49話目 速さ「パワー!」
以下、あたしは、「速さ」を基準にデッキを組んでいった。
体が資本のあたしだから、「速ければかわせるけど、トロくなったらかわせない」。シンプルでしょ?
「ってワケだから、【のろま】とかが怖いわね」
「うん。一応【敏速】とかで相殺できるけど、【中和】も入れとこうか」
「え?」
初耳の呪文ね。基本セットには無かったけど。
「それって重要なの?」
「個人のリセットとしては強いよ」
銀ちゃんが説明してる間に、おっちゃんが緑のカードを探してくれた。
「こいつだな。1人の状態異常を治せるっていう、レベル2のコモンだ」
「――ねえ。このVR、やっぱりコモンが強いと思うわ」
「まあな。速さもリセットされる辺り、強烈だぜ」
はいはい。じゃあ、4枚投入っと……あら?
「マズいわね、色が5つ目だったわ」
赤2:【加速】
銀2:【敏速】【のろま】
白2:【魔法霧散】
紫1:【魔力の盾】
ここでもう1色。
緑2:【中和】
「魔色が9になって、足りないし」
そこへ、今度は銀ちゃんがカードの束を持ってきた。
「そんな時はコレ。【呪文の達人】シリーズだよ」
うわ~、通販番組みた~い。
「この特技カードは、8色分あってね。スロットに入れた色は、入れた分だけ魔色が増えるんだ」
キャー、強い! ステキよ~!
「でも銀狐~、それってお高いんでしょ~う?」
「大丈夫さ、シャボン。安心と信頼のコモンカードだからね」
「ンまあ、お値段は据え置き、0円! ありがたいわ~!」
この茶番に、おっちゃんは呆れ顔。
「――お前ら、何やってんだ」
ふ~……アイスの中の人は、ノリが足りないと思うわ。
他には、【痛み止め】や【魔力視覚】っていう、ゲーム開始時のスキルで聞いた名前の魔法を紹介してくれた。常動で効果を発揮するっていうんで、1枚ずつ投入して30分待つと。
「うわっ! 光が見えたら、魔法名まで分かるし!」
「おう。大呪文が来そうだったら、【巨大な盾】で防げ」
「6色にしろってコト?」
「【呪文の達人】を増やすんだな」
なんか、ドーピングして、ズルズル深みにハマってる感じね。
「あ、【忘却】って、特技も指定できるんでしょ?」
「だな」
「なら、【呪文の達人】も指定できるってコト?」
「できるぜ」
「強い!」
今回、相手はお互いダケ。クールタイムは30秒だから、逆に言えば、「30枚は常動の呪文が入れられる」ってこと。
あと、呪文は軽いほうが使い勝手いいわ。
とすると、各色に散らばってる、2レベルぐらいまでの強い呪文を入れてくるハズ。
「うふふ……あたしのイヤがらせの【忘却】が火を吹くわ」
「おー、そんなツラできる奴は、弱体化を使いこなせると強くなるぞー」
かくして、おっちゃんと銀ちゃんに手伝ってもらいつつ、ついにあたしだけの「VS社長特化型・決戦兵器!」デッキが完成したのでした。わー、パチパチ!
本当は竜ちゃんズを山ほど入れて、「昨日の敵は今日の友! 食らえ社長! シュゴー!!」デッキとか組みたかったけどね。
【箱庭】がチラついたのよ……。ゴメン、みんな!
とゆーワケで、非情に徹したからには、絶対に勝つわよ。
「おっちゃん、練習相手になってくれる?」
「おう」
銀ちゃんが店の奥の扉を開けた。
「地下に練習場があるから、そこでやろうか」
いよいよ秘密基地めいてきたわね。
「俺も久々だし、社長ほど動けるか分からんがな」
ふっふっふ……。おっちゃん、あたしの踏み台を買って出てくれてありがとう。
新生シャボンの強さ、とくと味わうがいいわ!
ボロ負けした。
「おっちゃーん! 何枚も【中止呪文】使うのズルいわよー!?」
「オイ、人聞き悪いな。【悪魔の契約】でクールタイムを解いてるだけだぞ」
ぐはぁ。
一応、各呪文ごとにスロットを1枚空ける必要があるらしいけど、それでも4枚空ければ【中止呪文】が8枚とか。正直チートだわ。
「もっぺんよ!」
「おう、いいぜ」
デッキを回してみて、使い方を覚える。
「うわーん! また【巨大な盾】が消えたー!」
「だから、【魔力の盾】が後と言っただろ。青い盾が先、紫の盾が後だ」
「うぅ……アオがサキ、ムラサキがアト……」
世知辛いわ……。社長、覚えてなさいっ!
燃える天使と化したあたしは、おっちゃん達が帰ったあとも、AI相手に黙々と練習した。場所はそのまま借りさせてもらってね。
銀ちゃん。倒せたあかつきには、動画の最後に「スペシャルサンクス:サラマンダーの夜(建物)」って書いていいわよ。
木の人形やら青い人影やらを相手にポカポカ叩くことしばし。
「うお! お前、まさかずっとやってたのか!」
アラ、おっちゃん再び。――って、もう朝?
「シャボン……。お前、コンディション大丈夫かよ」
「へーきへーき、途中で仮眠取ったから」
心配させないための優しいウソよ。「本体サボテンなんで大丈夫」とか、その方がウソっぽいし。
その後も練習して、さらに動きを磨いた。速くなって、そこで【巨大な盾】、【魔力の盾】と張って、タコ殴り。これが必勝パターン。
「よっし! ンじゃ、行きますか」
お昼前に、あたしたちは本社ビルの前へと向かった。
昨日と違って、どこか閑散とした新宿の西口で、じっと時を待つ。正午を過ぎ、「あれ? すっぽかされた?」とか少し思った頃、ビルの入り口から黒スーツを着た青髪少年が出てきた。
「よお、待たせたな」
「ええ」
挨拶がてら、スキャン!
名前:カルイザワ
種族:〈水玉/Aqua〉
攻撃:2
速度:4
容貌:美しい
年齢:15
身長:71
体重:29
領土:【島/Island】
社長もあたしをスキャンしてたみたい。
「おー、お前NPCか」
興味をひいたみたい。てか、やっぱ口調が軽いわね。
「もしかして、《不眠》持ってるか?」
「持ってるけど、何か?」
「マジか。オレの中でかなり評価上がったぞ」
うわーい……って、コレ、喜んでいいのかしら。
「あたしも聞いていい? 身長と体重、絶対違うと思うけど」
「ああ、こいつは《人間変身》のユニークスキルのおかげだな。ヒト形態だと、172の58ってトコだ」
お話ししてる途中で、おっちゃんと銀ちゃんは静かに離れていった。社長と一緒に出てきた大柄の影さんも、そーっと控えていく。挙げ句には、ビルまでお空にロケット噴射。(跡地に魔法陣は無し)
「さてと。場所は確保できたな」
社長は手をプラプラと指を解したのち、インベントリから1本のナイフを取り出した。
「真昼の決闘と洒落込もうか」
「オッケー」
あたしも、インベントリからレーヴァテインを取り出した。
シャボンのデッキです。
デッキレシピ
「VS社長特化型・決戦兵器!」
青1 4枚
【巨大な盾】×4 1 ・あらゆる物理攻撃とそれに付随する衝撃をゼロにする。1回のみ。
緑2 4枚
【中和】×4 2 ・回復。1人の状態異常(毒、呪いなど)を治す。
紫1(+1) 9枚
【忘却】×4 2 ・対象者のスキルか特技を1つ封じる。
【魔力の盾】×4 1 ・あらゆる魔法を1つ防いで消える。
【魔力視覚】 1 ・常動。呪文準備中の光を見たら、呪文名が分かる。
赤1(+1) 7枚
【加速】×4 2 ・自分のみの【敏速】。(速度に+1)
【煙幕】×2 2 ・範囲。煙で覆う。
【痛み止め】 2 ・常動。ノックバックを防げる。
銀1(+1) 10枚
【敏速】×4 2 ・速度に+1。【のろま】とは対消滅。
【のろま】×4 2 ・速度に-1。【敏速】とは対消滅。
【暗視】×2 1 ・暗がりでも視界がきく。
白2(+2) 16枚
【魔法霧散】×4 2 ・付与魔法、もしくは領土魔法を1つ解除する。
【再生】×4 2 ・使えなくなった四肢、目、耳、口が元に戻る。
【武装解除】×4 4 ・武具を外す。全ての攻撃用付与呪文を解除する。
【光】×2 1 ・光を出す。
【閃光】×2 3 ・眩しく光る。
特技 10枚
【武器の達人:杖】×4 ・常動。1枚につき杖の攻撃+1。
【呪文の達人:紫】 ・常動。対応した魔色が1上がる。枚数上限は、アバター本来の魔色まで。
【呪文の達人:赤】 ・同上。
【呪文の達人:銀】 ・同上。
【呪文の達人:白】×2 ・同上。
【魔力制御:白】 ・常動。1枚ごとに白の呪文コストが1安くなる(最低1マナ使う)。
計60枚




