13話目 フレンド登録
「ぜはぁー、ぜはぁー……」
途中で水を飲みつつも、あたしは何とか水中を泳ぎ切った。
「ほ、ほらね……おっちゃん……。あたしは、不可能を可能にする女なのよ……」
「お前、貪欲だな……」
インベントリに水が入らないのを利用して、水中でオープン! そこの空気で呼吸を確保! うーん、我ながらカンペキな作戦だわ。
――と、思ったんだケド。
開く向きに、融通が利かなくってね。ナゼか、あたしと反対の方向ばかり開いてくれちゃったの。
マーメイドなおっちゃんの力も借りて、なんとか姿勢を変えつつ、口をパクパク。
1度出すと、次もうまく出せるかアヤしいから、そこで何回も呼吸して、それからまた潜水に挑んだってワケよ。
「ほ、ほんのちょっぴり、水飲むぐらいで済んだわ……げほっ、げほっ!」
「お前……これ反則じゃねえか?」
「いーのよ、誰にも迷惑を掛けてないもの。おっちゃんが、【水中呼吸】とかいう魔法を持ってたら同じコトできたんだし、へーきへーき」
「うーむ……一種の頭脳プレイかねえ」
「もっちろん。あたしは英知を司る天使サマよ。オーホホホ……」
「むしろ、ペテン師だろ」
おっちゃんは呆れてたけど、カードを差し出してきた。
「ほれ、さっき預かってたヤツだ」
「ありがと、おっちゃん」
作戦上、あたしのインベントリは空にする必要があったものね。魔法スロットのカード以外は、おっちゃんに全部渡しといたのよ。
回収しようと手を出したとき、さらに追加で渡される。
「コイツも持ってけ、シャボン」
「え」
追加カードは4枚で、ぜーんぶ緑だった。【ガイア】と【循環】が1枚ずつに、【無垢の鳥】ってユニットが2枚。
「アイス、これはダメよ。受け取れないわ」
「やるわけじゃねえ。ただ……眠りの竜に挑むんだろ?」
指で示した洞窟の奥には、ドロドロの溶岩が流れてる。うわっ、アツそう。
「竜の眠り攻撃には耐えられるかもしれんが、道中を緑魔法ダケでいくのはキビしい。ソロで倒したいんなら、持っていけ」
「アイス……」
「お前の本気を見せてもらったからな。このまま行ってザコで死んだら、俺がウソつきになっちまう。こいつを使えば、勝てる装備だ」
「――うん」
あたしはうなずいて、カードを受け取った。
「ありがとう」
「おう、じゃあな」
足早に、溶岩とは別の出口へ向かうアイス。
「待って!」
あたしはダッシュで追いつくと、1枚のカードを押しつけるように渡した。
「アイス、これを預かっといて!」
「はぁ?」
怪訝な顔をするアイスだけど、カードを見て、スグにマジな表情になった。
「おい、この竜は止めとけ」
あたしに返してくる。
「たしか、まだ倒したヤツはいねえだろ。ヘタすりゃ5桁だぞ? 俺の渡した4枚を足しても、まだお釣りが来る」
「大丈夫! あたしのスカーレットちゃんも、預けるだけだから」
あたしは、もういっぺんアイスにカードを渡した。
「アイスが託してくれたのは、スゴく嬉しいけど、あたしはお礼を出来ないかもしれない。だから、あたしの持ってる中で最大のものを預けておくわ」
アイスは、深々とため息を吐いたのち、【深紅の竜】を受け取った。
「じゃあ、フレンド登録しとかねえとな」
「何、それ?」
「お互いがテレパシーで話せたり、VRに入ってるかどうかってのが分かる機能だ」
「どうやるの」
答える代わりに、アイスはスッと手を差し出した。
あたしは、しっかりと手を握り返す。
“フレンド登録しますか? YES/NO”
――あ。こういう機能なのね。
イエス!
すぐにステータス画面のページをめくると、フレンドの欄があった。そこにはちゃんと、「アイス・VO」の文字がある。
「おっちゃん、登録できたわ」
「よし。俺は『サラマンダーの夜』って喫茶店によくいる。そこに行けば、俺がいないときでも誰か相手してくれるだろう」
「ンじゃ、そこへカード返しに行くわね」
「おう。こっちもそのとき竜を返すぜ。――またな」
「ええ、また」
人魚姫のおっちゃん、アイス・VOは、スマートに去っていった。
――スカーレットちゃん。短い間だったけど、ありがとう。しばらくはクモをメインに使いそうだから、お別れね。
多分、これが1番あなたを活かせる道よ。
あのおっちゃん、見返りなしでカードを寄越してくれたわ。あたしが新参者だからとか、きっと、それぐらいの理由で。
そういう人が損するのは、ダメよ。
「さて、と!」
アイスを見送ったあたしは、手を叩いて気持ちを切り替えた。
「借りたカードで、デッキ構築しますか!」
戦力が大幅アップね。ふふふ……楽しみだわ~。
おっちゃんから託されたカードの効果を載せておきます。
(【ガイア】も正式には【母なる大地】ですが、英語名がGaiaなので本編では【ガイア】表記とします)
【母なる大地/Gaia】
レベル10・緑魔法/レア
分類:領土
効果:全てのユニットが魔力なしで出せる。
「大勢の動物と遊ばせてやったあとは、地面とキスだ。嬉しいだろ? 母なる大地ってぐらいだし、いっぺんにお相手してくれるぜ?」 ――博奕打ち
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【循環/Circulation】
レベル8・緑魔法/レア
分類:フィールド
効果:ユニットのクールタイムが3秒になる。
「葉が黒ければ、全ての光を遮ってしまい、下のものに光がゆかぬじゃろ? 緑なら、半分だけ自分がもらって、あとは下に渡す。それが調和ということじゃ」 ――エルフの長老
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【無垢の鳥/Innocent Bird】
レベル1・緑魔法/レア
分類:召喚(鳥)
攻1/速1/体1
サイズ:小
特徴:《飛行》
能力:【魔力の絆】
「空行く鳥をカゴに閉じ込めるのが可哀想ならば、カゴの中で産まれた鳥を空に解き放つのもまた、可哀想なのだよ」 ――錬金術師
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