30話目 ざまぁ団にザマア
ポチ魔となること、しばし。
「あ」
気付いたら、新呪文の発表時間が間近だった。
うわっちゃー、ちょっと面白くてのめり込んじゃってたわね。ま、残り数円まで買えたから、良しとしましょう。
手の平に虹色の光を集めて【開始】の呪文を使う。――おっと、「前回の終了位置」だと山形になるから、「新宿西口」ね。
「ホイッと」
駅前のビルに到着したら、メチャクチャ混んでた。あらま、前回はここで発表したっていうし、みんな考えるコトは同じってワケね。
(シャボン)
ん? 誰、呼んだの?
キョロキョロ見回すけど、全然分かんない。
(俺だ、アイスだ)
あー! おっちゃーん!
でも、ドコから呼びかけてるの? もしや、テレパシー!?
エイホウさん! テレパシーってどうやるの!?
『フレンドの相手を選択して、「チャンネル・オン」と念じて下さい。そうすれば、喋ろうとするだけで会話できます』
ほおほお。ンじゃあ、アイスを選んで、チャンネル・オン!
(おっちゃーん!)
(うおっ、静かに念じろ)
(あははは、ゴメンゴメン。――ぷくく、魚のおっちゃんが「うお」だって。親父センスが光るわね)
(聞こえてるぞ)
(え、ウソッ!? ――って、これ筒抜けじゃない! どうやれば閉じれるの!?)
(「チャンネル・オフ」だ)
(チャンネル・オフ!)
ふー。おっちゃーん、これでいーい? ――って、聞こえないか。えーっと、チャンネル・オン。
(ありがとう、おっちゃん)
(テレパシーで陥りがちなワナだからな。今後は、話したらスグにオフを習慣付けろ)
(ラジャ!)
チャンネル・オフ。――いやー、これは凶悪な仕様だわ。暗証番号とかヤバくない?
そのとき、本社ビルの入り口から誰か出てきた。
「よお。みんな集まったな」
始まったみたいね。でも、人が多くて見づらい……えーい、飛んじゃえ!
ふわりと羽を出して空へ飛翔。――ん、やっぱ同じこと考えてる人多いわね。
ともかく、コレで悠々と見られるわ。どれどれ……?
「あっ!」
少年社長!
不敵な笑みを浮かべる青髪の少年。うわー、社長ってば、本当にコレがアバターだったのね。AIのときは水色のシャツとジーンズだったのに、今は黒のスーツに黒のネクタイで固めてる。黒づくめとか好きそうだわ、うんうん。
スキャンしたら、カルイザワって出た。種族は〈水玉〉だって。スライムかしら。本体はトゲトゲしいのに。
あちこちに手を振ってた社長は、その手でパンパンと叩いた。
「さてと、マホロバ・ライトも2ヶ月経ったか。本日はお待ちかねの、追加呪文を発表するぜ」
お、呪文発表、来た!
「こまごましたアレンジ呪文は、あとでリストを出すからよ。今は、目玉だけをお披露目だ」
社長は、白く光らせた指をパチンと鳴らした。すると、可愛らしいチビッコのエルフが4体現れる。
「コイツは、新呪文の1つめだな。【鈴蘭】っていう、レベル6の白魔法だ。1/3/1の精霊ユニットが4体出るぜ」
写真をパシャパシャ撮られてる。はー、たしかにカワイイわね。あの子たちと敵対したら、ポコポコ叩くのに罪悪感を覚えそう。
――あれ?
(ねえ、アイス)
(ん?)
(6マナで4体出すって、ロコツに〖デス・エレメンタル〗潰しよね?)
(ああ。――脱法ユニットの仕組みを聞いたのか)
(うん)
銀ちゃんじゃなくて、カエル園長からね。
(アイス。でも、コレってマズいわよ? このユニットだけだと、例えば〖デス・エレメンタル〗をレベル7にされたら、終わりじゃない)
(そうだな)
絶対ヘンよ。この程度の対策なら、脱法側だって予想してるハズ。ヘタしたら、このあとスグにブチ壊すユニットを出してくるわよ?
その直後、観客の中から猛烈な勢いで飛ぶ人が出てきた。
「ははは、社長! その程度か!」
あれ? クマじゃん。馬鹿コンビも従えてるから、確実にアイツだわ。
「ショボいユニットだな! 俺たち『ざまぁ団』が、スグに『ざまあ』してやるよ!」
クマが白い光を手に集めた。1秒で弾けると、そこには白い精霊が4体。
「レベル9の〖ナイン・エレメンタル〗だ! 死ねっ、殺人鬼社長!」
ユニットのスペックは……999/4/999!? それが4体って、強っ!(センスは0!)
〖ナイン・エレメンタル〗たちは一斉に少年社長へと向かっていった。側にいた大柄の影さんが社長をかばおうとするけど、社長は手で払う。
「おぅ、ちったぁ面白ぇな」
社長は緑の光を指に集めた。それが弾けた途端、襲いかかろうとしてた白い精霊たちが消える。
「なっ、なにぃ!?」
観客もザワつくなか、一番慌ててたのはクマたちだった。
「オイ、殺人鬼! どうなってんだよ!」
全滅系の魔法? ――ううん、鈴蘭ちゃんたちは足下でワキャワキャしてるわ。あの子たちが無事な以上、なんか別の方法を取ったのよ。
「クズ社長! お前、チート使っただろ!」
「ねえよバカ」
邪険に手を振る青髪少年。あー、そーゆーのは嫌いそうだもんね。
社長はインベントリから1枚の緑カードを出した。
「今の呪文は、次に披露する予定だった、【箱庭】って領土呪文だ。効果は……そうだな、『ざまぁ団にザマアする』って所か?」
皮肉っぽく笑うと、観客もつられて笑う。
「ぐっ……!」
うわ~、クマちゃんたち赤っ恥。これは役者が違うわ。
「す……すぐ対策してやっからな!」
おーおー、見事な捨てゼリフですこと。――ぷくく。
社長がお披露目した新呪文です。
【鈴蘭/Lily of the Valley】
レベル6・白魔法/コモン
分類:召喚(精霊)
攻1×4/速3/体1×4
サイズ:小
谷では、白い精霊達が物陰から鈴生りでこちらを覗っていた。好奇心旺盛なれど、臆病な生態のようだ。
――世界の生物辞典、「精霊」の項目より
【箱庭/Miniature Garden】
レベル4・緑魔法/レア
分類:領土
効果:攻撃力が4以上、もしくは「サイズ:大」のユニットを退治する。
「あなたがいて、私がいて、そこには小さな世界がある」




