表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
1/211

1

*注意


この作品には(じい)(ばあ)といった表現がみられると思いますが、それは老人を蔑ろにしているのではなく愛称として使っています

そこをご理解の上で作品を楽しんでもらえれば幸いです

よろしくお願いします



「ここから先は我らが領域。これ以上進もうというのなら強制的に排除する。立ち去れ!」


「こんにちは、エルフ諸君。私の名前はペロ・ブレイペイス。虐げられし君達を救いに来た者だ。可哀想に、こんな辺鄙な場所で生活していただなんて。さぞ辛かっただろう。だがっ! 私が来たからには安心したまえ。私が君達を安住の地へ連れて行ってあげよう!」


 黒い巨大な船の船首に仁王立ちしている巨体の男の名はペロ・ブレペイス。彼の正面には木の葉の青々とした海原にエルフの少年が佇んでいる。少年の名前は源エルダー白川真守(しらかわまさもり)


「断る!」


 ブレイペイスはマサモリの返答に口角を上げた。


「こっちが下手に出てやったのに調子に乗りやがって。いけ! 野郎ども!」


戦いの火蓋が切って落とされた。









 エルフ達は数千年の微睡みに包まれていた。だが一隻の船によって終わりを告げる事となる。その船の名はミピピッシ号。エルフ達の絶対に開国したくない戦いが始まる。


 遥か昔、一人の王によって世界は統一された。王の統治は平凡だったが、王の武力は絶大で人々は一時の平穏を手にした。しかし統一王亡き後、世界は麻の如く乱れた。


 群雄割拠の時代が数百年続いた。多くの種族が殺し合い、少なくない数の種族が滅びた。戦いに疲れた人々は静かな暮らしを求めて世界を彷徨った。しかしそんな都合の良い場所はなかった。もし幸運にそんな場所を見つけられたとしても別の勢力がその地を求めて襲来した。


 結局の所、生き残るには戦うしかなかった。そもそも人は別の生物から奪わないと生きられない生物であるし、人自身もそれを理解していた。


 新天地を海に求めた者もいた。世界は唯一の大陸とそれを囲む東西に分かれた海で構成されている。


 大陸は超大陸と呼ばれている。東には海水からなる水の世界。西には樹と魔素に満たされた樹の世界。前者が海、後者が樹海だ。


 ごく少数の適性があった者は海へ適応した。海にも脅威となる魔物や海獣が存在したが人と争うよりはましだったのかもしれない。

 樹海へ向かった者もいた。しかし一人として戻らかなった。

                                            


 一隻の黒い巨大な船が森の上を波に流されるように飛行している。太陽の光に照らされて漆黒の船は鈍く輝く。船の周囲には球体の結界が張られている。その姿はまるで円形のフラスコに入れられた模型の船だ。


 船は樹海の上を漂っている。正確には樹海の上層部の木の葉が多く繁茂する部分に船は浮かんでいる。樹海を簡潔に説明するには海と比べるのが最も適当だ。


 樹海と海は全く違うようで全体としての在り方は似ている。海には海水が満ち、樹海には魔素が満ちる。樹海面の高さは海面の高さと同じで、樹海は海水の代わりに樹々の葉が生い茂っている。


 樹海では海面より上に海や地上よりも数倍以上の重力がかかっていて、上へと伸びようとする樹々を押し込める。樹海は海があるべき場所に代わりに森が存在していると考えるとわかりやすい。


 樹海も海と言われるだけあって、遥か昔は海だったようだ。その証拠に樹海の底を歩くと塩の結晶を見つける事ができる。


 樹海には海水の代わりに負の魔素が満ちている。負の魔素は怒りや悲しみ等の負の感情が元になっていると言われている。負の魔素は呪いや穢れを帯びていて人や動物が触れると攻撃的になり、許容量を上回ると心が壊れて狂う。大量に体内に取り込むと体が変異して最終的には魔物になる。


 人にとって樹海は毒を帯びた空気が蔓延する場所と言っても過言ではない。それでも生命とは不思議なもので厳しい環境でも適応できる生物が現われている。


「本当にこんな所にお宝があるのかよー。どこを見ても木の葉しか見当たらないぞ」

 船から真剣に辺りを見回している乗組員とは別に所在なさげに歩いている男が言った。


 船は木の葉の移動による縦横の動きと樹海からの重力による高さの動きが相まって海原を行くかの様だ。波しぶきのように木の葉が舞うその姿は緑の海である。


 船旅は傍から見れば長閑な景色に見えるだろう。しかし船の中では結界魔法使い達が額に汗をしながら船が樹海の重力に飲み込まれないように四苦八苦している。


 何故、樹海には波の様に流れがあるのか。その答えは樹海の底にある。樹海は大小様々なプレートによって構成されていて、そのプレートは常に移動し続けている。


 木々はプレートの移動と共に動くので樹海面では葉が波の様に動く。その上、木同士が太陽の光を求めてしのぎを削っているので樹海面にその影響が出てくる。

 お客様気分の男を余所に乗組員は真剣に周りの状況を観察して今後起こるであろう事態に備えている。



 プレートには個性があり、基本的な火、水、風、土の属性が強いプレートが多い。プレートに満ちる魔素によってプレートの属性が決まってくるので特に水属性のプレートが多い。その中には基本属性以外の珍しい魔素が満ちるプレートもある。


 船に居ればその多様性を体感する事ができる。火の属性が強いプレートの上を通る時は火にくべられたような熱さを感じるられるし、水が強い場所では氷穴に放り込まれたような寒さを感じられる。結界に守られた結果その有様なので結界が無かったら人は環境に殺されるだろう。


「飯もまずいし、つまらねえな~」

「私のミピピッシ号が傾いておるぞ! 早くどうにかせい!」


 男の声をかき消すように船内から怒鳴り声が響いた。別のプレートに移動したせいで船にかかる重力が変化したようだ。船首が軋むように沈み込んで船尾が浮く。嵐の海に翻弄されるかのようだ。


 結界魔法使い達は慌てて結界を調節して船首の方向に浮遊魔法をかける。彼らの苦労の甲斐あってプレート間を渡る際の重力差を調整しきり船は再びゆったりと漂い始めた。


「五月蠅いおっさんだ」


 ふらふらしていた男が呟くとまじめに周囲を観察していた乗組員は肩をすくめた。男は普段だったら気に食わない奴にはすぐ喧嘩を売るのだが今は樹海の上だったので諦めて酒を飲む為に船室に戻った。


 怒鳴った男の名前はペロ・ブレペイス。漆黒の船ミピピッシ号の船長だ。筋骨隆々で身長は二メートル以上あり、大型の獣人並の体格をしているが、ただの人間である。彼は代々戦士の一族で喧嘩がとにかく強い。面と向かって彼に反抗した者の多くは既にこの世に居ない。


 今回の船旅自体は今の所順調に進んでいて死傷者は彼が殴り殺した二人のみだ。職務怠慢に見えた乗組員と彼の食事を落とした奴隷が犠牲となっているがこれでもブレペイス的にはかなり我慢した結果である。


 力による恐怖支配だがこの船の統率を見ると乗組員以外にとっては彼は有能な船長なのかもしれない。


 時折、珍しさに刺激された海鳥や大型の魚類が結界にぶつかってくると船は結界ごと衝撃波を浴びたように大きく揺れた。その度にブレペイスの雄たけびが響き渡ったが外を監視している乗組員は目を爛々とさせて周囲をねめまわしていた。


 彼らにとって今回は初めての大規模な樹海探索だ。過去に何度も船を使っての樹海探索は試みられたが全ては失敗に終わっている。その原因は船の強度不足と結界の耐久力不足だ。多くの船が樹海からの重力と、木の葉の海原によって破壊された。


 今回の船旅が今までと違って順調なのは、ひとえに船のお陰だ。結界魔法や探索魔法は船を触媒として発動しているので、全てにおいて船の質が重要になっている。


 鉄の船が主流となっていく中、ミピピッシ号だけは時代に逆行するかのように木造船だ。鉄の船では木造船に比べてどうしても結界の強度が出しにくい。魔法の触媒にするには、やはり鉄よりも木の方が有利だ。


 超大陸中から最高の木材を集めて作ったミピピッシ号は最高の船として仕上がった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ