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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 勝利を確信したベヒモスは騎獣に攻撃対象を絞った。ベヒモスの思考が戦いから狩りへと移行したのだ。


「撤退!」


 騎士から撤退の指示が出た。ベヒモスの討伐は失敗した。後はどれだけ犠牲者を減らせるかだ。しかし部隊は満身創痍で大半の者が騎獣を失っている。都市のある東側には生き残っていた魔物達が大砲の攻撃を警戒して壁を作ったままだ。


 騎兵隊は魔物の壁がない西側へ向かった。だが魔物達は彼らを簡単に逃す気はない。ベヒモスは勝利の余韻に浸りながら騎兵隊が運んで来た戦利品、アイアンブルトンにかぶり付いた。しかしベヒモスが二口目に喰らい付こうとした時、目の前が炎で埋め尽くされた。




「不味いな……」


 シュドラは呟いた。


「ここに来て急激に学習が進んでいる。ラギドレットが落ちるのは別に構わない。しかしベヒモスがこれ以上強くなるのは見逃せない。本来はラギドレットが落ちるまで静観しようと思っていたが大量の餌を運ばれたのは痛い。無理な力押しが仇となったな。だが、ラギドレット側からすると仕方ないか……」


「どうする? 俺は戦いたい気分だ! 水鉄砲の借りをさっさと返したいぜ!」

「シュドラ様にお任せします」

「回復したら厄介だな」


「最近は運動不足だったからな。殺るか」

「おう!」

「はい!」

「わかった」




 四人はベヒモスが騎兵隊の死体に喰らい付くのを待って攻撃を開始した。騎兵隊の死体を喰らい尽くされたらベヒモスは回復してしまう。それはさっきベヒモスが魔物人を喰らって回復した事から理解できた。


 人の死体はまだしもアイアンブルトンは魔力と栄養の塊である。アイアンブルトンや大蜥蜴は人に換算すると十数人分以上の栄養を蓄えている。ただ、いくらベヒモスでも鋼鉄の肉体を消化するには時間がかかるだろう。それでも最高の餌である事は変わりない。



 シュドラは二口目を口にしようとするベヒモスに向けて特大の火球を放った。爆発よりも燃焼力に魔力を注いだ火球は騎兵隊の死体を燃やし尽くした。ベヒモスは目の前の餌が燃やし尽くされた悲しみの金切り声をあげた。そしてすぐさま黒い結界を展開した。


 そこへエント化したマサモリが吸魔石を全て打ち込んだ。黒い結界に吸魔石がぶつかる。しかしあっさりと受け止められた。マサモリは腕を巨木化させて黒い結界にぶつかっている吸魔石を押し込むように殴った。


 エントと化したマサモリの口から魂を凍えさせるような絶叫が漏れ出た。ベヒモスも結界の内側からマサモリの攻撃に合わせて体当たりをした。マサモリとベヒモスの攻撃が均衡した。だがその均衡は刹那で破られた。衝撃と共にマサモリは枯れ木の様に数十メートル吹き飛ばされていった。


 だがベヒモスの結界も無事では済まされなかった。ベヒモスが纏う黒い結界はマサモリを吹き飛ばすと同時に亀裂が走り、砕け散った。体を鋼鉄で覆ったゾグルがベヒモスの足に向かってさすまたを突き刺した。


 シュドラは動きが制限されたベヒモスの尾を燃え盛る両手剣で切り落とした。ベヒモスが怒りの悲鳴をあげた。魔力を頭部の角に集中していたマナスが尾に出来た傷口に向かって雷を打ち出した。


 ベヒモスが一瞬痙攣した隙にシュドラは再び斬りつけた。だがベヒモスの胴体は硬く、浅く傷つけた程度で終わった。


「硬いな」

「ぐはは。サーモ、吹き飛ばされてらぁ!」

「戦いに集中しろぉ!」

「「はい」」


 マナスが怒鳴りつけながら結界を張った。ベヒモスはゾグルのさすまたを力づくで抜き、シュドラへ襲い掛かった。尻尾を切られた事がベヒモスのプライドを傷つけたのだ。


 シュドラはベヒモスの攻撃を回避しながら斬りつけた。しかし浅い踏み込みではベヒモスに致命傷を与えるには全く足りない。回避できたのもマナスの結界が一瞬だけベヒモスの攻撃を受け止めたからだ。結界は一瞬で壊されたが十分な成果を挙げている。


 マナスはすぐに結界を張り直した。マナスは周りから襲い掛かってくる魔物や魔物人と戦いながら時折ベヒモスへ雷を放った。最初の内は一瞬痙攣していたベヒモスであったが数度喰らうとほとんど痙攣しなくなった。


 マナスはそれを自覚すると周りの魔物との戦いとシュドラへの援護のみに集中した。戦場にエントと化したマサモリの怒声が響いた。



 マサモリは盛大に吹き飛ばされたのが少し恥ずかしかったので怒った振りで戦場に舞い戻った。マサモリが大きく振りかぶった巨腕をベヒモスに叩き付ける。ベヒモスの顔が痛みに歪んだ。マサモリの巨腕の中には石包丁が埋め込まれ、刃が埋め込まれた棍棒の様になっている。


 腕を巨大化させればさせる程、刃に集まる力は増す。ベヒモスはシュドラとマサモリを優先すべき敵だと判断した。ベヒモスがマサモリに襲い掛かる。ベヒモスの前脚がマサモリの巨腕を切り裂こうと振るわれた。


 ベヒモスの前脚がマサモリの巨腕にあっさりと潜り込んだ。しかし芯にある石包丁に当たると攻撃が止まった。切り裂かれた木の部分はすぐに再生した。


「ゾグルはシュドラを!」


 マナスの指示が飛んだ。ベヒモスがシュドラに攻撃しようとするとマナスが結界を張り、ゾグルが体全体を使って防ぐ。結界はベヒモスの攻撃の度にあっさりと破壊されるが衝撃を吸収する為に使われている。結界を張らなければベヒモスの攻撃を受けたゾグルが致命傷を負いかねない。


 シュドラに注意が向くとマサモリが背後から攻撃を加える。マサモリにベヒモスが攻撃をすると、逆にシュドラが攻撃する。マサモリが攻撃を受けた場合は再生に暫く時間がかかる。上手い具合にダメージを分散させながらマサモリ達はベヒモスを徐々に削っていった。


 ベヒモスは怒りで判断能力が低下して敵の目の前で水弾を放とうと口に魔力を集めた。しかしすぐさま三人が肉薄して魔力の集中を妨げた。大穴が大きくなるとベヒモスが動きやすい空間が出来てしまう。


 ベヒモスは体力が回復したら、さっさと大穴を抜け出して大砲が届かない西へ移動するべきなのだ。しかし戦いの連続でベヒモスはその事に気が付いていない。それをさせない妨害はしているのだが水弾を打たれるとその企みがパアになる。


 とにかくベヒモスに考える時間を与えない。


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