5話目 ドラゴン「燃えよ」
なるほどね。殺人鬼は、ダンジョンマスターでもあるってワケ。
鍾乳洞に光源はないけど、なぜか視界は利いてる。このへんは、ゲーム的な処理に助けられてるわね。
「ま、最初はゴブリンかスライムでしょ」
いくら社長が絶対殺すマンでも、ゲームの作法は守るハズよ。とすると、弱い敵をウロつかせて、プレイヤーをビビらせるのが王道ね。その魂胆は、魔法カードを山ほど買わせること。魔法を使えば勝てるって快感を与えといて、さらにハマらせるのが狙いよ。
なーんて、甘いことを思っていた時期もありました。
ズシィーン、ズッシィイーン……。
巨大な足音が、鍾乳洞の奥から響いてくる。
あっ……ここ、ボスの部屋だわ。
『アンギャアアアオォォオオオ!』
暗がりから姿を現したのは、見上げるほどの赤竜。
「――ウソでしょ?」
高さは5mぐらい。多分、物語とかの竜に比べたら、随分とチビっこ。
ンでも、実際会ったら分かる。
これ……死んだわ。
レッドドラゴンは、なぜか咆哮したあとも口を開けっぱなしだった。
え? 口の中に炎って……口内炎?
シュゴー!
「ヤバッ!」
吹き付けてきた! 《天使の羽》で飛んで、ギリ回避!
ボォー!
「うわわっ!」
え、ウソッ! 空中にも吹くの!?
寸前でかわして遠ざかるけど、竜も翼を広げて飛んでくる!
「ぎゃー! タンマタンマー!」
竜はまた口をあんぐり。
「ダメだってばー!」
コイツめっちゃ殺意高いわ! 社長に似たペットね、お利口さん!
シュゴー!
あたしは黒焦げになって死んだ。ウェルダン。
「――で、復活は小部屋、と」
もちろん、社長はすでにいない。
一周目だけのサプライズとか……ないわね、殺人狂だし。
案の定、扉の先は鍾乳洞。
オッケー、自力で脱出しろと。
「燃えてきたわ、クソ社長」
鍾乳洞の広さは……アイツを暴れさせるためってワケね!
今度はスグに飛び立ったから、鬼ごっこは若干の余裕がある。
――どこかへ通じてる道があるハズよ。どれだけ死んでも、折れてやるもんか!
まずは四方の広さを確認した(4敗)。なだらかに上へ続く道も発見。そこは最初の鍾乳洞の真上に広がるフロアだった(1敗)。残念なことに、ドラゴンも通れるほどのワイドさだったけど、めげずに上の広さも確認(4敗)。
で、分かったことは。
「出口なし!?」
ウソ、まさかアイツに勝つまでダメとか!? 正気!?
唯一、上のフロアで違ったのは、地底湖を発見したことぐらい。
「違いがある以上、そこがアヤしいわ!」
潜ってみたら、ワープ装置とかあるかも!
ザブーン!
ぶくぶくぶく。
「――ないわ」
シュゴー!(1敗)
「あ……ずっと潜ってれば、焼かれずに済むかも!」
ザブンと潜水するも、こういう時に限って浮力が働く。うぐぐ……。
ぷかー。
シュボー!(1敗)
「そうよ、岩を持って沈めば!」
辺りに手頃な岩もあるし、きっと正解ね。
それっ、ドボーン! よし、沈んだわ。あとはコレを持って……!
「う、ぐぐっ……」
息が、くる……しい……。
ぷかー。
シュボー!(3敗)
「今度こそ、絶対に離さないわ!」
ドボーン。
ごめん、やっぱ苦しい……。でも、これを乗り越えた先に、きっと新しいステージが……。
「ほらほら! 新しい部屋キター! ――って、見慣れた部屋だし!」(1敗)
ぐはぁ。このゲーム、呼吸できなくても死ぬのね。
あー、もう! かくなる上は!
「いっそ、無抵抗!」
大きく手を広げて、優しくほほえみかける。
ええ……そうよ、ドラゴンちゃん。あなたとあたしは仲良し。
もう、何も怖くない。
シュゴー!(1敗)
「うがー! やられる前にやれー!」
ゴオォー!(1敗)
いや……うん。それが出来たら、苦労しないわね……。
「――当てずっぽうじゃ、ムリだわ」
部屋で、本格的に作戦を練ることにした。
けっこう気になってたのは、あたしが鍾乳洞の上スレスレを飛ぶと、ドラゴンもそれに合わせて上を飛ぶのよね。で、ちょいちょい頭をブツけてたの。
「頭突きでダメージを与える?」
鍾乳洞の力を使って倒す? ――うん、イケるかも!
あたしは早速、洞窟の上スレスレを飛び、手を叩いてハシャいだ。
「へいへ~い、ドラゴンちゃ~ん! びびってる~?」
レッドドラゴンが咆哮し、更に赤くなった気がした。お、挑発も効果あり。イケるんじゃない?
煽ったあたしの元へ、一直線に向かってくるドラゴン。炎のブレスを寸前でかわし、ドラゴンはそのまま鍾乳洞の天井に激突。パラパラと拳大ほどの石が落ちる。
――よし、これで脳震盪を起こして、ドラゴンは失神! 墜落でジ・エンドよ!
の、ハズが。
『アンギャアァオオオオー!』
「ギャー!」
ピンピンしてるー!? ドラゴン様は石頭ー!
シュゴオオオオオォォーー!!
怒りのせいか、いつもより多くブレスをもらった。ウェルダン。
「や、やるわね……」
心は折れてない。けど、泣きそう……。
出口も結局見つからないし……あ、まさか隠し扉とか? この広さで!? 何そのムリゲー!
くっそぉ、社長めぇ……。
「アホー!」
『エイホウです』
ん?




