって言ったのに……』


『違う。気がそれたのじゃ。わしは悪くない』

『貝とウニか。ウニがもう少し大きかったら喰いたかったなあ』


 マサモリはウニの味を想像して生唾を飲んだ。


 基本的に魔力が多い程、美味しい。味覚的なものだけではなく魔力も食べているからだ。ウニは身を守る時や餌を取る時に棘を飛ばしたり伸ばしたりする。


 特に棘を大量に飛ばすと魔力の消耗が激しい。そういう行動を取ると魔力が減って味が落ちてしまう。食用に狩る時には魔力を使わせずに最速で狩るのが食材の味を保つ秘訣である。


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