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宴が終わって翌日になるとマサモリ達は樹海へ戻る事になった。マサモリは常に魔力を消耗するという設定なので長居は出来ない。とりあえず魔人軍に潜り込めたので情報収集をしながらじっくりと構える。
現在で最優先なのは他の町に囚われたエルフの所在の確認だ。数人なら匿うのも容易だが拠点がないと大量に匿う事は出来ない。拠点を手に入れない事にはエルフを保護出来ない。
元々超大陸に派遣されていた忍者エルフから情報で目星は付いているが時間が少し空いたので再度調べる必要がある。しかしハーフエルフは多数発見出来た。その大半が囚われて魔法を使う奴隷として扱われている。
その扱いの悲惨さに報告を聞いたマサモリは気分が悪くなった。最初はエルフだけを保護するつもりだったがハーフエルフ達の惨状を知ってしまっては放置できなかった。
魔人軍の町への侵攻に合わせてそれらのハーフエルフを保護していたらあっという間にその数は数十人となった。保護されたハーフエルフのほとんどが自力で動けない有様だったので忍者エルフが作った隠れ家にずらりと並べられて寝かされている。
長い奴隷生活で心が摩耗してしまったハーフエルフが大半だ。ただ連れてくればお終いという訳にはいかず、介護に労力が必要になった。問題は救出したハーフエルフのほとんどが逃亡防止に両足片手を切られている点だった。
魔法を使う為の片手しか残っていないエルフが大半で怪我が治って体力が回復しても生活に不自由するだろう。マサモリなら時間をかけて回復魔法をかければ手足を再生できる。しかしそれがバレたら今度はマサモリが攫われてハーフエルフ達と同じ目にあう。
超大陸人にはエルフやハーフエルも含めて、マサモリ達がエルフだという事を知られてはならない。ツリーマンという少数種族でなければならない。マサモリが当初考えていた構想は簡単に破綻した。
ハーフエルフは井戸代わりとして扱われていた。多くのハーフエルフは町や村の中心部に雁字搦めにされていた。そして水魔法だけを使わさせられていた。
普通なら自殺していそうだが薬で常に意識が朦朧としていたようだ。自殺防止の為に舌を切られているハーフエルフも多かった。
まさか奴隷の片手両足を切断しているとは思わなかった。町を支配したらエルフを保護して、変身魔法を使わせて一般人に紛れ込ませて生活させる。そういう予定だった。変身魔法を使えれば実際にはない欠損部位まで再現できる。
後は念動魔法を覚えれば簡易的な手足として使えるだろう。しかし念動魔法で手足を再現しても違和感が拭い去れない。
勘の良い者が見たら一瞬で気取られてしまうだろう。マサモリはとにかくハーフエルフの身体、精神の回復に努めた。そして回復した者から順に念動魔法を覚えさせていく予定だ。
シュドラ率いる魔人軍が小さい町を攻めている。小さいといっても城壁で囲われているうえに強固な結界で守られている。その場にはシュドラ、マナス、ゾグルが居る。しかし戦闘には加わっていない。
マサモリを呼ぶには小さすぎる町だ。魔石代も馬鹿には出来ないし、力押しで魔人軍がどこまで戦えるのかという確認作業でもある。
普段なら町に人を送り込んでおいて内応させる。しかし町が大きくなればなるほど警戒心も増すし、町内部の守りも強固だ。そして注目されていなかった魔人軍結成当初とは違って、今は名が売れすぎている。
内応はそろそろ難しくなってきただろう。すると町を落とすにはやはり正面から落とすのが一番だ。正面から力で攻め落とした方が住民達も大人しくなる。
小手先の技で勝っても後が続かない。ただ勝てば良いという盗賊的発想では後々足元を掬われる。シュドラはこの攻城戦で確かめたい事が多々あるようだ。
ゴブリン達が先を尖らせた丸太を抱えて門に突撃した。城壁の上から魔法や矢が放たれる。魔力を練って放たれた火魔法が丸太に当たると爆発が起こってゴブリン達は吹き飛んだ。
しかしすぐ次のゴブリン達が同じように丸太を抱えて門へと向かった。大砲やバリスタ、油壷が投擲されてゴブリン達を妨害する。しかしゴブリンの数の多さに全てを止める事は不可能だ。
一本の丸太が門にぶつかった。門には町全体を覆う結界魔法が張られていていとも簡単に丸太を弾いた。
「遠距離部隊放て!」
シュドラが合図をすると魔物人達が魔法や魔物化した部位を使った遠距離攻撃を門に向けて放った。結界にそれらの攻撃がぶつかる。しかし結界は強固で全ての攻撃を弾き返した。
大砲がお返しとばかりに、シュドラ達がいる本営に向かって火を噴いた。大砲の弾がマナスが張った結界にぶつかると今までで最大の爆発が巻き起こった。魔石弾が使われていたのだろう。しかしマナスの結界はなおも健在だ。
「魔石槌進め!」
ゴブリン達が再び丸太を持って突撃した。よく見ると丸太の先端に魔石が埋め込まれている。
「遠距離部隊援護せよ!」
ゴブリン達の突進を止めようと城壁から攻撃が行われる。しかし魔物人はそれらの攻撃を魔法で相殺した。しかし魔石弾の大砲だけは防ぎきれず、魔石弾と魔石槌がぶつかり合い大爆発を起こした。
「止まるな! 進め!」
しかし魔人軍が用意した魔石槌の数は多く、それらの運び手であるゴブリン達も多数だ。マナスの結界内に魔石槌を持ったゴブリン達が多数待機している。
大砲の装填の合間を縫ってゴブリン達の勇猛果敢な突撃が繰り返された。その内の一つが攻撃をかいくぐり門へ到達しようとしている。
「遠距離部隊合わせろ!」
シュドラはそう叫ぶと片手を上げて巨大な火球を作り出し魔石槌の衝突に合わせて撃った。マナスは角に魔力を集めて雷鳴を放った。しかし町の結界はそれらの攻撃を全て受け止めた。
大爆発が起こって魔石槌を持っていたゴブリン達の四肢が雨の様にマナスの結界に降り注いだ。
「足りないか」
シュドラがポツリと呟いた。それを聞いてマナスは奥歯を強く噛み締めた。シュドラ達の総攻撃にも結界は耐え抜いたが、目に見えて効果が弱まった。
「よし、最後の一押しは俺が決めるぜ」
そう言うとゾグルは解き放たれた猛牛の如く一直線に町へと突撃した。
「前衛部隊突撃せよ!」
ゾグルに遅れて魔物人の部隊が突撃した。ゾグルは己に向かって放たれたバリスタをいとも簡単に砕くと勢いそのままで門に頭の両角を突き立てた。
結界がそれを阻むがゾグルの攻撃に耐えられずに破壊された。ゾグルはその勢いのまま門に角を突き立てた。
「うおおお!」
そして咆哮と共に突き上げた。鋼鉄の門に深々と突き刺さった角がそのまま門を持ち上げ、こじ開けた。遅れて突撃してきた魔物人達が町へ雪崩れ込む。
魔物人はそれと同時に城壁に飛びのって砲兵や魔法兵に襲い掛かった。結界が破壊されると城壁は城壁の効果を失う。強化魔法で上がった身体能力は城壁を簡単に飛び越える。
マナスは結界が再生する前に門へと辿り着いて結界が再び張られるのを妨害した。ゾグルが町へ入ってしまえば勝負は決まったようなものだ。ゾグルが突進すると兵士が柘榴のように弾けて四散した。敵の士気は一瞬で崩壊し、即座に降伏した。