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マナスの使い魔のモズを先頭にしてマサモリとツリーマン一族は破壊された町へと向かった。マナスの嫌がらせでモズは普通よりも速い速度で飛んでいるがツリーマン達は誰一人欠ける事なく着いて来る。
それがまたマナスを苛つかせた。マサモリは町を貰うよりも作った方が楽だし、元居た住民に困る事もないので新しい町を作るのに乗り気だ。戦いの度に忍者エルフが拾ってくるハーフエルフの数は増え続けていて、その治療と介護が大変になっている。
マサモリは常にマナスの使い魔に監視されているので近付けない。使い魔に小細工をして見えている物を操作出来るがそういうのはバレた時に大変だ。何かの拍子に魔法が解ける危険性もあるので危ない橋は渡らない。
忍者エルフは超大陸に来てからは常に大忙しだ。情報の収集にハーフエルフ達の奪還、傷付いたハーフエルフの世話に魔物人の血液などの入手を行っている。ただ最後の項目だけは嬉しい悲鳴である。
ここまで簡単に大量のサンプルを得られる場所は中々ないだろう。今も住民が魔物化されて魔物人が増えている。それらのサンプルは医療の発展に寄与してくれるだろう。
マサモリの血も定期的に送っている。あんまり血を抜きすぎると体に良くないので少量ではあるがそれでも十分だろう。マサモリがあれこれ考えながら走っていると半壊した町へ辿り着いた。
マナスの使い魔が町を上空から観察した。特に問題はないようだ。マサモリは数人のツリーマンが偵察に向かわせた。手信号で安全を確認するとマサモリ達は半壊した町へ入った。
町は意味もなく壊されている。建物の破壊後がほとんど低い場所についている事から使役されている魔物はゴブリン中心なのだろう。乾いた血痕が辺りに残っている。しかし死体はおろか、骨すら残っていない。
ゴブリンの血液はほとんど残されていなかった。その事から戦いが一方的だったのが窺い知れる。襲撃された時に強い者はさっさと逃げたのだろう。
店は大いに荒らされていて金目の物は残っていない。目につく物を適当に壊したような雑な暴れ方をしたのだろう。しかし目立たない場所にあるお金にならない物は結構残っている。
見つかるのは日用雑貨しかないがハーフエルフ達の為に大量に必要だ。目につく使えそうな物を片っ端から集めた。そして所々にある鉄を回収した。吊り橋に使われていた鉄の鎖等や破裂した大砲、折れた剣等を集めた。
奪うのや運ぶのに労力がかかる物はまだ結構残されている。逆に金銭や宝石は見つからない。手早くそれらを背負うとすぐにその場を後にした。長居をすると盗賊達と鉢合わせになる可能性が高い。その盗賊達が他の魔人軍だった場合は色々と面倒なのだ。
普通の町は水源地や川がある場所に作られている場合が多い。魔法で水が作れたとしても農業や畜産には大量の水が必要だ。人は水場からは離れて生きてはいけない。
しかしマサモリ達は全員が水を出せるので町の建設場所を選ばない。ついでにマサモリが樹海に居ないと魔力が足りなくなると言ったので樹海の魔素を町まで引き込む予定だ。
出島村を作る時もそうだったが新しい物を作り出すのは心躍る。マサモリはどんな建物を作ろうかと思い悩みながら帰路を急いだ。
今回の超大陸派遣は気持ちの良い仕事とは言えない。魔人軍に入ったので超大陸の人を殺すのを手伝わなければならない。はっきり言ってマサモリは人殺しに加担したくない。しかし超大陸のエルフ、ハーフエルフを大人達が救うかと問われると確実に救わないだろう。
結局自分が出来る範囲の事を拡大解釈して無理やり押し通すしかない。知らなければこうやって超大陸に来ても安全な場所でフラフラしているだけで終わっただろう。
いや、知らないではいられない。星外生物を倒す時に超大陸に来ていなくても免疫を得る為に来るのなら情報はしっかり集めていたはずだ。結局やる事は一緒になるだろう。ならば自分の出来る事をするまでだ。
シラギクが出島村で待っていてくれて本当に良かったとマサモリは思った。シラギクにはナツメを一人で残すのは不安だったので出島に残ってもらった。というのが建前だ。医者エルフを派遣して貰ったのでシラギクが居なくても健康的には大丈夫だろう。
だが今回のような汚い仕事にはシラギクは関わって欲しくなかった。マサモリだって極力関わりたくないのだ。そういう意味では農地開拓に回されるのは有難い。もちろん、それを表には出さないが。
考え事をしていたマサモリであったが、気が付けば町の予定地に辿り着いていた。一番初めに魔法で小屋を作って収集品を中に入れた。そして簡易的な結界を予定地全体に張った。
「ボタン、あれは見つかった?」
「まだです。近場にはないようですね」
「そうか。エルフの森ではよく見かけたけど野生のを探すとなると大変だね。俺もちょっと行ってみようかな。もちろん浅瀬だけだよ。深い所には行かない」
「……分かりました。いつ行きますか?」
「今なら向こうも町造りで忙しいと思っているだろうから急な用事以外は呼び出さないと思う。だから今すぐ行く」
「はっ」
「モブ美、結界でマナスの使い魔は騙せると思うけど一応サーモを動かしておいて」
「了解しました、マサモリ様ぁ! もっとどうでもいい仕事を沢山任せてください!」
マサモリはボタンと忍者エルフを伴って樹海へ入った。今回の目的は町の中心部に植える樹を探す事だ。エルフの森では周りに樹が生い茂っているのでそれに合わせて家々を建てる。
しかし超大陸にはそんな縛りはないので自由に町を作れる。エルフの森の建築家が聞いたら血涙を流して悔しがるだろう。今回は世界樹の周りに家々が集まって出来た町を模した作りにする。
中心に巨大樹を植えて樹を囲むように建物を建てる。最古のエルフの住居スタイルだ。問題は中心に植える樹である。超大陸の樹では力不足だ。せっかくだから樹海に生えている力強い樹が欲しい。
そう思っていたのだが思いの外、忍者エルフ達が忙しくてほとんど探索出来ていなかった。実はマサモリも探してみたかったので丁度良かった。二人組に分かれて数百メートル毎に離れる。そして虱潰しにで探していく。
樹海は常に動いているので虱潰しにした方が効率的だ。時間が経つと地形が入れ替わるので見つからなかったら少し間を空けて探せば良い。何か見つからないかなとマサモリは心躍らせて樹海を駆けた。