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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 しばらく暴れ回ると 城壁都市ラギドレットの抵抗が少しずつ弱まってきた。マサモリ達が穴を開けて侵入した結界が解除された。これで城壁都市ラギドレットを守る二つの結界が消えた事になる。突破された結界は放棄して次の結界の防衛に集中するようだ。


 マサモリが城壁を壊したので結界で守る必要が薄くなったのも原因だろう。少数の大砲が復帰してマサモリ達を狙って放たれた。しかしマナスの結界を破壊するには数が足りなかった。


 それでも結界の強度はかなり削られているので頻繁に結界を張り直す。魔力の消耗を抑えて戦っているシュドラとゾグルとは違って結界は生命線なので手を抜けない。シュドラとゾグルは騎兵隊や中核となる練度の高い部隊を優先的に狙った。


 大砲等と違って補充に時間がかかる熟練の兵士達を倒していたようだ。何も考えていなさそうでちゃんと考えているんだなとマサモリは感心した。都市を守る中核となる兵を削ればすぐに魔人軍に攻撃してくる事はないだろう。


 回復に時間がかかれば、他の都市を襲った時に援軍を渋るかもしれない。贅沢を言えば都市を守る結界魔法使いを減らしたかったが結界魔法使いは都市の中心部に穴熊を決め込んでいる。後三つある結界を超えるのは魔力の残量的に厳しい。


 無理やり押し入ったら帰りの魔力が無くなる。という事はないがあんまり頼りにされすぎても困る。結界を一個超えただけでも破格だと思って欲しいとマサモリは思った。好き勝手に暴れ回っているマサモリ達であったが兵士達は驚くほどに優秀で油断出来ない。


 要所要所でマナスが結界を張っているという事は逆にいうとそれだけ有効打の可能性があった証だ。押しているようで気の抜けない戦いが続いた。そして遂にマナスの持つ魔石が半分を切った。


「そろそろ帰還するか。第四結界が消えたから帰りは楽だぞ」

「ぐはは、中々暴れたな。だがこの程度ではラギドレットにとっては軽傷だ。大した都市だ」


「シュドラ様の判断に従います」

「良い物が拾えたから俺も満足だ。このエルフの表情、最高だろ? 勝っている内に引く。それが一番だ」

「よし、引くぞ!」


 マサモリ達は各々強力な魔法を撃ち放った。そして反撃が来る前にさっさと城壁都市ラギドレットから撤退した。都市の外は先程の魔法で再び沼地に戻っている。マサモリ達は沼地の上を軽やかに駆け抜けた。




 すると北の空から魔力を感じた。矢の様な細い氷のつららがマサモリ達の前方に突き刺さった。すると氷の矢は一瞬で天を衝くかの如き山となった。氷山は瞬く間にマサモリ達を包囲した。氷山に囲まれると場の魔力傾向が変わった。体の芯を凍らすような寒さがマサモリ達を襲う。


「これはまさか!」


 シュドラとマナス、ゾグルが一瞬で臨戦態勢になった。マサモリは何の事だか分からないが、三人の様子から相手が誰であるか分かっているようだ。正面の氷山に十メートルを優に超える一匹のドラゴンが舞い降りた。氷の結晶を集めた様な鱗が光を反射して輝いている。


 しかし氷のドラゴンからは不思議と敵意は感じられない。その瞳に害意は無く、悲しみと憂いが満ちている。氷のドラゴンから放たれる魔力は巨大で濃厚だ。威圧されるような魔力量だが、魔力は静寂に包まれていて強者特有の驕りが全く感じられない。



「ライムさん……」

「ごめんなさい、シュドラ。竜人王があなたの帰還を望んでいます」


 ライムと呼ばれた氷のドラゴンとシュドラは静かに見つめ合った。二人の関係が分からないマサモリには彼らの眼に浮かぶ感情が上手く読み取れなかった。怒り、悲しみ、恨み、そして仄かな喜び。様々な感情が混ざり合った複雑な表情だ。


 そんな二人に割り込むかの様に空からもう一体のドラゴンが氷山の上に荒く降り立った。光り輝くのドラゴンが強い覇気を纏ってマサモリ達を睨みつけた。氷のドラゴンに比べるとその体に纏う魔力は太陽の様に輝いている。


 体の大きさも氷のドラゴンの二倍以上だ。しかしその光は弱者を焼き殺す光だ。圧倒的な魔力で相手を屈服させる事に慣れている上位者の佇まいである。マナスとゾグルはその魔力に気圧されてしまった。


「シュドラ、竜人郷に戻る事を許可する」

「断る……」


 シュドラは今までに見た事がない程、追い詰められた表情をしている。マナスは拳を強く握りしめ、拳からは血が滴り落ちた。光のドラゴンの魔力が膨れ上がった。常人が受けたら死ぬ魔力圧を感じ、シュドラの顔から血の気が引いていく。


「これは命令だ」

「シュドラ、お願い。郷に戻って」

「お前の意思など、関係ない。それとも抗ってみるか?」


 光のドラゴンがシュドラを見下しながら言い捨てた。光のドラゴンからすればシュドラの返答などどうでもいいのが傍目からでも分かる。抵抗しても力付くでシュドラは連れ去られるだろう。深呼吸をしてシュドラが言葉を紡いだ。


「父上、私は既に魔物化した身。そしてこの体を蝕む病気も癒えていません。郷へ帰れば他の竜人に迷惑をかけるでしょう」

「愚かな。お前の虚言などお見通しだ。お前の呪われた血にも利用価値があると言ってやっているのだ。大人しく戻るのならそのゴミ同然な使用人達の命を奪わないでおいてやる……」


「……ッ。分かりました、大人しく竜人郷へ戻ります」

「ごめんなさい、シュドラ……」


 氷のドラゴンが安堵と悲しみの満ちた声で呟いた。


「俺は一族が居るので行きません。シュドラ、短い間だったが世話になったな」


 マサモリがそう言うとマナスが驚愕に目を大きく見開いた。光のドラゴンは初めてマサモリに注意を向けた。そして目を見開いた。シュドラとゾグルがマサモリの前に立ち塞がった。二人の全身を一瞬で炎が包み込んだ。


「えっ、これだけで殺されるの?」

「サーモ、逃げろ!」


 マサモリは地面を強く踏みしめた。地面を掘って逃れようとしたが深い所まで鋼のような硬さの氷になっている。地下から脱出するのは不可能だった


 次にマサモリは全力で踏み込んで氷山を超えようと飛び上がった。しかし氷山は一瞬で大きくなるとマサモリの行く手を塞いだ。氷山に触れたマサモリの体は触れた部分から順に氷漬けになっていく。全身が氷漬けになるとマサモリの体は氷山から転がるように落下した。


 落下しているマサモリの氷像に向かって光のドラゴンはブレスを放った。



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