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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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ベヒモスの誘導が成功して巨大な足音がこちらへ向かってくるのをマサモリは感じ取った。それと少し東側に小さいが力強い踏み込みを二人分感じた。


「数は二人。鳥は離れた場所で俺の戦いを見ているんだ。無理に前に出ると殺されるぞ」


 マサモリは地面から手を抜いて接近する者に向かった。小さな木ばかり生えている森はマサモリにとっては不慣れだった。曲がりくねった木々の間を音をたてないように走る。目標が近くなるとマサモリは腕から枝を二本生やした。そして枝を撃ち放った。


 枝は一瞬で目標に到達した。そして爆発するように辺り一面を根で覆い尽くした。目標となった男は枝を避けたが、枝はすぐに爆発して根が男を捕らえようとした。


 魔力をそれなりに練り込んだつもりだったが根の繁茂は男の強化魔法を貫けなかった。しかし体全体を包み込む事に成功した。すぐさま男は火魔法を使って根を燃やそうとした。しかし体全体を覆う炎を纏っても根は焼けず、男は藻掻いたが根から抜け出せなかった。


 マサモリは少し離れた位置からそれを見ていた。炎で根を焼き切られた時の為に枝を追加で二本生やして打ち出す準備をしていた。しかしそれは不要に終わった。根は男の体全体を包み込んだ。男が酸欠で意識を失うと顔の部分だけを露出させ、口に根を潜り込ませ肺を押し込んだ。


 男はすぐに咳き込んで呼吸を再開させたが今度はマサモリの魔法によって眠らされた。二人の男を眠らせるとマサモリは男達を包み込む木の根に魔力を注ぎ込んだ。すると根は木となり、小さなトレントと化した。


「この鳥に着いていけ」


 マサモリはマナスの操るモズを指さしてトレントに命令した。指名されたモズは特に反応を示さなかったが少し経つと南へゆっくりと飛んだ。幹から人の顔を生やしたトレントはマサモリの指示通りにモズを追いかけて行った。トレントを見届けるとマサモリは東へと走った。


 既にベヒモスが近付いていたので地に根を張って音を探るには時間と距離が足りなかった。マサモリは走りながら簡易的な探索魔法を使った。東のかなり離れた場所に数人の気配を感じた。面倒だなと思いつつマサモリはそちらへと向かった。


 しかし突然後方のベヒモスから大きな魔力反応を感じた。マサモリはすぐさま自分の周りに結界を張った。次の瞬間、森を踏みつぶす重力波の様な水弾が放たれた。森は押しつぶされ、大地に大きなクレーターが出来た。


 そして周りの木々は衝撃で放射線状に倒れた。マサモリは冷静に索敵魔法を使った。付近にはベヒモスとマサモリ、そして少し反応の鈍ったゾグルの気配を感じた。離れた場所にいた気配も消えた事から先程の攻撃の広さと破壊力が窺い知れる。



 とりあえず埋まってそうなゾグルを掘り起こそうとマサモリはゾグルに向かおうとした。しかしベヒモスが咆哮をあげた。すると付近一帯に衝撃が走り、大地が揺れた。マナスの使役する使い魔はベヒモスの咆哮を浴びて地に落ちた。


 マサモリは拾い上げようとしたが既に事切れていた。マサモリは鋭い眼光が自らに当てられたのを察知した。ベヒモスに見つけられてしまったようだ。ベヒモスはその大きな禍々しい瞳をマサモリに向けるとマサモリに向かって一直線に走り出した。


 マサモリはゾグルが埋まってそうな位置をベヒモスが通らないように誘導したが助けている余裕はなかった。当初の計画とは違うがこのままマサモリがベヒモスを誘導しなければならない。マサモリは懐から魔石と取り出してゴリゴリと噛み砕いた。


 マサモリは超大陸に来てからは努めて魔力を隠している。魔力量からエルフだとバレかねないからだ。もしくは樹海から来た魔人の一種だと思われる可能性もある。ベヒモス位になると隠していてもマサモリの潜在的な魔力が理解できるようだ。


 ゾグルを追いかけていた時とは違い、ベヒモスは本気の追跡を始めた。湖をそのまま持ってきたような巨大な水弾がマサモリに向かって放たれた。マサモリは再び結界を展開して水弾の勢いを背に受けて東へ吹き飛ばされた。


 悠長に森の中を走っている場合では無くなった。ベヒモスがマサモリを完全に食い殺しに来ている。森を圧し潰す水弾もマサモリにとっては左程脅威ではない。ベヒモスは肉体的に強いタイプなので魔法は苦手だ。


 魔物化で頭が悪くなっているので離れた場所にいるマサモリに向かって魔法を使っているがベヒモスの本領はその体を使った近接戦闘にある。このまま魔法を使ってくれれば安全に消耗させられる。マサモリは森に姿を隠すのではなく、わざと姿を現してベヒモスからの魔法を誘った。


 マサモリは手を数多の枝の集合体に変えた。その手で周りの木を掴んで推進力を得る。マサモリの移動速度が上がった。ベヒモスの水弾に吹き飛ばされながら森の上を走っているマサモリは遠くに巨大な都市を見つけた。あの町がラギドレットなのだろう。


 そんな事を考えているマサモリに森の中から矢が放たれた。マサモリは結界を張るまでもなく、数多に分かれた枝で矢を払った。ベヒモスと追いかけっこを始めてから探索魔法は使っていない。もう意味のない行為だからだ。このまま森の上を走り切ってラギドレットへと誘導する。


 問題はベヒモスがラギドレットよりもマサモリを優先する場合だ。マサモリの隠している魔力を感知しているならその可能性の方が高い。どうにかしてラギドレットに釘付けにしなければならない。


 最大の都市というだけあってか中には多くのエルフが隠され、捕らわれている。ハーフエルフ達も同様だ。全員を回収するには相当混乱しないと不可能だ。出来ればハーフエルフ達も救いたいが忍者エルフが露呈するには絶対に避けなければならない。


 城壁都市ラギドレットは五重の城壁に囲まれている。今の魔人軍ではマサモリが手を貸さなければ最外殻部の城壁を越えられれば健闘したと言えよう。マサモリが見ても素晴らしい守りだ。その城門は固く閉ざされている。


 都市の封鎖に間に合わなかったと思われる人々が城門の前に群がっている。ベヒモスの襲来を察知したのかどうかは分からないが素早い対応だ。この対応を見ただけでも侮れない相手だと理解できる。都市が近付いて来るとマサモリに向かって放たれる魔法や矢が激増した。


 特に爆発する魔法は衝撃が広範囲に広がるので面倒極まりない。魔法の衝撃よりも足元の木が吹き飛ばされるのが何より面倒だ。木の上を走っていたマサモリは生い茂る木の葉の中に身を潜り込ませた。


 ここでも無数に分かれた枝を器用に使って推進力を得る。マサモリを撃ち落とそうとする者達がやけっぱち気味に広範囲に魔法を放った。


 しかしベヒモスの攻撃に比べるとそよ風のようなものだ。ベヒモスが水弾を放つと巨大なクレーターが作られ、マサモリ以外の生物は死に絶えた。


 数発撃って、魔法が効かないと分かれば普通だったら魔法を使うのを止める。しかしベヒモスにはそこまでの知性がないようだ。ベヒモスからは強い飢えと怒りが感じられた。


 城門に集まっていた人々は遂にベヒモスの襲来に気が付いた。そして蜘蛛の子を散らすように城門から離れていった。これまた素早い対応にマサモリは舌を巻いた。


 超大陸人の危険察知能力はずば抜けている。そういった人で無ければ生き残れなかったのだろう。マサモリは森を抜けて平原に飛び出した。今度は手を変身させた数多の枝を地面に突き刺す。変則的な四足歩行だ。

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