40話目 グール「どくどくゾンビーズ」
次の部屋は暗闇ルームだったけど、ここでもラビちゃんが大活躍だった。
「【光の精霊】!」
ふわりと白光を放つユニットで、【闇】を何度もかき消してくれる。
暗がりでは、どういうワケだかグールたちが速く近付いてるみたいで、何度も囲まれた。ほんっと、イヤな「だるまさんが転んだ」よね。
杖でバシバシ叩いていくけど、妙にグールのフットワークが軽くて、チョイチョイかわされる。
ガブガブガブ。
「うっ!」
ヤバッ……シビれた!?
グールに囲まれた状態で《麻痺》とか、これゼッタイ映画中盤で死ぬ美女じゃん!
でも……こっちにはウサギの女神がついてるわ!
「【解毒】!」
あ~、ラビちゃんの癒やし能力は最高よね~……。
スパパパパーン!
あたしはすかさず蹴散らした。
「ラビちゃん、ありがとう」
「えへへ……」
ん~、カワイイ~。――あ、また暗闇が。あたしとラビちゃんの仲を嫉妬か、闇の精霊め。しっしっ。
「ラビちゃん。闇だと視界が通らない?」
「はい。【巨大な盾】のターゲットに出来ないです」
むぅ~、残念。
相手が見えてないと、呪文の対象に取れないんだって。場所を指定して効果を発揮させるワザもあるけど、それはスッゴく難度が高いんだそう。
「すみません……」
「大丈夫よ。ラビちゃんは十分スゴいわ。あとは、お姉ちゃんがバシッとやっつけてくるダケね」
あたしがブンブンと杖を振ってると、グール軍団が荒技を使ってきた。
ガブリ、ガブリ。
「うげっ……」
グールがグールを食らってる。――このゲーム、レーティング大丈夫なの?
なんて、のんきな不安もつかの間。
グールの動きが、メチャクチャ速くなった。
「え!?」
ガブガブガブーッ!
「ギャー!」
「お姉さん!!」
何その共食いドーピング!? ヤバい、またマヒった!
体が動かない状態で、何度も食らわれる。
イヤらしいことに、あたしとラビちゃんの間には、また暗闇地帯が。視界が遮られた今、【解毒】がもらえない。
うぐぐっ、クモちゃんズを寄越す……? うぅん、そしたらコイツら、絶対ラビちゃんの方にいくわ。一斉に飛びつかれたら防ぎきれない。
「お姉さん!」
「ラビちゃん!? 敵が来た!?」
「いいえ! でも、緑で【毒牙】って魔法、持ってますか!?」
あったかしら……あっ!
「1枚あったわ!」
「使ってください! 《麻痺》が解けます!」
ああ、女神様!
スグに【毒牙】を使った。敵が毒状態になるって魔法だったけど、「素手で攻撃すると」って条件があったから、実は削る候補に入ってたほど。
だけど、効果はてきめんだった。
――動く!
「戻れ、レーヴァテイン!」
パパパパーン!
落としてた杖を回収して、しっかりと握る!
「さあて、今まで食らった分は、キッチリとお返ししてあげるわ!」
倍返しよ。くわっ!(目を見開く)
その後は、危なげなく敵を掃除できた。途中で出てきたボスは、頭が3つあるワンコだったけど、瞬殺。いやー、レーヴァテイン投げて一撃だったわ。フッ、飛び道具ありなの、ワンちゃん。悪く思わないでね。
そして今は、そのワンちゃんのカードだけ「待て」の状態で触らずに、お部屋で休憩中。
「ラビちゃん。【毒牙】で《麻痺》が解けるってコト、よく知ってたわね」
「えっと、カエル先生が教えてくれたんです。『良いか、みんな。麻痺も毒の一種じゃから、【解毒】ができるんじゃ。【毒牙】の魔法は、自分の素手で毒を与えられる状態にするから、自分の毒状態を消す効果もあるぞい』って」
「おお~」
園長グッジョブ。そして、モチロン。
「ラビちゃん、よく授業を覚えててくれたわ~。ありがとう」
「私こそ、お姉さんに守ってもらってるおかげです」
「え、なんで?」
「だって……ここに来られましたから。私1人だったら、とてもムリでした」
はふ~ん、謙虚ねえ。そこも好きだけど。なでなで。
今回は、ラビちゃんが【治癒】を使ってくれたおかげで、早くライフを回復できた。
クモちゃんズを始め、みんなに盾も張ってもらったし、準備万端。
「ンじゃ、ラビちゃん。取るわよ?」
「はい」
あたしは【ケルベロス】のカードを拾った。
ゴゴゴゴゴ……。
洞窟の真ん中に、隠し階段が現れる。
アラま、強制移動じゃないあたり、ヌルいわね……って、ダメダメ。社長に毒されてるわ。
薄暗い下り階段を、ラビちゃんの【光の精霊】が照らしながら降りていく。結構長い時間歩いて着いた先は、巨大な神殿遺跡。
「おぉ~」
「うわぁ……」
ナゼ唐突にパルテノン? いや、似てるダケで違うんでしょうけど。
2人でキョロキョロ見回しながら、遺跡内部へとお邪魔する。
入ってスグの場所には魔法陣があって、その中心には背を向けた女神像があった。
――妙ね。こういうのって、フツーは入ってくる人の方を向いてるもんじゃないの?
回り込んで見てみると、やっぱり神殿の奥側を向いてる。で、手を組んで祈りのポーズ。
奥の方に目をやると、一段高い祭壇があって、大きな骨が無数にゴロゴロしてる。
う~む、なんかの儀式? 分かんないわね。
あたしは周りを警戒した。
「さあ、どっから現れるの、竜ちゃん?」
もっと奥から? 空から? それとも魔法陣から?
「お、お姉ちゃん……」
「ん?」
ラビちゃんが、震える指で祭壇を示した。
「ほ、骨が……」
カタカタと揺れ始めたかと思うと、ガシャンガシャン組み上がっていく。
「おお~」
いつしか、見上げるほどのサイズの骨格になる。
「なるほど……。最初から見えてたってワケね……」
『ガアアアアー!』
どこから声を発してるのかも分からない骸骨竜が、あたしたちに襲いかかってきた。




