18話目 敵の本拠地へ遊びに行く
あたしは、プライベートルームの丸テーブルに、お店を広げた。
「さてと、けっこう手持ちも増えたし、ちょっと変更したいわね」
緑で使わなかったカードを1枚ずつ外して、赤を採用しましょ。【眠りの竜】もいいんだけど、スカーレットちゃんと違ってシュゴーがないのよね。それに、紫のレベル7だし。
「ヒプノちゃん1体のために、魔色を注ぎ込むのもねぇ」
他の紫は、レベル1のチョウチョだけってのもネックだわ。
んで、カードの採用基準だけど。
「ズバリ、速さ!」
――そう。トロい奴は、この先生きのこれない。
つまり、ゴブリンズはほぼアウト。唯一、《同時召喚》出来る【ウォードビアのゴブリン】だけ4枚入れるわ。
「でも、速さが2なのよね~」
どうせ《同時召喚》するなら、速さ3の【紅玉アリ】が10枚あるもんね。今は余裕があるし、どっちも突っ込んどくケドさ。
【紅玉アリの女王】様もイマイチかな。魔色を緑6、赤2にセットしたから、赤7の女王様は重すぎるし。んでも、一応入れとこっと。
「あとは、【加速】ね」
赤レベル2の付与魔法で、効果は「術者の速度を1上げる」。う~ん、シンプルイズベストだわ。
え、【血塗れサボテン】? ――うん、あたしの本体つながりで入れとく。
ひととおりセットが終わったから、大事な確認をしておきましょ。
「ねえ、エイホウさん。【ガイア】と【循環】と【無垢の鳥】って、カード価値はどのくらいか分かる?」
『検索中……判明。およそ1000円から1500円です』
あたしは机に突っ伏した。
アイスのおっちゃん……人が良すぎるわよ!
次に会ったときは、改めてお礼言わないとね……うん。
30分経って、全てのカードが有効になったのを確認する。
「では、いざ行かん!」
あたしは、勢いよく扉を開けた。じゃじゃーん。
「おぉ~……新宿だわ」
軽い浮遊感を覚えたと思ったら、新宿駅西口前のターミナルにいた。
車道だったハズの地下はツブされて、地上に巨大な魔法陣が作られてた。ズラリと並ぶ近代的な駅ビルの前で、幻想的なオーロラを立ち上らせてる。はー、違和感がスゴいわ。
ふと見ると、行き交う人たちの中に集団がいた。構成メンバーは、獣人やらエルフやら、はたまた「空飛ぶ球根オバケ」やら。――あのアバター、選ぶ人いたのね。
「ねえ、エイホウさん。ここに電車とかって走ってる?」
『VRのため、交通機関は動いておりません』
あ、ないんだ。ちょっと残念。
みんなは、今あたしが出てきたみたいに、魔法陣を使って移動してるみたい。試しに乗ってみましょ、えいっ。
“どこに向かいますか? 秋葉原・池袋・上野……”
――ふむ、ヤマノテ・ラインはこれね。選択肢にはソウブやオダQもあるわ。さすが、1日の乗降客数世界一はダテじゃないわね。コレさえあれば、移動はラクそう。
あたしは駅の反対側を向いた。そっちには、他の建物よりも倍ぐらい巨大なビルがそびえてる。
――むーん、コレってもしかして。
「スキャン」
すると、吹き出しには「VRマホロバ・カルイザワビル」って出た。――あー、やっぱり。社長のお手製だったわ。
「ねえ、エイホウさん。あのビルでは何をやってるの?」
『カードの販売を行ってます』
「他には?」
『ダンジョン発生場所のチェックや、来月行われるデュエル大会など、各種イベント情報のサポートを行ってます』
「社長って、ビルによくいる?」
『ほとんどいません』
じゃあ用はないわ。――あ、待って。
「あそこって、トレードスペースとかある?」
「しょーがないわね~、来てあげたわ~」
あたしは、ワクワクしながらマホロバビルの2階にやってきちゃいました。
ウエスタンな酒場の内装で、あちこちの丸テーブルに人が座って談笑してる。――ほおほお、入り口には「トレードルーム」って表示されてたけど、サロンみたいな使われ方もしてるのね。
「あ」
テーブルに何枚かのカードを出してる2人組がいたわ。美形の少年と、ゴツいクマさん。
気配を消して、さりげなーく近寄ってみる。
「えっと……じゃあ、ベアクローさんは、【巨大トカゲ】をくれるんですか?」
「そうだぜ、エミックス君。その強いカードをあげるよ。何せ、カードセットの中で、攻撃力が1番強いヤツだからな」
エミックスと呼ばれた美形の少年は、食い入るようにトカゲちゃんのカードを見てる。うわぁ……お人形さんみたい。
スキャンすると、〈機人/Intelligence〉の「E-MIX」って出た。おお、本当に機械クンだったのね。
一方、ベアクローって呼ばれたクマさんは、満足そうに茶色のカードを手に取った。
「それじゃあ、俺はこの【地震】を交換してもらうぜ? こいつを使うと、自分にもダメージが入っちまうからな。君には使えないカードだろ?」
「ええ……ですね」
ん?
――ねえ、エイホウさん。【地震】のカード価値って、いくらぐらい?
『検索中……判明。およそ1000円です』
んん~?
クマのおっさんは、カードをインベントリに入れようとしてる。
「あのぉ~」
あたしはニコやかに声を掛けた。
「ちょこっと、いいですか~?」




