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サボ天使、ガチャVRに人生極振り! ~デッキを組んで強くなる世界で、魔法カード0枚からの成り上がり!~  作者: ラボアジA
4章 悪魔との戯れ編

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71話目 社長は殺しまくりたかった(殺したいとは言ってない)

(ありがとうございます、女王様)


 あたしは、ゆっくりとプライベートルームの椅子に座った。


(女王バチからも、ねぎらった方がいいですか? 芝の女王こそお疲れ様って)

(ホホホ、妾はヤワではない)

(あー……今日は23戦でしたっけ。昨日100連戦でしたもんね)

(左様じゃ。――なれど、妾の123戦目がお主と分かったときのぉ、少しイヤな予感がしたわ)

(え、なんでです?)

(チンチロという、ダイスを3つ振るゲームがあるんじゃが、123ヒフミは必ず負けるんじゃ)

(ほほ~。それじゃ、ジンクス成立ですね)

(まったくじゃな)


 イシュタール女王は苦笑した。


(それにしても、シャボン。【死の群れ】……お主はメリッサと呼んでおったが、よく仕上げたのぉ)

(ふっふっふ。あの子たちを製作したのは、凄腕の職人ですから)

(ん? いやいや、モチロン良い造型じゃったが……関節をピンポイントで狙って《麻痺》させるなど、最初は冗句かと思うたわ)

(あー)


 修行の成果が炸裂したわね。


(アレは女王様、油断してるなーと思いました。最初の2回の〖オーメン〗と、そのあとダイスいっぱい持って弾いてきたときは)

(うぅむ、【絶滅】はのぉ……。巨大な竜か、あるいは脱法ユニット用だったんじゃ。メリッサに使い切らされるのは、ほんに予想外じゃったわ)


 今の女王様は、口調こそ維持してるけど、威厳とかはオフ状態ね。気のいいお姉さんって感じ。


(シャボンはユニットを、どういう風に操作しておったんじゃ?)

(んーっと、普通に「自分で刺すような感じ」でプスプスと)

(なんじゃと!? お主、オートとかはせんのか!?)

(途中の移動は任せてますけど、細かい所は自分で指示した方がいいですし)

(4体じゃぞ!?)

(そこはもう、気合いで)

(――お主、マジでスゴいの)


 お、女王に驚かれた。フフーン、ちょっと慢心しちゃおっかな。


(ところで女王様、お願いがあるんですけど)

(フム、なんじゃ)

(あたし、勝ちましたよね?)

(ホホホ……どんな厄介事じゃ。申してみい)

(えっと。――イシュタールって、呼んでいいです?)

(なんじゃ、そんなことか。好きに呼ぶがよい)

(分かりました。ンじゃ、イーちゃんで)

(ブフッ!)


 お、イーちゃん吹き出した。中の人ってば、笑い上戸ね。


(ま……まあ、好きに呼ぶがよいぞ)

(じゃあ、イーちゃん。特技の【二重魔法】についてだけど、聞いていい?)

(きゅ、急になれなれしく来おったな……むう)


 コホンと咳払いして、イーちゃんは無理矢理「イシュタール女王」に戻った。


(妾は【エコー】に使ったが……それなら最初から、〖オーメン〗に使えば良かったのでは、という話じゃろ?)

(うん。マックスで撃つと36点でしょ? 【二重魔法】で72点。必殺だと思うんだけど)

(ホホホ、もちろん調べたわ)

(そしたら?)

(脱法呪文には使えなんだ。――社長め、しっかり作っておったわ!)


 あたしたちは笑った。


(ですよねー! あの社長、妙なトコロにこだわりがあるし!)

(おう、そのクセのぉ! ガバガバな設定もあるじゃろ!)

(え、ドコドコ!?)

(【二重魔法】じゃがのお、今は空き30枚必要じゃろ? マホロバ開始時点では「空き1枚」だったんじゃ!)

(――え?)


 ちょっと待って。空き、30枚?


(イーちゃん……あたし、ソレ知らない)

(なんじゃと!? お主、マホロバに来て日が浅いのか!?)

(エヘヘ……実はそうなの)

(ええい、何から何までデタラメなヤツじゃのお! よいか!? 【二重魔法】は正誤表エラッタが出ておるから、キチンと見るがよい!)

(イエス、マム!)


 エラッタ確認は大事なのね。シャボン、覚えた……(1日ぶり2度目)。


(【二重魔法】はのお、カードの条件には「スロットに空きがあること」としか出てないのをいいことに、長い間それで通しておる! ほんにこの世界はヒドいんじゃ!)

(ひえ~……社長を倒す案件が、まーた増えちゃったわ)

(ホホホ。そのときは妾にも連絡してほしいぞえ。【二重魔法】の30枚抜きは、かなり大変じゃったから)

(OK!)


 敵を倒して仲間になる。――うん、なんて王道なのかしら!


(にしても、怖いわねぇ。カードの文字は合ってるのに、効果は違うとか)

(そうじゃの)


 まるっきり、サギの手口でしょ。


(ねえねえ。それなら、カードの文面を変えればいいんじゃない?)


 電子上のやりとりだし、楽勝のハズよね。


(ぬ、むう……)


 ん? 妙に歯切れが悪い。


(仕方が無かった面も……あるでのぉ)


 女王様は、とっても辛そうに答えた。


(じゃが、そのおかげで、妾も〖オーメン〗を出そうと踏ん切りがついたのじゃ)

(え、どういうこと?)

(考えてもみい。こんなダメージ呪文が作れると分かったら、マネする輩も出てくるじゃろ? マホロバ・リアルの方でもな)

(あー……)


 あたしは顔を伏せた。

 そうよね。マホロバ・リアルでは、〖オーメン〗のせいで死ぬ人が出るかもしれない。


(でも、女王は世に出した)

(そうじゃ。最大で撃つなら、マホロバ・ライトに来るしかないからのお)

(31点ルールね)

(左様。――妾は、ライトを活性化させることで、自然にリアル側を衰退させたいのじゃ)


 あ。それってマサカ。


(女王様は……ざまぁ団?)

(当たりじゃ。1人で支部をやっておるわ)


 イシュタールは笑った。


(何か行動を起こせば、悪用する輩も現れおる。失敗すれば大バッシングじゃろう。――それは、今の社長がよく示しておるわ)

(殺人鬼呼ばわりね)

(そうじゃ。4.3事件は確かに悼ましかった。じゃが、社長がワザと殺したと思うておる輩の、なんと多いことか)

(本人が、メチャクチャ殺したがってたもんね)

(うむ。されど、社長はのぉ……そんじょそこらの殺人鬼とは違ったんじゃ。――いいか? あやつがのお、1回殺すダケで満足するヤツだと思うか!?)


 あー。


(思わないわ)

(じゃろう!?)


 嬉しそうに勢い込んだ女王は、すぐに、深々とため息をついた。


(妾はのぉ……。社長が誤解されとるのが、口惜しいのじゃ……)


 なるほど。その考え方、すっごい分かるわ。

 だって、マホロバ初日から、スカーレットちゃんに何度も焼かれたもの。

 イシュタール女王は、マホロバ・リアルの初日に、参加したくて参加したくて、でも、どうしても別の用事があって参加できなかった、ガチ勢だったのね。


(妾たちはのお……本気の殺し合いを望んでおった。社長はそれに答えたダケじゃ。――じゃが、正確に言えば、妾たちの誰も、それを望んでなぞおらんかった。「再戦できる殺し合い」が良かったのじゃ)


 ああ……。

 社長は、「自分たちの願いに答えたダケ」。

 ――女王様も、罪の意識を背負ってるんだわ。


(んんんー、よっし!)


 あたしは明るく振る舞った。


(イーちゃんの本心は聞かせてもらったわ!)

(――シャボン?)

(イーちゃんは……ツンデレ女王ね!)

(はぁ?)

(だって、社長を倒すことに賛成したイーちゃんなのに、実際はめっちゃ尽くそうとしてるし! 情け深い女だわ!)

(ちょ、ちょっと待つのじゃ!)

(え、何か反論でも?)

(大ありじゃ! そもそも、妾は男じゃ!)

(ありゃま、そうなの!?)

(ええい、確率を考えい! 当時はもっと社長がエゲツなかったからのお! あやつと戦っておったおバカな男女の比は、9:1ぐらいじゃったわ!)

(ほへー。社長の格好は、今みたいな青髪ナマイキ少年?)

(いいや、雪だるまのキャラじゃった)


 へ?


(ナゼに?)

(バンバン雪だるまの頭を飛ばしては、返り血で真っ赤に染まるのが楽しかったらしいぞえ)

(ひゃー)

(ついたアダ名が「惨犯ざんぱんマン」じゃ)


 ははは、乾いた笑いしか出ないわ。当時から尖ってたのね。

 でも、確かに何回も殺したかったんだわ。

 あたしのことも、10000回殺すとか言ってくれちゃったしね!


(ねえ、イーちゃん。いま1人支部でフリーなら、あたしがしょっちゅう遊びに寄ってる所に来たらどう? イーちゃんの腕なら、大歓迎されると思うわよ?)

(お主だけなら、少し考えたが……群れるのはキライじゃ)

(でも、いい人たちよ?)

(ホホホ……。そこの喫茶は、コーヒー豆の代わりに、企業の匂いがするでのお)

(あー)


 それは否定できないわ、うん。

 ガチ勢としては、大会社と仲良しこよしってのは「違う」ワケね。


(じゃあ、次に会うときは、また敵?)

(あるいは、味方かものぉ。大バカ者が出たときは、こっそり行くやもしれぬ)

(フフッ、やっぱツンデレだー)

(ぐっ……! で、では息災での、シャボン。さらばじゃ!)


 あ、逃げた。くふふ、押されると弱いツンデレ女王だわ。戦闘ではとっても強いガチ勢なのに。


 そう……イーちゃんはフツーの一般人。


 あの人の目指す方向とは……わりと同じな気がするわね。

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