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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 今までに魔物人が反乱を起こした事が何度もあった。だからこそ嫌われ、排斥されている訳であるが今までの反乱は規模が小さかった。村を襲う程度、大きくても町を襲って返り討ちにあう程度の集団だった。


 しかし状況は一転した。魔物人の数が急増したのだ。その原因は星外生物にある。



  超大陸に星外生物が落ちた事で付近の生物が食い尽くされた。都市や町が突如として無人の廃墟となり、人心は乱れた。すると火事場泥棒をし始める者が多数現れる。


 するとあっという間に火事場泥棒の数が増えて、都市の無人化の数を大きく上回った。都市の無人化はいつしか優先度の低い案件と化した。他都市からの襲撃を警戒する都市や町が増えた。


 戦いは今もなお続いている。国という大きな枠組みはあったがそれは外敵と戦う時の為の物で内敵には機能しない。誰だって自分が暴れ回るのを妨げられたくないからだ。


 動物や魔物達が姿を消すと今までそれらに捕食されていた小動物や昆虫等がここぞとばかりに大量発生した。ネズミの大群が畑を襲い、村を飲み込んだ。その他にも鳥、蛾、バッタが大量発生した。


 そして食糧難、疫病が人々を襲った。人々は殺し合いで数を減らしていたが、食料が食い荒らされる量はそれを遥かに上回っていた。富める者は生き残り、貧しき者は飢えた。


 都市や町の人々が大挙して食料を求めて近くの村を襲った。村は焼かれ、村人は奴隷と化した。そうして食料の生産力は急激に落ちて行った。しかし強者は安泰だった。食料が無ければ食べられる魔物や動物を狩った。


 襲い掛かってくる敵は殺した。食料が急速に劣化する超大陸では一度食料生産が止まると急激に食料生産力が下がる。一度荒廃した畑の再生は困難を極める。


 穀物以外の食料は劣化が早すぎるので生きた畑が無いと安定した供給は不可能だ。余計に食料不足になり、他から奪うしかなくなる。大半の人々は自分で生産しようとは考えなかったし、そんな技術はなかった。



 超大陸の西側には樹海、東側には海が広がっている。食料不足になっても樹海や海に近い人々はそこから食料を得られた。食料不足が進む事で人々は食料を求めて大半が東の海沿い地域へと向かった。


 そこでは海産資源と町を守る戦いが現在も繰り広げられている。一方樹海へ食料を求めた人々は争っている場合ではなかった。争わなくても資源は豊富にあるし、争わなくても樹海に入って簡単に人は減った。


 樹海の食料は少量でも超大陸の食料の数倍以上栄養価を秘めている。強者は樹海に入り、大量の食料を持ち帰って財を成した。そして自分達は安全な食料を買う。


 樹海の食料を買った者は大金を払って魔法使いに解呪を依頼した。海沿いに長らく住む人々の中には解呪さえしっかりすれば樹海の食料が他の食料よりも優秀である事を知っていた。


 彼らは自分達だけはしっかりと解呪された食料をひっそりと食べた。まともな食料が買えない貧困層は樹海産の食料を買うほかなかった。そして解呪が上手くいかなくても食べるしかない。そうやって数か月もすると町は魔物人で溢れかえった。



 魔物人の数は一年もしない内に正常な人々の数を上回った。そして現在もなお増え続けている。魔物人になると魔物化の影響により力や魔力が高まる。


 差別されていた人が安易に力を得たらどうなるだろうか。そしてその数が増えたらどうなるだろうか。樹海岸沿いの町は魔物人の町となった。


 魔物化で力を得た魔物人は積極的に己の新しい能力を訓練した。元々超大陸は弱肉強食なので力に対する渇望があった。彼らの多くが最下層民で虐げられてきた。そんな彼らに魔物化したとはいえ、力や魔法が使えるようになった事実は大きい。


 彼らは今までの人生を取り戻すように力を研いた。彼らは勝利を欲していたのだ。彼らは自分の町を喰い尽くすと次に周囲の村に狙いを定めた。


 ある集団は成功し、別の集団は失敗した。村にはだいたい元締めの盗賊が居る。小さい村には弱い盗賊が、大きい村には強い盗賊が根城を張っている。普段盗賊達は防衛戦を好まない。


 防衛戦では得る物が無いからだ。攻められたらさっさと逃げる。力がない者は奪われてしまうとそれでお終いだが、力ある者は奪われても別の所から奪えば良い。


 今まではそうやって来たが魔物人との争いはその考え方を変えざるえない状況を作った。魔物人に襲われた村は、村人が魔物人に変えられた。


 樹海の食べ物を強制的に食べさせられるので早く救出しないと村人は魔物人に変わってしまう。魔物化に適応できずに死ぬ村人も居たが魔物人はお構いなしに自分達の同族を増やしていった。


 一時の勝利の美酒を味わった彼らは火が付いた爆竹の様に正常な人が多い町を襲った。魔物人は魔人軍と自らを称するようになった。自分達は魔物人ではなく、魔人であると。



 魔物化しても軽傷の内なら変異した部分を切り取って回復魔法をかければ人の体に回復する。しかし症状が進むと変異部位を切り取った後に回復魔法をかけても変異部位が再生するようになる。


 そうなると魔物化を治療するのは困難になる。初期症状なら負の魔素に汚染されていない食料を取れば次第に回復する。一旦魔物化の症状が進むと回復は困難だった。



 盗賊達はいつもと同じように襲撃されると逃走した。そして期を窺って隙をついて村を取り戻した。しかしそこには魔物化した村人が居た。盗賊達は気にせずに村を再支配した。


 魔物化したばかりで強い変異をした人は居なかったからだ。しかしその村を根城にして少し経つと盗賊達は自分達の体の変調に気が付いた。自分達も魔物化してきたのだ。


 きっと村人が樹海の食べ物を盗賊達の食事に混ぜたのだろう。だが盗賊達はそこまでは気が付かなかった。食事が原因なのか、もしくは魔物人の傍で生活した事が原因なのかを判断できなかったのだ。


 今までの経験から食事が原因なのだが、人は不安になると流言、飛語に簡単に騙されてしまう。もし盗賊達が自分に出される料理をしっかり魔力視していたら魔物化する前に気が付けただろう。


 盗賊達は怒り狂って村人を皆殺しにした後に町へ逃げた。そして自分達が体験した事を大勢に伝えた。最初の内は新たな強者が生まれただけだと思われていたが村人を魔物化させるとなると話しは変わってくる。


 一度奪われて汚染された人達は戻らないのだ。今までは村を襲って村人を奴隷として売り払っていた。魔物人は一般人には忌み嫌われているので売ろうとしても買い叩かれる。


 そのうえ、村全体が魔物人になってしまうと村人達は諦めてしまって魔物人陣営についてしまう場合が多い。反抗した所で汚染されていない人から見れば彼らも魔物人だからだ。彼らの退路は塞がれてしまったのだ。


 彼らは長い盗賊からの統治によって自分より強い相手に逆らえる心胆を失っていた。逆に力を得て喜ぶ村人も居た。そうなるともう、魔物人と汚染されていない人との間に大きな線引きが出来る。


 汚染されていない人が魔物人の村を襲っても旨味が無いのだ。逆に危険ですらある。いくつもの村を奪われ、町を奪われて初めて汚染されていない人達は事の重大さに気が付いた。その頃には魔人軍は既に力を得ていた。




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