29話目 関東1円
ンで。
ミカエル園長に、サクッとカード売買の方法を教えてもらった。
「シャボンはネットでオークションをしたことはあるかの?」
「ええ」
よく株を売買してたわ。
「ふむ。ならば基本は、それと同じじゃ。魔法カードの場合、出品時に最低価格が提示されておるから、買い手側は次々と入札をしていくわけじゃな。しめきりまでに、1番高い価格をつけた者が落札じゃ」
「ん~。もっと、『即決!』って感じの市場はある?」
「もちろんあるぞい。売り手が値段を出して、買い手は『その価格でOK』と思ったものにお金を出すワケじゃな。フツーの買い物と変わらんぞ」
ものは試しと、早速見せてもらった。――おほ~、空中に出た画面に、新着がズラズラ~っと並んでるわね~。
ンじゃま、値段を「安い順」に並べ直して、と。
「お~、1円のユニットがいっぱい出品されてるわー」
「さっきも言ったとおり、〖デス・エレメンタル〗のようなユニットがおるでのお」
よしよし、ここまでは予想通り。
あたしは1番上に表示されたカードを指差した。
「ミッちゃん。このカードの値段を教えて欲しいの」
「ひょ? ――シャボン、その数字の通り、1円じゃぞ?」
「ああ~、違うの。えっとね? 〖デス・エレメンタル〗とかが出る『前』の値段を知りたいのよ」
「ん?」
ありゃま。頭の上にビッグな「?」が出てる感じね、これは。
「え~っと、正規のユニットって、数値の大きな脱法ユニットのせいで、価格が大暴落したんでしょ?」
「そうじゃな」
「なら、〖デス・エレメンタル〗とかが出る前の値段ってあったわよね?」
「そりゃあ、無論じゃが」
「その時の値段を知りたいの」
「妙なことを聞くのお」
ミッちゃんは、ほほをポリポリかいた。
「ハッキリとは覚えておらぬが、それでも良いかの?」
「十分よ」
かくして、1円ハンター・シャボンが爆誕したのでした。じゃじゃーん!
「ミッちゃーん、この【ブラックドッグ】っていくら?」
「200円はしたのお」
はい、ゲット。
「【コカトリス】はー?」
「500円じゃったと思うぞい」
おぉ~、当然ゲット。
いっや~ぁ、買い物できるっていいわね~。とくに、超安値ってのがいいわ~。
それもこれも、関東あたりからドカッと出品してる人達のおかげね。うふふ、何個も出してくれてて、ありがたやありがたや。
ちなみに、助手ことミカエル園長には、早々に別の仕事をやってもらってた。
正規の呪文リストをコピーしてもらって、そこのレアとアンコ欄の脇に、「かつての値段」を書いててもらったの。どーせ1円で落札するなら、後でまとめて確認した方がいいしね。
「そういえばミッちゃん、出品されたカードって、確実に相手に渡されるの?」
「うむ、そこはVRの良い点じゃな。売る側は、出品のさいに専用のBOXが出て、そこに品物を預ける必要があるでのぉ。そのときに、品物は自動チェックされるから、申告した物と違った場合は弾かれるんじゃ」
「で、合ってた場合は、そのまま預ける形になるのね」
「左様じゃ。売買が成立したら、ポイントが支払われたと同時に、品物がインベントリに入るという仕組みじゃな」
「インベントリがいっぱいだった時は?」
「設定をイジらん限りは買えんぞ」
「おー」
ちょっとチェックしてみましょ。――あ、ホント。【ブラックドッグ】や【コカトリス】が入ってたわ。
ふむ。この市場を利用してる限り、確実に品物はゲットできるのね……おっと、更新したら、【死の群れ】が30枚で30円? 安いわー、ゲットゲット。
気付けば、めぼしい安値カードはあらかた購入していた。
「ほれ、シャボン。メモが終わったぞい」
お、園長も書き終わったみたい。
「ミッちゃん、お疲れ様」
「ふぉっふぉっふぉ、なんのこれしき。【魔力制御】に比べれば、お安い御用じゃ」
あらま、蛙ちゃんってば、ニコニコ顔。
実はミッちゃんには、「使われてイヤだったな~」とか、「この呪文はよく使ってたな~」ってユニットに、☆マークも付けてもらってたの。
この辺の機微は、エイホウさんにはムリなのよね。質問しようにも、「あたしが知らない」から。
そういうのもあったから、けっこう手間かなーと思ってたんだけど……めっちゃ嬉しそうだから良かったわ。WIN-WINってヤツね。
「あ、ミッちゃん。死んだときにいける小部屋って、どうやれば死なずに行けるの?」
「【終了】をすると、『リアルに戻る』か『プライベートルームに行く』が出るぞい」
「あらま、そうなのね」
「――お主、本当に初心者じゃったのか」
うわー、呆れ顔されちゃったわ、蛙ちゃんに。
ともあれ、ミッちゃんとも握手&フレンド登録してお別れした。
【終了】して小部屋に戻ると、早速イスに座って手をワキワキさせる。
「ふっふっふ……めぼしい物は買ったから、これでオシマイと思った? ノンノン」
今度は、発表の時間まで、ずっと市場に張り付いてやるわ。
「さ~て、ここからは……更新の鬼と化すわよ?」




