26話目 くるくるぱーん
むぎぎぎぎ……。同じ相手に3敗は出来ないわ。そりゃあ、飛べば勝ってたけど、それを言い出すのはあまりに大人げないし。
時間的にも、次で別の子たちと入れ替わりだものね。こんなときは、コッペリアのデータをチェックよ。
――ん、攻/速/体が4/3/5。能力は……「何かの呪文を使おうとしたら、コッペリアがスロットに戻る」ってトコが厄介ね。
これって、あたしがコッペリアを倒す寸前、向こうが瞬間魔法を唱えればスロットに戻せるんでしょ? ズルいわね~……って、コモンだし! この世界、フツーにコモンが強いわよね?
ふむ……とすると、こんなワザはどうかしら。
あたしは、2戦目と同じく、まずは【紡ぎグモ】を2体出した。それから3体目を出して、別のコッペリアに向かわせようとする。
その時。
「あー、しまったー」
ガードに使ってた杖を、ウッカリ落とした。
すかさず3体目のクモちゃんにカバーさせて、あたしはスゴスゴと後ろへ。
「へへーん! お姉さん、ヘタクソだなー!」
子供の素直さは、時に残酷よのぉ……なんちゃって。
「戻れ、レーヴァテイン!」
ぐるぐる、パァン!
「いよっし!」
レーヴァテイン、炸裂! アーンド、キャーッチ!
ふっふっふ……あたしに戻るスピードって速かったもんねー。絶対ダメージ判定があると思ったわ!
狙い通りのあたしとは対照的に、子供たちは呆気に取られてた。
「あ……え!?」
アラアラ、坊やたち? 戦場で止まるなんて、命取りよォ?
「とえりゃー!」
コッペリアには当てようとせず、その後ろに放り込む!
「そして、戻れ!」
くるくるっ、パーン!
いやー、これは使えるわ。技名は、「くるくるぱーん」ね! ――あー、いや。コレはなし。
ともあれ、一度コッペリアの撃退法を見つければ、あとはラクだった。「置きレーヴァテイン」を過度に警戒されたときは、直接殴りにいけばいいし。
あと、コッペリアの再召喚には、やっぱり1秒かかるってのもポイントね。
ヤツが消えたら、本体をポコポコすればいいんだもの。
「ズ、ズルいぞ!」
「ほっほっほ、負けて得られる経験も多いのよー」
チビッコ相手のチャンバラなら、レーヴァテインのリーチで勝てるわ。あ、そーだ。攻撃が当たったら【闇の衝撃】使おーっと。はい、2倍、にばーい。
かくして3戦目は、あたしが面目躍如を果たしたのでした。ふふ~ん、ハンデマッチも何のそのですわ~。
その後、別の子供達との対決でも、最初は勝たせておいて、あとで杖のコンビネーションを決めるという、「見事な教師」っぷりを見せられたのでした。まる!
「ふぉっふぉっふぉ、みなよく頑張ったのぉ」
授業の終わりに、園長は子供達を校庭へと集めていた。
「【踊る自動人形】のユニットは、たしかに強い。呪文を唱えるとスグ戻る、これをメリットとして扱えればの」
そこで園長は、あたしをチラ見した。
「しかし、コチラのお姉さんのように、お主たちの盲点をついて、一撃で倒す相手もおる。じゃから、しっかり気を配って、うまく使うんじゃぞ?」
「はーい!」
いやー、本当に素直だこと。
日直の子の合図で「さようなら」が言われると、子供達は次々と【終了】していった。
園長があたしに近寄ってくる。
「お疲れさまじゃの、シャボン」
「あのぉ……園長? 最初に飛行を止めましたよね」
「ん?」
「本当はあたし、ボロ負けの予定でした?」
「い、いいや~? ふぉっふぉっふぉ」
ナマズひげをなでて、ゴマかし笑い。――うわ~。「初心者歓迎」ってのは、そういう意味だったのね。単なるカカシが欲しかった、と。
「園長……。男の子も女の子も、〖デス・エレメンタル〗を使う奴より強敵でしたよ」
「ふむ。単に脱法ユニットを使うよりも、基礎からシッカリ学んだ方が強いというコトじゃな」
ンまあ、まことに教育者らしいお言葉ですこと。
でも、今のあたしからしたら、蛙のツラに何とやらね。ツルンとした緑色が、スゴく小憎らしいわ。
ミッちゃんは、明後日のほうを向いてジジイ笑いをしていた。
くるくるぱーんで活躍した呪文です。
【忠誠武器/Loyal Weapon】
レベル4・銀魔法/アンコモン
分類:付与
能力:所有している武器を手元に戻す。
王から新呪文の開発を急かされていた魔術師サラマンは、「命令するのはさぞや楽しいのだろうな」と思い、【忠誠武器】を作った。
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