2話目 固定のラスボスが現れた
気付くとあたしは、灰色の人影になって佇んでた。
「んっと……ここがVR?」
がらんとした小部屋には、スツール2つに、丸テーブルが1つきり。あ、窓の外は宇宙空間ね。とってもヴァーチャル。
――って、ちょっと待って? 視界や声色とかがリアルすぎるんだけど。エイホウさんの事といい、スッゴい未来にきちゃったの?
ともあれ、脳のサボテン化は止まったみたい。曲がりなりにも、人の体になってるおかげ? だとしたら、あがいてみるもんね。
「よお!」
突然の声。
視線を向けると、スツールには不敵な面構えの少年が座ってた。年は14、5才で、青い長髪が印象的。
「よく来たな、影法師。ここは『マホロバ』だぜ」
「あ……あなた、誰?」
「オレか? オレは、VRゲームの案内人ってヤツさ。名前はカルイザワ。有名だろ?」
いや、別荘地の方しか知らないけど。
「一応言っとくと、コレを作った会社の社長だよ」
えー、若すぎでしょ……って、ああ、アバターだもんね。それに、AIだろうし。
悪ガキっぽい社長は、あたしをぐるぐると指差した。
「さてと、かったるい世界説明は飛ばして、まずはアバター選択と行こうか。その姿で遊ぶのはツマンナイだろ?」
まあ、たしかに。いくら脳みそが維持できても、全身グレーってのはちょっとね。
「初回のアバターは選択のみだ。早速この中から、『もう1人の自分』を選んでくれ」
社長が指を弾くと、30体ほどのミニアバターが空中に展開した。
「うわぁ……いっぱいね」
「多すぎて迷っちまうようなら、オススメを紹介するぜ?」
「え、どんなの?」
「コイツだ」
社長がチョイスしたのは、バレーボールから触手がいっぱい出ているような、妙ちくりんなヤツだった。
「〈球体〉って種族だ。お前にピッタリだぞ?」
「却下」
ジョーダンじゃないわよ。人型を求めてるのに、なんで球根オバケなわけ?
悪ガキ社長は大ハシャギしてる。おにょれ。
あたしはスルーして、小さなキャラたちを見ていった。
えーっと、スライムやら妖精やら、ずいぶんファンタジーっぽいアバターが多いわね。一番多いのは獣人だけど。
「ねえ。ちなみにマホロバって、どんな世界なの?」
「一言で表すと、『現実に無数のダンジョンとモンスターが出た世界』だな」
「え? それじゃ、日本があるの?」
「へへっ、地球丸ごとあるぜ」
ふむ。キャラはファンタジーなのに、舞台はリアルなのね。
「あら?」
そんな中、大きな翼をもった天使ちゃんが目にとまった。
透き通りそうなほどの白い肌に、黄金色のさらさらヘアー。古代ギリシャ風のゆったりしたローブをまとう姿は、まるで美術館から出てきた女神様みたい。
「いいわね、彼女」
「ほお、〈天使〉か。試しになってみるか?」
「お願い」
女神様のミニアバターが、あたしのお腹にスーッと吸い込まれていった。そこから光があふれて、体格が変わっていく。
「うおっ、ととと……」
身長が少し伸びて、めちゃくちゃグラマーになったけど、それ以上に、背中がズシーッと重くなる。
「こ、この重量感って……羽?」
「そうだな」
「うぅん……。け、けっこー、動きづらいわね……」
立派な翼って、リアルだとメチャクチャ重いのね……。これさえ無ければ、即決だったのに。
「ジャマか? だったら、『羽をしまう』って念じてみな。収納できるからよ」
「え、そうなの?」
じゃあ、お言葉に甘えて。
羽を……しまう!
グッと念じたら、一瞬で背中の重みが消えた。おおっ、肩がスッキリ!
「あたし、この女神様にする!」
「OK」
はい、決まり! この女神様はあたしになったからね! 新しい旅立ちに、心も体も軽いわー!
「よし、それじゃあ新米天使。アバターが決まったから、お次はスキルだな」
少年社長は、OKの指をVへと変えてみせた。
「スキルだが、種族特有のユニークスキルと、全種族に共通の一般スキルがある。合わせて、大体7つだ。その中から、2つを選んでくれ」
「あとから変更って出来る?」
「いいや。ついでに言っとくと、スキルを得るチャンスはコレっきりだからな。追加は一切なしだ」
「シビアね」
サボテンからの出発よりはイージーだけどさ。
社長が指を弾くと、宙にスキル一覧が出てきた。
「クセのあるスキルから鉄板まで、色々ある。最高のお前に仕上げてくれ」
オッケー、やってやろうじゃない。
◆ユニークスキル
《天使の羽》:飛べる
《天使の手》:触ると少し回復する
《韋駄天》:速くなる
《不眠》:眠らずにすむ
◆一般スキル
《暗視》:暗い場所でも見える
《痛み止め》:痛みに強くなる
《魔力視覚》:魔力が見える