3話目 スキル選択!
ふむふむ、ここからスキル2つね。――って、《天使の羽》?
「あたし、羽あるけど?」
「ああ、重いだけのジャマな羽がな」
「え?」
社長はニタリと笑った。
「スキルがないと、飛べねえぞ?」
ブハッ!
「何よ、そのサギ仕様!?」
「おいおい、種族バランスをとったと言えよ」
「むぐぐ……そりゃまあ、戦闘でも移動でも、空を飛べたら有利だけどさ」
「だろう?」
片眉を吊り上げる少年社長。最高にウザい。
「で、どうする?」
「スッゴいシャクだけど……《天使の羽》を取るわ」
「OK。もう1コはなんだ」
「うーん……。ねえ、社長。《不眠》って、プレイヤーも寝ずにすむの?」
「なに寝ぼけてんだ」
あう、真顔でツッコまれたわ。
「だけど、気になったんだもん。どんな効果よ?」
「このゲームは、一生入りっぱなしにも出来る。ただし、18時間ほど連続稼働してると、アバターの方が眠気をもよおすんだ」
「へぇ」
面白い制限ね。
「それを防ぐには、アバター自身を寝かせる必要があるのさ。6時間以上な」
「頑張って起きてるとどうなるの?」
「動きが徐々に悪くなり、最後にはブッ倒れる。これは、プレイヤーがどんなにタフでも防げねえ仕様だ」
ふむふむ、アバターの寝落ちね。
「そこで効果的なのが《不眠》だぜ。こいつがあれば、デメリットを無視できるって寸法だ。廃人プレイヤー御用達だな」
――あれ? あたし、抜け道思いついたけど?
「ねえ。このゲームって、すぐに入り直せたりする?」
「ああ」
「そしたら、寝落ちのカウントは……」
「ゼロに戻る。そこからまた18時間だ」
ザルすぎィ!
「あのぉ、むしろソレ、廃人ほど避けるスキルじゃないの?」
「おいおい、そんな罠を仕込むヤツだと思うか?」
どうしよう、スッゴイ思うわ。
「つーわけで、天使。迷ったら《不眠》を取れ。《不眠》はいいぞ~?」
全力でネタに走らせようとする案内人社長。嫌いじゃないわ。ウザいけど。
――ん? でも、ちょっと待って?
あたしには、神スキルじゃない?
だって、現実に戻ったら、サボテン化が進んじゃうんだもの。
入りっぱなしを目指すなら……必須だわ!
「あたし、《不眠》にする!」
「ほお。クズスキルをあえて取るか」
「――知ってて勧めてたのね」
「たりめーだ」
そのスタンスも含めてヒドいわね。
「だけど、あたしにとって最高なら、迷わず選択よ!」
――そう、株だって一緒。他の人が見向きもしないマイナー株でも、あたしが認めたなら、いつか日の目を見ると思って投資してきた。銘柄は忘れちゃったけど、その心意気だけは覚えてる。
「全世界の人間が、今後ずーっと使えないと言おうとも、あたしにとっては命綱よ! 笑いたきゃ笑えばいいわ!」
「アハハハハーッ!」
「笑うなー!」
「いや、こりゃ失礼」
苦笑した社長は、あたしを指差した。
「面白い奴だな、気に入った。1000回は殺してやる」
うわー、熱烈なラブコールだこと。
「絶対生き延びてやるわ」
「おお、楽しみにしてるぜ。――そうだ、今ならNPC表示にもしてやるが、どうする?」
「NPCって、なに?」
「ノンプレイヤーキャラクターの略だ。プレイヤー以外のアバターのことさ」
ほぉほぉ。
「メリットは?」
「まずは、長時間入っても、『まあNPCだし』と思われる」
「あー」
不審がられないのね。
「それと、俺たち会社側のスタッフだとも思われるな」
「んー、どういうこと?」
「AIの対応にも限度があるだろ? プレイヤー同士の仲裁とかは、実際の人間がNPC役になって収めてるんだよ」
なるほどねー。
「で、どうする。やるか?」
「やるわ。面白そうだもん」
「OK」
なんだか、外れスキルにNPCって、始まる前から別ゲームになってる気がするわね。
ま、食事も睡眠もおトイレも不要だし、好き勝手に暴れてやるわよ! 「ジタバタしかできないなら、ジタバタしましょう」って、心の師匠も言ってたしね!