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戦場を見守るマサモリとは裏腹に忍者エルフは大忙しだった。ハーフエルフを救出し、偽装した死体を残す。その後に目星をつけておいたドワーフを殲滅した。
そして研究資料を回収して魔石を七割回収する。城壁にある大砲用の魔石弾も同様に回収し、残りは爆発させる。全部奪うと後々バレる可能性が上がるので少しずつ残す。
本来なら金目の物も奪いたかったが降伏が早かったせいでそこまで回収できなかった。順番としてはエルフ、ドワーフ、ドワーフの研究関連、魔石、金品だ。
超大陸の生活ではお金を使うよりも暴力で解決する方が圧倒的に多い。計算が出来なくても殴って奪えば無料なのだ。そのお陰か多くの人が知識を蓄えるよりも力を得る事を重視している。
ドワーフだけは別だ。高度な教育が施されていて戦いも得意だし、頭脳労働も得意だ。魔力が低い事を除けばかなり優れた種族である。そんな相手がエルフを攻撃してくるのだから超大陸のエルフが負け続けたのも仕方が無い事だと言える。
エルフの森のエルフがやっているのはひたすら力押しだ。超大陸で長年生き残って来たドワーフに策略で勝てはずがない。樹海のエルフが暗躍しているのを絶対に知られてはならない。
力押しが出来る状況がドワーフの開発力によって次第に狭められてきている。エルフ達に残された時間はもう少ないのだ。
シュドラ率いる魔人軍は快進撃を続けている。短期間の内に多くの町や村を配下にした。魔物化されて反発する者も多いが、魔物化によって力をつけた者はシュドラの熱烈な崇拝者となった。
中には力を得る為に自分から魔物化しにくる者もいる。魔物化は軽度なら魔力と力が増すだけなので体の一部が魔物化する事に目を瞑れば簡単に力を得られる手段である。
そのうえ、当たりの魔物化を引けば、戦う才能が乏しい者でも強くなれる。もし強者が当たりの魔物化を引いた日には四天王入りだ。
魔人軍が勢力を増すと力を求めて魔物化する者が増えた。すると余計に魔人軍は力を増した。そして勝ち馬に乗る為にまた人が増える。その中でもシュドラ率いる魔人軍は伸張目覚ましい。
魔人王のシュドラを筆頭に三人の四天王がいる。彼ら一人一人が一騎当千の強者である。他の魔人軍にも強者はいるがシュドラと彼の率いる四天王は別格だ。
噂では一人一人が他の魔人軍の魔人王に匹敵すると言われている。そして残り一席の四天王の座に就く事を夢見て、多くの強者共が集結した。その根底にはシュドラの優れた統治能力がある。
しかし余人には全く理解されていない。シュドラは支配した町や村人を無駄に殺さなかった。特に村を襲うの場合は魔物を使わずに魔物人だけで攻略する。魔物を使うと破壊しすぎるからだ。良く言えば魔物の使い捨て方が上手い。
他の魔人軍は魔物を率いて攻めるので戦場の興奮で勢い余って住民を皆殺しにしてしまっている。魔物の数も際限なく増やしていくのですぐに食料不足となる。食料不足になったら次の獲物を求めて徘徊する。
そんな中、シュドラは支配した町から利益を吸いあげて軍へ分配している。植物の成長が早いのでしっかり畑を管理すれば確実に食料が手に入る。
シュドラの魔人軍が大勢の魔物人を抱えて正常に機能させられているのはシュドラとマナスのお陰である。二人は膨れ上がる支配地域と軍勢を破綻させる事無く維持している。
二人が只者でないのは誰もが認めている。他の魔人軍がイナゴのように町を喰い尽くして移動しているのとは対照的にシュドラの軍は町を上手く利用して継続的に食料を吸い上げる。支配領域が増えれば増える程、シュドラの魔人軍は力を増し盤石になった。
シュドラが他の支配者と違った点は村の防衛方法である。村は多くの場合、奴隷で構成されている。そこに奴隷の持ち主の盗賊が詰めている。その盗賊は近くの町に上納金を払って農村を経営する。
町は村を守らないが襲わない。上納金を払う事でそういった取引がされている。町の支配者の気が変わって村を襲う事はままある。しかし最終的には弱い方が悪いという結論に達する。
基本的に誰もが守る事を嫌っている。防衛側では得る物が無いからだ。村を守れば、その後も継続的に利益を得られる。そう考えると防衛した方が良い場合もあるのだがそこまで考えられる人は少ない。
ただ自分の身の危険を出来るだけ回避したいという考えの元に行動するので危なくなったらすぐに逃走する。戦い自体は多いのだが粘り強い戦いというものはほとんど存在しない。
あっさり始まって、あっさりと終わる。しかしシュドラは村々を防衛するようになった。魔物を操れる魔物人を中核として部隊を編成して支配領域内を巡回させる。
ゴブリン中心の囮部隊を前面に押し出して中衛以降の魔物人が後ろから攻撃する。シンプルだがやられた相手は戦いにくいだろう。ただ、それだけでは即応性にかける。それを補うのがマナスの使役する鳥達だ。
数十羽の鳥達がシュドラの支配領域を飛び交い情報を集めている。盗賊が見つかれば近くの部隊に報告して盗賊を討つ。シュドラは魔物人達を鍛えつつも仕事を与えて上手く運用している。他の魔人軍が泡沫候補ならシュドラは本命候補だろう。
魔人軍が大きくなると戦う前から降伏する町が増えた。破壊され、殺されるよりも魔物化されようが生き残った方がましなのだ。それにシュドラの方が他の支配者よりましかもしれないという希望的観測もあった。
シュドラは落とす町を吟味して取っている。旨味の無い場所や小さくても危険な場所は取らない。マサモリは目の前で行われる国盗りに感心するほかなかった。本の中でしか描かれない様な状況が着実に進んでいく様は驚くばかりだ。
シュドラは超大陸の勢力を左右する指し手である。逆の他の魔人軍は指し手たりえていない。客観的に見ると知性の無い魔物の様な動きをしている。ただ強いだけの者が支配する魔人軍なのだろう。
軍勢が大きくなるとマサモリの出番は減った。シュドラはマサモリに頼る事の危険性を理解しているようで無暗にマサモリの力を借りない。重要な町を落とす時にのみマサモリを使う。毎回マサモリを呼んでいては攻城戦の経験が積めないのだ。
マサモリという秘密兵器を手に入れたからこそ使わずに地力を上げるのに集中している。多少費用が掛かっても良く切れる武器なら誰だって使いたくなるものだ。しかしシュドラはその気持ちを抑えて魔人軍全体にとっての利益を追い求めている。
シュドラが優秀過ぎて、助力しすぎて大丈夫なのだろうかと逆にマサモリが心配になってくる有能さだ。