59話目 天使「しばこう」悪魔「えーん」
青い悪魔は、もっと顔を青ざめさせてた。
「お、俺は最強だーっ!」
あーっと、ストレーション選手、芸術性のカケラもないデタラメな飛行です。これはヒドイ。
そんな非行悪魔に、ギュンギュン追いすがって猛チャージを掛けてやる。
「げげっ!?」
ふっふーん、ターンの技術はメチャクチャ鍛えられたからね。直線飛行よりも、カンタンに距離が縮まるのよ。
「やっほー」
「はあ!?」
背中にピッタリ張り付いて、杖で肩を叩いてやる。あっちでトントン、こっちでトントン。
「な、何しやがるーっ!」
「べっつに~。こってるみたいだし~」
飛行で最強とかのたまわれたら、ねえ? スカーレット師匠のお顔に、泥を塗るわけにはいかないでしょう?
「はい、これで8回目の肩叩き。アンタ今死んだわよ」
「うぐっ……」
「手加減して叩く方がよっぽどムズカシイ事ぐらい、分かるわよね?」
「ち……ちく、しょう……」
歯を食い縛って涙目の悪魔は、スーッと地上へ降りていった。
「アラ、『得意な空中戦』はオシマイでございますの? 良かったわ~、あたしにも勝ち目がありそ~」
悪魔はキッと見上げてきた。――ん? ヘンね。なんか笑ってるわ。
「へ、へへっ……」
真っ赤な舌で唇をなめてる。どんなロクでもない事する気?
「おい、サボテン……。戦い前のルールは守れ、よ!」
悪魔は後ろにしてた手をバッと向けてきた。呪文は……〖強制終了〗!
「ぎゃはは、かわせねえ! ジエンドだ!」
ええ……そうね。【魔力の盾】もかけてないし、素通しよ。
バシッと〖強制終了〗が掛かった。
1秒、2秒。
フーッ……ちょっぴり不安だったのはナイショ。
あたしは、ゆっくり降下して、地面にふわりと着地した。
「ありがとうね、人間のクズ」
「な……なんでだよ! お前……なんで消えてねえんだよ!」
そりゃあもう、対策を打ったからよ。
〖迷宮2〗と〖強制終了〗による脳死コンボを防ぐ手段。それは――。
「ねえ、アンタ。〖迷宮〗のデメリットって、知ってる?」
「はあ? 当たり前だろ。スロットに入れてたら、そいつも【終了】できないって……」
「ブー、不正解」
「――なんだと?」
「答えは、『マホロバから脱出できない』よ」
「同じだろ!?」
「いいえ、違うわ。その証拠が、今の〖強制終了〗失敗よ」
――そう。あたしは〖迷宮〗をスロットに入れてた。
出られないのは、フツーの人にとってはデメリット。
だけど、サボテンのあたしにとっては、超絶メリット!!
――いいわね。敵の〖迷宮〗を逆用してやるとか。皮肉ってレベルじゃないわ。
ちなみに、おっちゃんを始めとした冒険者さんたちも、みんな〖迷宮〗を入れてた。カードを熟知してた人が大勢いるんだし、当然よね。
知らなかったのは、当の即死コンボを使ってた、ざまぁ団のみ。
「サ、サボテン……! それ、チートじゃねえか!」
ぶはっ! ヤバッ、せっかくシリアス決めてたのに、思わず吹き出しそうになっちゃったわ。アンタがそれ言う?
頭を振って「お笑いモード」を吹き飛ばしたあたしは、レーヴァテインを握り直した。
「アンタ達が、どんな悪巧みを考えようとね。うまくいきっこないのよ」
「ぐっ……」
「絶対にね!」
「う……うおあああああー!」
悪魔はとうとうヤケクソになった。デカいフォークを持って突っ込んできたので、慌てず騒がず【敏速】を掛ける。
――報いを食らえ!
ヒョイとかわしたのち、カウンターでボディに突き!
「ぐふうっ!」
前屈みになったアゴへ、下からの振り上げ!
「あごおっ!!」
海老反りになった両足を、勢いよく後ろからブッ叩く!
「あぎゃあーっ!!!」
トドメは、スッ転ばせた脳天に、全体重を乗せる!
「がはぁっ!」
青い悪魔は死亡した。泣きベソかいてたけど、当然でしょ。ラビちゃんのことを思えば、とっても穏便に済ませてあげたぐらいだわ。
くるりと振り返ってカメラ目線。
「あたしはシャボン。マホロバ・ライトにいるわ。野良試合もオッケーよ。――ただし、他の人に迷惑をかけない範囲で、ね」
ニッコリ笑ってウインクしてみせたのでした。




