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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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「出島村の村長がマサモリに決まったぞ。全く、わざわざうちがなる必要はなかったのに……。父さん、母さん寂しいんですけど」

「最近修行ばっかりで飽き飽きしてたんだよねー。やっぱ男たるもの冒険してなんぼよ」


「遊びじゃないんだぞ。わかってるのか」

「楽勝楽勝」

「不安になってきた……。村長といっても暫定だ。出島村って名前もお前が変えてかまわない。出島村を作るにあたってお前が村の結界を張らなきゃならない。責任重大だぞ?」


「うん」

「マサモリは武術はまだまだが結界魔法はしっかり仕込み終わった。どんな相手でもとりあえず逃げる事はできると思う。だけど本当に大丈夫かよー」


「まかせとけって」

「マサモリがんばってねー。母さんも応援してるよー」

「うん!」


 軽い感じのマサモリと妻のアオイを見ながらヒデヤスは早くも頭が痛くなってきた。本来なら色々な経験を積んで、村長になるのは最低でも六十歳すぎてからだ。


 マサモリは出来が良い息子だがまだ二十歳になったばかりで、まだ親の庇護下にあっても当然だ。それにまだ我が子を手放したくない。


 せっかく他の長老族に任せられたと思ったのにとヒデヤスは臍を噛んだ。黒船を撃退したまでは良かった。しかし多くの人を捕虜としてしまった。


 さすがに捕虜を殺す訳にはいかないが問題は収容場所だ。エルフの森の中に収容所を作る事は全会一致で否決された。エルフの森から離れた場所に村を作ってそこに隔離しようという結論になった。


 せっかく小笠原村を差し出してマサモリが村長になる事を未然に防いだのにマサモリ本人が受けてしまうとは思わなかった。出来る限りの援助はしてもらえるが自分から貧乏くじを引かなくても良かったのにとヒデヤスは思った。


「各村からしっかり援助が出る。だから最初の立ち上げだけすれば後は交代要員を用意するので安定したらすぐ帰ってこい。そもそもマサモリはあと四年もしたら小学校に入学だ」

「小学校に早く行きたいなー」


「せっかく村長になるんだ。社会勉強だと思って頑張ってこい。出島の村長と言っても最初だけで大人になってから出島に行けって訳じゃないから大丈夫だからな。なっ。大人になったらちゃんとお見合いできるようにするから安心しろ」


「そこでなんでお見合いの話しが出てくるの」

「大人の事情ってやつだ。お前は気にせずやればいい」

「大人の事情ね。うん、わかるわかる」


「石にした人達は魔力が低くて思ったより長く持ちそうもない。三日後には出島予定地のへ向かってくれ。最近は人の行き来がないから小笠原村まで行くのにどれくらいかかるかわからん」

「おっけー」


 捕らえられた人々は全て石にされていた。石にして保存する方法が一番鮮度を保てるからだ。氷漬けにすると人は死んでしまう。


 だからといって長期間石にしておくと樹海の負の魔素が染み込んで下手すると死んでしまう。魔力が高いエルフなら石にしても長期間保存が可能だが魔力の低い人には酷だ。


 エルフが神経質になるのもしょうがない事だった。目隠しをして檻に入れたとしても音や匂いや魔力傾向を覚えられると後から探す事ができる。


 捕らえられた人々はほとぼりが冷めるまで出島で生活してもらって後で記憶を消して超大陸に戻す予定だ。しかしその間に逃げられた場合、エルフの森の情報が漏れてしまう。記憶消去も完全ではない為、出来るだけ情報を与えないようにしたい。


 だからといって結界で音も匂いも漏れない空間を作って入れたら人はすぐに狂ってしまう。石化は楽なわりにとても有効な手段なのだ。


 出島予定地までは樹海の中を進んでいく事になる。石化した人を数人セットにしてまとめる。それをエルフが人力で担いで持っていく。結構面倒な作業だ。


 結界魔法で単純な飛行機を作って飛ばせるが空を飛んでしまうので約束に引っかかるので出来ない。人の他にも食べ物等が続々と集まってきている。その他に中身はいまいちわからないが色々な贈り物があった。


 マサモリは父のヒデヤスに連れられて今回の出島開拓団の面々と顔合わせをした。東京村は人口が多いだけあって開拓団は東京村から多く出されている。マサモリが今までに見た事がある顔が多かった。


 長老族の子供は小学校に通うまでは親元で結界魔法や護身術を習う。一般のエルフは幼稚園に行ったり、特にどこにも通わせないで家族で過ごしたり様々だ。


 しかし長老族の子供が攫われた場合はエルフの森全体の問題になってしまうので早々に力を付ける教育を施される。


 マサモリが今回村長になれたのは齢二十にして結界魔法を使えると言って良い段階まで到達したからだ。


 ヒデヤスは自分の息子自慢が回りに回ってこんな事態を引き起こすだなんて予想もつかなった。もっと隠しておくべきだった。ヒデヤスは一人頭を抱えた。


「まさかこの目で人を見る事になるとはのぅ。村長をするわらしは可哀想だ。あーっ、なんて可哀想なんだろうか。わしなら死んでも絶対行かないわい」

「人だ! 怖いなー」


「お前なんかいつもぼーっとしてるからすぐ攫われちゃうぞ!」

「亜人の毛並みが良いなあ」

「貴重な普人の石像だ。今の内に描き残さなければ!」


「こんな石像より俺が本当に美しい石像になってやる。刮目せよ!」

「あっ、ドワーフだ。髭を毟り取っておこう」


「待てよ! 俺もやる」

「こらっ! 石にいたずらするな! 落書きするな!」

「逃げろ!」


 物が集まると人も集まってくる。広場には石化した人を見に来るエルフでごった返した。誰が投げたのかわからないがお賽銭をしている人がいる。


 人が増えると物売りがどこからともなくやってくる。広場はお祭り会場になってしまった。



「しかも相当遠いんじゃろ? いくら浅い所とはいえど樹海を数百キロも移動するなんて正気の沙汰じゃないわい」

「博士、そんな事言っちゃ駄目ですよ。昔はエルフも住んでいた場所らしいですよ」

「ん? 昔にエルフが住んでいたのか? おい、という事は南か。ここら辺で遠くて離島で昔エルフが住んでた所って……」


 博士と呼ばれた白衣姿の老人は突然髪を逆立ててブツブツ独り言を始めた。


「責任者ぁはどこだ! 早く、どこだ」

「俺だよー」


「おい坊主。出島予定地って小笠原村跡地か」

「そうだよ」


「はぁー! 儂も行く! 絶対行く!」

「駄目だよーん」

「ハァー? 儂も連れて行っておくれ。あそらへんにはチムニーがあるんじゃ」


「死んでも行かないって言ってなかった?」

「わしが死ぬわけないじゃろ! お願いお願い、わしも連れてってー」


「自分勝手に好きな事やって人に迷惑をかけるタイプだよね。うーん、不採用!」

「嫌じゃー! 嘘じゃ、こんな坊主にこの博士たる儂が採用されないだなんて。うわーん」


 いい年した老人が地面にひっくり返って手足をバタバタし始めた。マサモリはそれを完全に無視して戻ろうとした。


「ご無体なぁ。なんでもするから連れてってー。お願いじゃー!」


 マサモリは子供だがこのマサモリにまとわりついた博士と呼ばれている老人がどうしようもない大人だという事を肌で感じた。こいつは断っても絶対に着いてくる。そんな確信を抱かずにはいられない男だ。


「何ができるの?」

「周りの地質を調べたり、上手くいけばチムニーから鉱物を取り出す事ができるぞ」


「上手くいけば? はぁー、博士っていうからすごく優秀な人かと思ったのに……」

「いや、できる。 できるぞぁ! 希少な鉱物を儂がザックザクと集めてやらー!!」


「みんなに迷惑をかけなければいいよー」

「任せておけ、クソガキ」

「契約魔法をかけておこうか。迷惑を掛けたら強制送還ね」


「すいません!」

「それではまたのお越しをお待ちしてます」

「わかった。契約するする。するってば。最近の子供は年寄りに対する労わりの心がないのー。助手も数人連れてくぞ」


「「「私達も!?」」」

「はい。今後ともよろしくお願いします。ということで明後日の朝には出発するから準備しておいて。んじゃねー」


「そうと決まれば実験器具を持ってこんなとな。助手ーズいくぞ!」

「「「はい!」」」


 マサモリは彼らが走り去った後、盗み見るように一瞥した。


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