37話目 何をおっしゃるウサギさん
本日の授業は青魔法だった。
今、あたしの前には、前衛と後衛に1人ずつ男の子が立っている。
カエル園長から指示が出された。
「シャボン。まずは前衛の子を、1回叩いてもらっていいかの?」
「はい」
ポカッ。
パリーン。
青いエフェクトが砕けた。――あ、これはあたしも分かるわ。大ちゃん戦で、アイスが何度も掛けてくれた呪文よ。
ミッちゃんが校庭の生徒に告げた。
「今のが、【巨大な盾】じゃ。どんなに強力な1撃でも、ノーダメージにできる防御魔法じゃぞい」
子供たちは口々に「おおー」とか「つよーい」とか言ってる。あらあら、素直ねえ。
「ふむ。ではお主たち? この【巨大な盾】は無敵かのお?」
お、うなずいてる子がいっぱい。「うん」とか「張り直せばいいもん」とか言ってる。
――でも、そうじゃない子もいるわね。
「では、『違う』と言う者がいたら、手を挙げて答えてほしいぞい」
すると、数人が手を挙げた。園長は、一番大人しそうな白ウサギの女の子を指す。
「ラビ、答えを」
「はい……。えっと、呪文で張り直すより早く攻撃されたら、間に合いません……」
「んむ」
この答えがキッカケで、「無敵だよ」派と「違うもん」派に分かれて、ワーワー言い始めた。
ミッちゃんは苦笑する。
「それでは、今から実際に、天使のお姉さんにやってもらおうかの」
ミッちゃんから念話がきた。
(連続攻撃でお願いします)
(分かりました)
さっきと同様に、前衛の子を叩いて【巨大な盾】を壊してみせた。2発目は防がれて、その間に後ろの子から【巨大な盾】が飛ぶ。
「ほらー、防げるよー」
ふふふ……無敵派ちゃんたちに、一瞬だけ夢を見させる。プロの手腕がニクいわ。
ポカポカポカポカ!
「うわー!」
前衛の子をレーヴァテインでポカポカ。あ~、子供を叩く行為は野蛮よー、なんて痛ましいのかしらー。でも手が勝手にー。ポカポカ。
前衛の子を地面に転がしたら、今度は後衛の子にニッコリ。
「あ……」
自分に【巨大な盾】を張るリスの男の子。いいわねー、ナイスな考えよ~?
でも、残念。
スグに距離をつめて、ポカポカ攻撃。
「うぎゃー!」
ふふふ……往生せいやー!
後衛のリスちゃんも地面に転がした。
ふう、スッキリ……じゃないわ、ああー、ごめんなさいー(でも楽しい)。
ミッちゃんも満足げにうなずいた。
「今のお姉さんのように、連続攻撃をしてくる相手じゃと押し切られてしまう。【巨大な盾】を掛けてもらったからといって、これを過信するでないぞ。キチンと防御もするんじゃ、良いな?」
「はーい!」
おぉ~、ミッちゃんが今いいコト言ったわ。教育者ポイント、1点回復ね(さっきのサインでマイナス100)。
授業の後半は、2対2で【巨大な盾】を張る&壊すの練習をしてた。
うふふ、ほほ笑ましいわね~……あら?
「ラビの攻撃は弱いなー。盾なしでも止められるぜ」
「うぅっ……」
ありゃま、男の子チームにラビちゃんがアタックしてるけど、ポカポカが大振りなせいで簡単に防がれちゃってるわね。本当なら、もっとコンパクトな武器がいいんでしょうけど、みんな同じ棒だし。
「だいたいさー、防御できても、攻撃しなきゃ勝てないじゃん。ラビじゃ勝てないぜ」
あーあー、こういう男子いるよねー。不必要に言っちゃうの。
ラビちゃんは泣きそうなのを耐えてポカポカ。よし、やっちゃれ!
ンでも、ラビちゃんパワーだと男子を倒すことはできなかった。むー、残念。
今度は、前衛と後衛が交替。
「よくもラビを!」
うん、その男の子じゃないけどね。――でも、こっちの女の子はポカポカ叩けてる。余裕で押し勝ってるわ。さすが狼ちゃん。
「――あ」
そっか……違うのよ。
あたしは慌てて、他の子たちの戦いぶりを見た。
うん……やっぱり。
スゴいわ、この子。
「んむ。では、今日の授業は終わりじゃ」
ミッちゃんが挨拶をした。
「今日からは、パーティを組んでダンジョンに潜るのも許可するぞい」
お、子供たちからスゴい歓声。サプライズだったのね。
「じゃが、くれぐれも一般の人に迷惑を掛けぬようにな。それと、怪しい人がいたら、速やかに【終了】。そして、ワシら先生に知らせてくれ」
「はーい!」
ああ、「ざまぁ団」とかいう妙な奴らもいるしね。
みんなはスグにパーティ組んで【終了】してた。キャラを大人バージョンにして、本社ビルの前で集合するみたい。
あたしも園長から箱をもらった。いぇーい、ラブリーボックスちゃんゲットよー。
そんななか、1人寂しそうにしてるウサちゃんがいた。
「ラビちゃん」
しゃがんでニッコリすると、ラビちゃんもほほ笑み返してくれる。
「ラビちゃんは、ダンジョンとかイヤなのかな?」
「うぅん……。でも、わたしが行くと足手まといだし……」
あー、さっきも女の子チームから誘われてたけど自分から拒否しちゃってたもんね。もうちょい強引に誘って欲しかったトコだけど、それを求めるのは酷かー。
――よし!
「んじゃ、お姉さんと組もっか」
「え……?」
ちょっと嬉しそうなラビちゃんだったけど、スグに耳が千切れそうなほど首を横に振った。
「め、迷惑ですから……」
「ん~ん」
肩にそっと手を置く。
「あたしが、ラビちゃんの能力を買ったの。組んで欲しいんだけど、いいかな?」
「は……はい」
コクンとうなずくラビちゃん。あーもうカワイイ!
気付いたらギュッと抱きしめてた。はふーん、モフモフは正義!
授業で使った呪文です。
【巨大な盾/Great Shield】
レベル1・青魔法/コモン
分類:防御
効果:【巨大な盾】が付与されたキャラクターへのダメージを防ぐ。その後、【巨大な盾】は消滅する。
「水の魔術師は、盾も弱いな」
「うん……そうだね」
――魔道学院にて、赤魔道士と青魔道士の会話
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