39話目 あたしと踊りましょ
「あ」
その時ラビちゃんが、ウサ耳ごと「あわわ……」と震えた。
「ん、どうしたの?」
「えっと……【巨大な盾】を、掛けておけば良かったです……ごめんなさい!」
「あー、大丈夫よ」
もういっぺん、ギュッてした。
「あたしこそ、ラビちゃんにカッコつけて、いいトコ見せようと思ってたの。ゴメンね」
「お姉さん……」
「盾なしでもいけるって、過信してた」
あたしは頭を下げた。
「お願い。ラビちゃんの盾で守って」
「は、はい」
すぐにラビちゃんの杖が青く光って、あたしに【巨大な盾】が付与された。それと、クモちゃんズやドローンくんにも。
「あ~、そっか。ラビちゃん、スロットにたくさん盾があったから、みんなに張れるんだ。スゴ~い」
お、照れてる。カワイイなあ、もう。
もちろん、ラビちゃんにも盾がしっかり付いた。
「おっと、そうそう」
忘れずに、さっきの敵カードを回収。――うげ、【寄生虫】? なんて名前なんだか。
「ンじゃ、進むわよ」
「はい」
細い通路が続くってことは、あたしが前で防げばラビちゃんは安全ね。
角を曲がると、すぐに寄生虫がダッシュしてきたけど、今度は短く持ってバンバン潰していった。たまに抜かれそうなときは、ワザとあたし自身がスキを見せて、体に食らいつかせる。
パリーン。
最初の噛み付きは盾で防いで、2撃目の前に杖でゲシッ。
「ゼロ距離なら、難なく倒せるわ」
「お姉さん、スゴイ……」
「いやいやいや、ラビちゃんのおかげよ。盾をいっぱいと、【清掃】があるからこそ出来る手段だし」
この辺は、コントローラーを握ってプレイするゲームとは違うわね。VRだと、「まさに、自分!」だから、50cmのハエとか、盾なしだと気色悪いわ。
「お姉さん……。わたしは、あってもムリです……」
あれ、マジで?
【寄生虫】の出る通路の先が広かったから、ラビちゃんに【衛星球】を飛ばしてもらった。
「広いですね」
映像を出してもらうと、そこは鍾乳洞。
「うわー……。社長、ゼッタイ秋芳洞とか好きでしょ」
こんなに多いってことは、間違いないわ。――あ、そういえばマホロバにもあるのよね? どうなってるのか、今度行ってみましょ。
あたしは【生物探知】を使ってフロアを探ってみた。
「ん? ヘンね、1体しかいないわ」
この広さで1体とか、ボス? そんなワケないわ、ちょっと早すぎでしょ。
警戒しながら入ったら、上からポトリと寄生虫だった。うえー、ヤダヤダ。
スパーン!
「はー、大振りできるってラクだわー」
「スゴい、お姉ちゃん……きゃあ!」
「ラビちゃん!?」
パリーン、とラビちゃんの盾が割れた。さっきは反応が無かったのにと思ったら、地面の下から骨だけの手がボコリ。
「なーるほど……。【生物探知】に、死者は引っ掛からないってワケね」
こりゃ1本取られたわ、はははー。
見ると、次々とスケルトンやゾンビが土の下から這いだしてくる。
「お、お姉ちゃん……」
ひしっと縋ってくれる。――あー、誓って言うけど、彼女のこの反応が欲しくてお化け屋敷を選んだワケじゃありませーん。役得だなーとは思うけど。
「ラビちゃん。あたしがどんどん倒していくから、ラビちゃんは盾が剥がれたら補充して」
「はい」
さーて、杖1本で無双しましょうか。
いっぺんクルクルと回したあとで、ちょっとだけ浮かんでアンデッドの群れに猛然と突っ込む。トロい骸骨やゾンビどもに一撃をくれてやる。
どこからともなく、もの悲しいバイオリンの調べが流れてきた。――フィギュアスケートで聞いたことあるわね。死の舞踏だったかしら。なかなかステキだけど、ラビちゃんの援護があるあたしの敵じゃないわ。
たまに途中参戦してくるゾンビが、あたしの足にタックルしてきたりするけど、盾でガード&ラビちゃんが張り直してくれる。
はーい、踊り子には手を触れないでくださーい、と。
スパーン!
モグラ叩きよろしく、手にレーヴァテインを叩き込んでゾンビ退治。ふふふ、音楽も盛り上がってきていい感じだわ。
それにしても……妙ね。後から後から敵が湧いてくるんだけど。
「お姉ちゃん!」
む、ラビちゃん(の乗ったクモちゃん)が囲まれた! クモちゃんズに護衛させてたけど、限界があったわね。
急いで戻って、スパンスパン。――なんか、芸人の風船割りみたいね。待ってる側の風船が、ミニ列車の先の針で割れる前に、動いてる側がダーッて頑張るやつ。
「大丈夫、ラビちゃん?」
「あ、ありがとう、お姉ちゃん……」
「もうちょっと待っててね。さすがに倒せると思うから」
「あ。そのことなんですけど……」
ん?
「えっと、お姉ちゃんが1度倒したゾンビが、また起き上がってたんです……」
ほほぉ。
「ラビちゃん。一旦消えて、土から出たんじゃないのね?」
「は、はい。見間違いじゃないと思うんです、けど……」
「ああ、確認したダケよ。スッゴく大事な情報だったわ。ありがとう」
そうだったわね。こういうザコルームに入ったときは、何かしらのボスがいたっけ。
とすると……やることはコレでしょ。
あたしはラビちゃんの周りに【紡ぎグモ】を補充した。そのあと、もういっぺん【生物探知】!
「――いた!」
ビンゴ! 1体、反応あり!
ゾンビや骸骨はアンデッドだから、引っ掛からない。
じゃあ、引っ掛かったのは?
「生きてるボスよ!」
あたしは一目散に急行し、ゾンビや骸骨を蹴散らした。ソイツはイヤらしいことに、他のゾンビと似たような格好で、後ろの方に隠れてる。あたしが無双すると、「倒れたフリ」でやり過ごしてた。
「今までのボスとは違うタイプね」
エゲつなさには変わりがないけど。
あたしは杖を振るってソイツをぶっ叩いた。
ボシュー!
おお、カードになって、音楽が止まったわ。やっぱりこいつが、死の舞踏の元凶だったのね。
他のゾンビや骸骨もカードになっていき、残りは立ってる奴だけ。
「よーし、チャチャッと終わらせちゃいましょ!」
スパパパパーン!
タネが分かれば、あとはカンタン。少し手間取ったけど、無事に全てのアンデッドを退治できた。
「ラビちゃんのおかげよ。ありがとう」
乾いた奴らを倒したあとは、潤いを求めてモフモフするのでした。は~、まだ10数回だし、クセになってはいないわ。もふもふ。
この部屋で手に入ったボスカードです。(他のカードは活動報告に載せときます)
【死体漁り/Necrovenger】
レベル4・黒魔法/レア
分類:召喚(無法者)
攻2/速2/体2
サイズ:中
能力:【掘り起こし】
死者を蘇らせるのに、魂などいらない。
使えるところを繋げば……そら、一丁上がりだ。
――死体漁り




