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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
102/211

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 翌朝、目覚めたマサモリはシラギクの家へ向かった。ナツメの様子を見る為だ。


『シラギク、おはよう』

『マサモリ、おはよう』

『ナツメの様子は?』

『うーん、昨日とは違って熱っぽくなっちゃってる。大丈夫かなぁ』


 マサモリはナツメを診察した。昨日とは違って発熱の症状がみられる。ナツメの額には汗が浮かび、苦しそうだ。そして魔力量が増えている。しかし魔力は体から溢れ出していて制御出来ていない。


『うーん、魔力過剰症かな。免疫能力が下がって体が弱っていたのかもしれない。エルフが樹海に来たばっかりの時にあった病気だ。普段よりも魔素が濃い場所に長時間いると体が魔素を吸い過ぎて体内の魔力に変調をきたす。ナツメはハーフエルフだから魔素をエルフみたいに吸い込み過ぎたのかもしれない』


 マサモリはナツメに向かって手をかざすと魔力を奪った。ゆっくり丁寧に魔力を奪うとナツメの顔が穏やかになった。なおも続けてマサモリは魔力を吸い続ける。


『昨日は魔力をほとんど使わなかったからねえ。後、虫下しで免疫能力が落ちていたからなのかもしれない。普段は俺達が一緒に居て魔力を使わせて溜まりすぎないように注意してたんだけど難しいな。普人の三人は魔力過剰症にはならなかったのに……』


『治りそう?』

『魔力が溜まりすぎないように吸い続ければ大丈夫だよ。吸魔石の足輪を長い事付けらていたから体が無意識に魔力を吸収するようになってたんだろう。吸魔鉄の腕輪の予備があるから持ってくるよ』

『うん、お願い』


 マサモリはエルフ用の吸魔鉄の腕輪を取りに向かった。ジェルセ結界に魔力を捧げる為に、様々な形状の吸魔鉄が揃えられている。今までだったら吸魔石自体が珍しかったが、今では大量に用意されている。


 吸魔鉄が無かったら誰かが毎日魔力を吸い続けなければならなかった。そう考えると吸魔鉄も利用価値があったなとマサモリは感心した。


『吸魔鉄の腕輪を結界に入れてナツメの横に置く。肌に密着させると魔力を吸いすぎるから、結界で覆って触れないようにする。後は安静にしてれば大丈夫でしょ』

『ありがとう、マサモリ』


『この前来た医者にかかる可能性のある病気を教えてもらっていたから助かったよ。なんの知識もなかったら絶対に慌てふためいた。シラギクは先に朝ご飯を食べてきて。シラギクが戻ったら俺が食いに行くよ』


『そうするよ。安心したらお腹が減ってきた。じゃあ、いってくるねー』

『うん、いってらっしゃい』


 マサモリは椅子に座って穏やかな寝息を立てているナツメを見た。妹が居たらこんな感じなのかもしれないとマサモリは苦笑した。


「ううう、体が熱いです……」


 もぞもぞとナツメが動いた。


「おはよう、ナツメ。体が疲れて熱を持ったみたいだから大人しく休んでおきな」


マサモリはシラギクが作っておいた砂糖水にレモンを加えたジュースをナツメに手渡した。


「シラギクが作ったジュースだ。美味しいから飲みな」

「ありがとうです。んっんっ、美味しいです」


「もう少ししたらシラギクが食べ物を持ってきてくれると思う。今日は大人しくしてるんだぞ」

「わかったです」


 マサモリは椅子に腰かけて窓の外を見た。今回の病気も医者に教わっていたからなんとかなった。虫下しならマサモリでもすぐに分かったと思うが、魔力過剰症は昔の知識すぎて医者に聞いていけなれば思い出せなかったかもしれない。


 マサモリは気軽に連れてきたが、時間が経てば経つ程、問題点が浮き彫りになってくる。ナツメを連れてきたからにはマサモリに責任がある。いざという時の為にしっかり知識を付けておかなければとマサモリは反省した。


 そして医者を募集してみようとも思った。しかしこんな辺鄙な場所に来る医者は居ないだろうなと考え直した。ボタンが優秀すぎて何かあった時にはサビマルとボタンに相談すればだいたいの事が解決してしまう。もっと頑張ろうとマサモリは強く思った。



「マサモリ」

「なに?」


「あたし、死ぬんですか?」

「いや、大丈夫。すぐに治るよ」


「嘘です。ううう、子供は病気になったらすぐ死んじゃうです」

「大丈夫だって。俺は村長だぞ」


「ううう、ぐすぐす。毎日楽しかったから罰があったです」

「病気もすぐに治るって。そうしたらまた修行だぞ。ナツメは強くなるんだろ?」


「あたし一人だけ幸せになれる訳がなかったです。ううう、あたしが死んでも忘れないでください」

「だから大丈夫だってば」


 マサモリは死期を悟った病人のような事を言うナツメの話しを妨害したくて乱暴に頭を撫でた。ナツメはしばらくぐずっていたが頭をなで続けると眠りについた。


 よく考えてみるとマサモリも小さい頃に同じように絶望した事があった。ただの風邪だったが子供は得てして大袈裟に物事を捉えるものだ。マサモリは昔の自分を思い出して懐かしい気分になった。



 翌日になるとナツメはすっかり回復した。しかし朝からプリプリと怒っている。シラギクはそんなナツメをあやしている。ナツメはマサモリを見つけると大声をあげた。


「昨日言った事は忘れろです! 忘れてください、お願いです」

「ナツメちゃん、マサモリになんか言ったの? 私にも教えてー」

「えっ、何の事?」


 ナツメは一瞬だけほっとした顔をした。しかしすぐに顔を真っ赤にして怒った。


「絶対にしっかり覚えているです。騙される所だったです。あああああ」


 ナツメは頭を掻きむしった。


「弱みをまた一つ握られたです。死ぬまで強請られるんです」

「どんな弱みなの教えて。ねえねえ、教えてー」


 マサモリはそんなナツメを見て、元気なのは良い事だなと思った。

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