真夏のメモリアル、例え時というものが過ぎ去り行くだけのものだったとしても、多分俺は俺のままでいるとそう思いたい。
< 登場人物 >
しのぶ … 主人公。内向的な性格。好きなホルモン焼きは、ミノ。
恩師 … しのぶの師匠。好きなホルモン焼きは、ハラミ。
<登場しない人物>
愚血独歩 … 空手の達人。よく不意打ちを使う。
好きなホルモン焼きはリンゲル。
鎬昂昇 … 空手の達人。まともな性格なので痛い目にばかり合う。
好きなホルモン焼きはマルチョウ。
「ぬうううううううッ!!」
俺は両腕に気を集中させる。
それから大きな水槽の中で百万ボルトの電撃を放っている電気ウナギをイメージした。
「そうだ!気の力とはこれ即ち想念の力なのじゃ!火ならば燃え盛る炎を、水ならば大海原を!風ならば嵐の真っただ中をイメージするのじゃ!しのぶよ、お前なら出来る!」
さらに俺は身体の中で空から稲妻が落ちてくる光景をイメージする。
ゴロゴロゴロ…、ドドーーンッ!!
真っ黒なカミナリ雲から稲妻が落ちる。同時に俺の背中から電気が火花を散らしながら外に放出された!
「やった!成功だぜ!電龍師匠ッ!これで俺は稲妻の力を操ることが出来る!」
今日の修行だけで、やたらとお腹が空いてしまったような気がするが雷の気を操れるようになれるというなら安いものだ。
俺はさらに精神を集中させて電圧を上げる。もしも百億ボルトくらいまでいったら電気を売って社会に貢献することも可能だろう。
ビカビカビカーーーーッッ!!!全身から光を放ち、俺は体内で練り上げた雷気を両手に集中させる。
「しのぶよ。修行の成果、試させてもらうぞ」
電龍師匠はマントを脱ぎ捨て、俺の前に立ちはだかった。てっきり師匠は痩せたジジイだと思っていたがムキムキのマッチョマンだった。
「今の貴様の全力の奥義…ッッ、しのぶコレダーで来いッ!」
まさかカツオ節大王との決戦の為に編み出した奥義「しのぶコレダー」を師匠相手に使う日が来るなんて。
俺は両手に全エネルギーを集中させて電龍師匠に向かって突撃する。
今の俺の両手には確実に百万ボルト以上の電気が発生しているはずだ。
しかし、電龍師匠もまた雷の気の使い手である。左右の百万ボルトの電撃を食らわせたところでダメージを与えられるかはわからない。
「しのぶよ、迷っているな。果たして今の自分の力でワシを倒せるかどうかを」
「!!」
「いいか、しのぶよ。気の力は心の力。もしもお前の心の中に迷いがあれば、百パーセントの実力を発揮することは出来まいて」
たしかに師匠の言う通りだ。今の俺には二つの迷いがある。
この力で大恩人である師匠を傷つけしまうかもしれない、という躊躇いの気持ちと私利私欲で電気を無駄に使っているかもしれない、という何かもったいない気持ちだ。
そもそもウチは裕福ではないから電気も節約して使わなければならないのだ。
どうする、俺?
「俺には出来ない。俺を強くしてくれた上に正しい道を示してくれた師匠に拳を向けるなんて絶対に出来ない」
俺は地面に膝を落とし、ガックリと項垂れた。
情けない。
こんなことで地球支配を目論む悪の帝王、カツオ節大王に勝つことなど夢のまた夢だろう。
俺は悔しさのあまり涙を流し、地面を何度も殴った。
「しのぶよ、他者を慮るお前のその気持ちは決して間違ってはいない。だが、今はその優しさに背を向けて目の前の敵に立ち向かう時。ワシの屍を踏み越えて、しのぶコレダーを完成させるがいい」
「電龍師匠、そこまでの覚悟だったのですか!?」
「古来より奥義の継承には犠牲はつきもの。お前がワシの前に現れた時、覚悟はしていた」
師匠の言葉を聞き終えたその時、俺の中で迷いは死んだ。
俺は涙を拭い去り、再び雷の気を両手に宿らせる。師匠もまた全身から雷の気を放出する。
紅男爵拳の奥義、エレクトリッガー拳だ。
俺の百万ボルトと師匠の一億ボルト、正面からぶつかり合えば一体どうなることか。それは誰にもわからないだろう。
「俺の右手が百万ボルト!俺の左手が百万ボルト!二つ合わせて一千万ボルト!( ※ベアークロー二刀流理論 )立ち塞がる脅威の悉くを殲滅せよ!しのぶコレダー!」
俺は師匠の両肩を掴んだ。師匠はニヤリと笑った。
ほぼ同時に師匠もまた俺の肩を掴んでいる。
まさか、これは!!!????
「しのぶよ、このワシの屍を越えてゆけええええええいいいいッッ!!!紅男爵拳、超絶奥義エレクトリッガー拳ッッ!!!!」
両者、一歩も譲らずに電気の放出を続ける。
ビババババババババッ!!
その後、小一時間に渡って俺たちは電気を出し続けた。
蒼き光を纏う超戦士同士の人智を越えた限界バトル。
この壮絶な戦いの前では常識という言葉もまた虚しく響くばかりだった。
ここで死んでもいい。
俺は精神を研ぎ澄まし、一転集中。
その直後、さらに電気を放出する。
電龍師匠は俺の雷の気が高まるのと同時に出力を上げてきた。
流石は師匠だ。
相手にとって不足無し。
「真・しのぶコレダー!最大出力っ!今、俺は雷神を越えライトニングと化した!これで終わりだ、電龍師匠ッ!!」
電龍師匠は長時間をサウナの中で過ごしてその後で水風呂に浸かっていた出てきたおっさんのような穏やかな笑顔になっていた。
「見事じゃ、しのぶ。よくぞワシを倒した。この調子で残る夏休みの宿題もクリアしてしまうがいい」
戦いの後、電龍師匠は全身黒焦げになっていたが元気なままだった。
俺はコンビニで買ってきたちょっと高めのアイスを師匠にプレゼントする。
「ほう。れでーぼーでーんとは気が利くのう」
「師匠、今日は夏休みの宿題につき合ってくれてどうもありがとうございました。次はカツオ節大王のヤツを倒してきます」
「ふむ。頑張ってくるがいい」
俺たちの夏休みは続く…。
多分、来年の夏休みもこんな感じだろう。