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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 マサモリ達が樹海を用心しながら進んだ。すると樹が思い出したかの様に枝をしならせて襲い掛かってきた。マサモリは強化魔法を強めて枝を払った。樹の枝が簡単に折れた。マサモリを襲った樹はすぐさま大人しくなって動きを止めた。


 他の場所でも樹は忍者エルフに襲い掛かっていた。忍者エルフがしつこく枝を伸ばして追いかけてくる樹の根元を土魔法で押さえつけた。そしてもう一人がその土魔法と地面に強化魔法を行使して地面をガッチリと固めた。


 樹が忍者エルフを追おうとするが足元が固定されているのでむずがる子供の様に幹を揺らした。だが移動できなかった。忍者エルフは変わらぬペースで進み続けた。


 樹海の樹は生存競争が激しいので自分より弱い者を見つけたら即座に襲い掛かってくる。樹海を移動する場合は常にそれを念頭に入れておかなければならない。


 弱みを見せると大人しかった樹も一変して襲い掛かってくる。樹は長年生きているだけあって賢いので強い相手には襲い掛かってこない。マサモリ達は客観的に見て樹よりも豊富な魔力と防衛力を持っている。


 普通だったら襲うはずもないのだがマサモリ達の魔力は非常に魅力的だし、そもそも人に慣れていないような印象が感じられる。エルフの森の近くの樹はエルフを見慣れているので襲い掛かってこない。


 しかし超大陸の付近の樹海は樹の反応が素直だ。樹がスレていない。普段釣りをしない場所で釣りをすると魚達は人の釣りという行為を知らないので入れ食い状態になる。その状態に似ている。


 砂漠を彷徨う者が突然目の前にオアシスを見つけたら飛びついてしまうのは当たり前だ。樹々にとっては非常に魅力的だが手を出せば死を招く。だが本能が手を出してしまう。


 プレートの外縁部にいる樹はプレートの中でも若いのでその分血気盛んである。その代わり入れ替わりが激しい。彼らはプレートの中心部の良い場所を求めて常に魔力や栄養を欲しているのだ。


 しかし攻撃的というのは動きがとても読み易い。生命体にとって殺気は一番敏感に察知できる感情だ。殺すか殺されるかの世界では殺意こそ最高の道しるべと言えよう。


 だからマサモリ達長老族は殺気に対する感受性を最大限に高める訓練をしている。訓練のお陰で長老族は殺気を感じたら反射的に結界を張れるようになった。


 逆に反射は読みにくい。手にお湯をかけられたら人はびっくりして手を引っ込める。生物の反応速度の中でとにかく早い。殺気があると行動の起こりが分かるが反射の場合は即座に反応してくるので察知するのが非常に困難だ。そうなると後は経験と学習が鍵になる。


 ただ反射は単純な行動しか出来ないし、反射が起こる状況が分かりやすい。反射のほとんどが捕食や命の危機にトリガーがある。どういう状況でどういう生物がどういう反射をするか。危険なものだけ覚えれば、なんとか対処できる。


『迷いの木です。しばらく調査しますので他の班は探索を続けてください』


 ボタンが他の忍者エルフに指示を出した。しばらく進むと少し開けた場所に辿り着いた。そこには一本の大木が鎮座していた。その根は地上にまでせり上がっていて様々な生物の死体を絡めとっている。


 骨や死体、白い砂が今も蜘蛛の巣の様に張り巡らされた細かい木の根によって少しずつ消化されている。そして樹の太い幹にはツルで雁字搦めにされたやせ細ったオークが磔にされている。樹の上方には頭を釣られたゴブリンやコボルトが宙吊りにされている。


 迷いの木は幻術を使って生物を惑わす。惑わせた生物から魔力を吸い、満足すると解放する害の少ない木だった。森で道に迷って数日後に帰ってきたが何も覚えていない。


 そういうケースは迷いの木の仕業だ。超大陸上ではそうだったが樹海に生息する迷いの木は進化していった。今までは魔力をある程度吸った後に解放していた。しかし進化した結果、木に気に入られると結婚されてしまう。


 結婚とは木の枝と根によって雁字搦めにされて木に飲み込まれてしまう状態だ。結婚された生物は殺されず、幻の世界を常に見せられながらずっと生かされ続ける。迷いの木一本に対して結婚されるのは常に一体が基本だが中には複数の生物を幹に捕らえる恋多き木もいる。


 ハーレムを作っている自分に酔っているタイプの木だ。 今回のオークは幹に取り込まれていないのでそれほど好みではないようだ。迷いの木によって好みが千差万別だ。


 ゴブリン等が大量に首吊りされている迷いの木を始めてみた時の恐怖は筆舌に記しがたいものがある。この状態でも首つりにされた生物は生きている。その証拠に吊られているゴブリン達の足元には汚い液体が垂れ流されている。それらすらも迷いの木にとっては養分となる。


 昔は迷いの木に結婚させる為に引き合わされるお見合い刑が存在した。魔力と共に記憶も奪うので犯罪者の矯正にかなりの効力を発揮した。十分に記憶を奪った後に教育を施せば悪人も矯正の余地はある。


 管理されていない迷いの木は人や亜人、極稀にだがエルフと結婚している場合がある。だから迷いの木を見つけたらエルフが囚われていないか確認しなければならない。


 このケースとは別に樹海では遥か昔に石にされたエルフも見つかる場合もある。昔は緊急避難的に石にしておくことが多くあった。ボタンが軽い動作で木になっているゴブリン達の中にエルフが居ないか探索している。


 迷いの木からツルや枝が伸びるがその度に魔法で焼かれている。それでも迷いの木はめげない。エルフは魔力が高いので迷いの木の好みから外れていてもとりあえず捕まえておこうと思える最高の餌だからだ。


『エルフはいませんね』

『了解。進もう』


 マサモリ達が立ち去ろうとすると迷いの木から一斉に枝やツルが襲い掛かった。見え見えの攻撃にマサモリは余裕をもってツタを切り払った。枝やツルは執拗にマサモリ達を狙ったが簡単にあしらわれ続けた。


 迷いの木は個性が強すぎる為、共存は難しい。迷いの結界や罠として使う分には良いが、町の中心に据えるには不向きである。


 樹を探すのと並行して資源調達もしている。しかし人の手が入っていない割には収穫は少ない。樹海深が浅すぎるかもしれない。魔物も少ないので魚が多くて平和そのものだった。




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