12話目 祝! 初トレード!!
まあねえ。【ガイア】や【循環】の効果って、ハッキリ強さが分かるもん。タダより高い物はないって言うし、コモンを交換できるだけでも超ラッキーだわ。
あたしは、子グモちゃんを40枚放出して、緑のコモン20枚を2セットもらった。どれが使えるかは分かんないから、一律でね。
こーゆーのって、イキナリ全部を覚える必要はないのよ。「おっ。この魔法、使えるわー」ってヤツを増やして、その分、使わなかったヤツを減らしていけばいーんだから。
「あ、おっちゃん。【蜘蛛の糸】はもう十分あるから、代わりに【エロス】を4枚にして」
「いいぜ」
「ありがとう。――にしても、この【エロス】ってカード、コモンのクセに強すぎない?」
「強いよな。コモンだから値段はつかないが、アンコ以上だったら結構高かっただろう」
「そうよね」
フツーの呪文が準備に1秒かかるところを、【エロス】は一瞬で唱えられるの。魔法のレベルは1だから、コストは1マナぽっきり。それで効果は「2マナ回復」だものね。条件の、「緑呪文を使った直後のみ」っていうのも、緑メインならほぼ無視できるし。
「おっちゃんとトレードした4枚、使い倒すわ。――ううん、『5枚以上入れてたらアウト』って呪文にさえ出会わないなら、30枚入れたいぐらいよ」
「ロマン溢れる戦い方だな。あいにく、俺の持ち合わせはそれダケだが」
「むー、残念」
スロットの半分を使ってマナの補充が出来れば、【ガイア】の代わりになると思ったんだけどね。
「おっちゃんは、もう【終了】するの?」
「ああ。歌も歌ったし、トレードで時間も経ったしな」
「色々ありがとう。――あ、そうそう。あたし、眠りの竜ってボスを倒したいんだけど、おっちゃんの来た水たまりから行って、勝てる?」
「お前がか? う~む……正直ムリだな。魔力を削られて、眠り状態にさせられるのがオチだ」
――ん? 眠り?
「あたし、《不眠》スキル入れてるけど」
「はぁ?」
おっちゃんが、眉をひそめた。
「なんでそんなクズスキル入れてるんだよ?」
「あー! 《美声》とか入れてる人が、ソレ言う!? 戦闘じゃ絶対使えない、外れスキルよね!?」
「お前なあ。俺にとっては、存在理由なんだよ」
「あたしの《不眠》だってそうよ!」
「マジか。じゃあしょうがねえな」
納得するのね、それで。
「ったく……NPC表記にもなってるし、お前はメチャクチャこのゲームを楽しんでるよ」
「おっちゃんもね」
「俺は、歌を楽しんでるんだ」
おっちゃんは銀髪をガシガシかいた。
「だがまあ、《不眠》ありか……。それなら、勝てる目はあるな」
「おっ。お墨付き?」
「だが、最初に難関がある」
「え、何?」
「コレだ」
アイスは水たまりの1つを指差した。
「俺は、ココから泳いできたんだが……フツーに来ると、3分ほど息を止めなきゃならん」
「えー!?」
しれっと超絶ワザを言うわね、おっちゃん! 実は潜水のプロ!? ――って、そうじゃないか。
「もう1個のユニークスキルね?」
「ああ。魚人には《水中適応》ってスキルがあるんだ。これだと、1分で来られる。息もラクに出来るしな」
うわお、スレンダーな足をゲットしたのに、声も泳ぎも達者とか、欲張りな人魚姫ね。
「ねえ、アイスのおっちゃん。あたしも息継ぎが出来るようになる魔法とかない?」
「【水中呼吸】ってのはあるが、今日は入れてないな」
「あー」
1人カラオケが目的だったものね。
「う~ん、せっかくココまで来たのに~」
「ハハッ。次回にお預けだ。まあ、頑張れ」
おっちゃんは、インベントリに交換したカードを仕舞うと、水たまりから帰ろうとした。
――あ。
「待って! やっぱりあたしも一緒に行く!」
「んー? そう言ってもなあ。途中で呼吸が出来ないと、死ぬダケだぞ?」
「大丈夫、やるだけやってみるわ!」
ふっふっふ……我に策有りよ!
【エロス】のカード効果を載せておきます。
(本編は、英語名から【エロス】で統一します)
【生の躍動/Eros】
レベル1・緑魔法/コモン
分類:瞬間
効果:術者のマナを2点回復する。
発動条件:直前に使用した呪文の色が緑であること。
「存分に死に抗え。それがスパイスになる」 ――死霊術士
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