4話目 魔法カードはガチャ
「よし、天使。アバター、スキルと決めたから、最後は魔法だな」
おーっと出たわね、ファンタジー。期待してるわよ、少年社長?
「このVRゲーム『マホロバ』は、キャラが一切成長しない。長くプレイした者も、初めてプレイする者も、アバターの力は同じだ」
「レベル上げの楽しみは?」
「プレイヤー自身の経験値だな」
ふむ。本人の知識がモノを言うのね。
社長は片眉を吊り上げた。
「もちろん、お手軽な強化方法は用意してある」
「どんなの?」
「アバターには、魔法スロットが60個あってな。ここに魔法カードを組み入れることで、強い魔法を使えるようになるんだ」
え?
「社長、しつもーん。成長しないのに、どうやったら魔法が覚えられるの?」
「そりゃあ、カネだな」
「ゲーム内のお金ってこと?」
「いいや、リアルマネーさ」
社長はOKサインをしつつ、反対側の手に薄いパックを出現させた。
「この1パックに、5枚の魔法カードが入ってる。中身はランダムだ。こいつを現金で買ってくれ」
なーるほど。このVR、どこで収益上げるのかナゾだったけど、魔法で稼ぐわけ。
「ガチャね」
「違う!」
社長はダダっ子のように首を振った。
「トレーディングカード! TCG! ――はぁ~あ、最近の若いヤツは風情を知らねえぜ」
中身がダダ漏れよ、社長さん。
「さて、買い方の説明な。ステータス画面を出せば一発だ」
「どうやって出すの?」
「『ステータス、オープン!』って叫べ。腹の底からな」
「分かったわ。――ステータス、オープン!」
出ない。
「あれ?」
「ダッハッハー!」
社長が指を差した。
「出るわけねーだろ! 念じろよ!」
――ヒドい。
「ねえ。このやりとり、必要だった?」
「もちろん! 俺のやる気がわいてきたぜ!」
へーえ。あたしの殺意もわいたわよ?
ジト目で見ながら念じると、半透明のデータが出現した。種族名に〈天使〉ってあるし、あたしのデータね。
「ねえ、一番下に『パック購入』って文字があるんだけど」
「おお、そいつを選択だ。あとは個数を指定して、インベントリにパックが出てくるって寸法だぜ」
「インベントリ?」
「道具袋のことだな。これも叫んだら出てくる」
はいはい、「念じたら」ね。――ふむ、なんか小型のコインロッカーみたいなのが出てきたわ。今はカラね。よし、クローズと。
「ちなみにガチャの値段は、100円で1回だ」
あらら、自分でもガチャ呼ばわりだし。所々AIって分かるわね。
「さて、1回で手に入る5枚の魔法カードだが、そのうち4枚は、一番ランクの低いコモンだ。もう1枚が、中くらいのアンコモンか、高いレアになってる」
「ふーん。で、それってナゼか、アンコモンばっかり出るんでしょ?」
「ちゃんと救済措置はあるさ」
社長はニコやかだった。
「10連続で引くと、最後は必ずレアになる」
「うわー、やさしー」
普段は絶対アンコモンって、認めたようなものよね。
社長は手の平を差し出した。
「さて、お前はいくら払う?」
「ゼロで」
「ほほー? いいぜ、大好きだ」
あら、意外。
「あたしてっきり、ゴリ押しだと思ってたけど」
「ねえよ。そんな商売、下の下だろ」
シッシッと否定する。
「ただ、メチャクチャ死ぬだけさ。手ぶらで俺の世界に挑む……ハハッ、楽しみだ~」
うわあ。社長ったら、最高にノリノリ。
カードを売りたいんじゃなくて、本気で殺したいのね。
「ねえ。ちなみに魔法ゼロだと、難易度は?」
「軽く10000回は死ぬ」
多すぎィ!
「ちょっと? そのゲームバランスで、誰がトクするのよ?」
「俺だよ~! 人があがくの大好きでな~。おーっと、今更カネで解決すんなよ? させねえけどな!」
ひどい殺人鬼を見た。――あのー、運営さーん? 案内人の選択、絶対ミスってるわよー?
「さ~て、買わねー奴は、魔法の説明なしでプレイするのが好きなドMだろ? 俺はヤサしーからな。あえて教えずに、放り出してやる」
うわー、まさかの全スルー。
「さっ、あとは名前だけだ。ほれ、好きに決めろ」
スッゴいテキトーになったわね。
そりゃあ、あたしだって、本当はいくつか買いたかったわよ? だけど、しょうがないじゃん。サボテンは無一文なんだから。
――ああ、そうよ。こんな風に抵抗したところで、あたしの脳がサボテン化しちゃったらオシマイなのよ。富豪さんの誰かがVRに気付いて、強制終了しちゃっても終わりだし。
結構、儚いのよね。
「あたし、『シャボン』って名前にするわ」
「ほお……いい名前だが、すでに登録済みだな」
あら、先客がいたのね。
「ただし、シャボン・珠子ならOKだぞ?」
「あ、ならそれで」
「よし。アバター完成だ」
社長は部屋の扉をガチャリと開けた。
「無事に逝けることを祈ってるぜ。頑張って逝けよ~?」
ンまあ、表情が豊かだこと。絶対「逝け」って漢字だわ。
かくしてあたしは、VRゲーム「マホロバ」の1歩を踏み出したのだった。ベベンベン。
出ると鍾乳洞だった。
「え?」
振り返ると、扉はない。
おーいぇ、殺意マシマシ。
完成した主人公のステータスです。
名前:シャボン・珠子
種族:〈天使/Halo〉
攻撃:3
速度:4
容貌:神々しい
年齢:17
身長:175
体重:59
領土:―
体力:64/64
マナ:8/8
デッキレシピ
スキル 2枚
《天使の羽/Angelic feather》
《不眠/Vigilance》
特殊 2枚
【開始/Start】
【終了/Quit】
計4枚




