16話目 《不眠》 VS 眠りの竜
悪のダンジョンマスターってば、勝負事にはフェアーなのよね。
女王アリは、次々と子アリを爆発させることで、自らをターゲットにさせなかった。
それってつまり、子アリを全滅させれば、女王へのターゲットが取れるってこと。
「さて、落ちたカードの回収ね」
ひとまず、普通のルビーアントから拾った。――ウゲッ、たった10枚? 自爆したアリって「あたしが倒したワケじゃない」から、カード無しってコト?
ん~、クモの時は「あたしがトドメ」だったから、これで相殺としましょう。
「で、女王アリだけど」
手をつけるのは、ライフが回復するまでお預けにした。
――あたしの灰色の脳細胞が告げてるわ。このカードを取ったら、ドラゴンの部屋に行くってね。
そうなったら、全快するヒマなんて一切無し。
カードは消滅しないっぽいから、取らずに待ってた。
おーっと、エイホウさんに聞けばいいってのはナシね。向こうがルールを守るなら、あたしもガチで挑むわよ? 事前に「ラクな攻略法」を知るのはズルいし。何より、完全勝利が出来ないわ。
んで、30分後。
全快したあたしは、女王アリのカードをすぐさまインベントリにしまった。
その直後、地面がグラグラと揺れ始める。
「ほーらね! ほーらね!!」
社長、こーゆーの大好きそうだもんね! うん、知ってた!
あちこちの地面が、ボコン、ボコンと吹っ飛んでいく。空いた穴からは溶岩が吹き出してきた。うわー、花火大会のクライマックスみたい。
『シャギャー!』
いつの間にか、上には紫色の竜が姿を見せている。
「おでましってワケね、竜ちゃん?」
早速スキャンよ!
※ ※ ※
名前:ヒプノティックドラゴン
攻撃:64
防御:256
速度:8
体力:512/512
マナ:128/128
特徴:《飛行》《眠りの視線》
能力:常時【魔力の盾】発動
能力:【精神攻撃】【忘却】【魔弾】
無効:黒、青、緑、赤、銀、白
吸収:紫
弱点:茶
※ ※ ※
ほうほう、ちょっと体力面では弱いけど、魔法でカバーって感じの竜ね、紫は。
んっと……つねに【魔力の盾】? これって多分、魔法は効かないってコトよね。【精神攻撃】はマナへのダメージっぽいし、【忘却】は……もう間に合ってるっての。
こっちのスキャンに合わせて、早速ドラゴンは目を光らせてきた。少しフラッとなりかけたケド、即座に脳が覚醒する。
「ふっ……《眠りの視線》、恐るるに足らず!」
あたしは【循環】を唱えておいた。マナを削るとかいうから、先に使っちゃえの精神よ!
それよりむしろ、どうやってダメージを与えるのかって方が問題ね。吹き出してる溶岩はノーダメージだろうし、弱点の茶色って……。
ボコン! ボコン!
「あ」
地面が吹っ飛んでいく……もしかして、コレをブツけろってこと?
『シャギャー!』
ヒプノなんちゃらは、紫の光を鉤爪に集めて弾けさせた。
ん?
次の瞬間、あたしは魔力の減少感を覚える。
マナを削った? でも、ヘンね……。そういう減った感覚とは、ビミョーに違ったわ。
ステータスを見ると、原因が分かった。
マナ 7/7(8)
「マナの上限値が減ってる!?」
え、これ永遠じゃないわよね!? 隣にカッコで8ってなってるし! 大丈夫よね!?
竜はどんどん撃ってくる。
「ふっ」
クールよ……クールになるの、あたし。【ガイア】があるから、ユニットは0マナで出せるわ。
今は……地面をブツけるコトに集中すべし!
よく見てると、地面に溶岩色の亀裂が走り、その3秒後ぐらいに真上へ吹っ飛んでた。
「コレだわ!」
亀裂が出来た地面に飛び乗ると、竜に向かって手を叩く。
「来なさい、パープルちゃーん! いえ、パープリンちゃーん!」
大ハシャギしてみせると、竜は急降下してくる。
今よ!
寸前で横に飛び移るや、地面がボコン!
ドゴォ!
『シャギャー!』
竜はモロに直撃を食らった。
いよっし、スキャン! ――ん、今ので200ダメージぐらい与えてる!
「あと2回で、溶岩に沈めてあげるわ!」
『シャギャアアアアアー!』
怒り狂ったヒプノの咆哮がこだました。
すかさず、紫の光を鉤爪に集め始めると、魔法の矢を何本も展開する。
おっと、攻め方が変わったわね。
「これが【魔弾】ってヤツ?」
ヒュンヒュンヒュン!
ザザザクザクザクーッ!
「ぐふっ……」
ちょっ、早っ! 矢じゃなくて、本当に弾でしょ!
ライフを見ると58/64になってた。――ああ、1発1点ね。かわせない分、ダメージは少なめってワケ。
なら……問題なしよ! こっちの2発目をブチ当ててやるわ!




