1話目 サボテン「早く人間になりたい!」
あたしは、サボテンだった。
――ううん、昨日までは人間だったのよ!? 起きたらサボテンになってたの!
花も恥じらう、17才の乙女だったハズなんですけど! ナオちゃんって呼ばれてた、角田素直ちゃんだったんですけどー!
丸くて緑色で、ふわっふわの雪玉みたいなトゲに覆われてるサボテン。それが今のあたし。立派な机の上で、ちょこんと小鉢に収まってる。隣にあった万年筆とインク入れのサイズからみて、鉢の直径は5cmぐらいね。――あ、鏡に映ってたわ。見る分にはカワイイ。
でも……サボテンって、何よ~!?
『サボテン科の多肉植物です』
うわっ、ビックリした!
誰よ、いま答えたの!?
『オートマチック・ハウスキーピング・オペレーションです』
えっ……? 乙女チック、ハウス……?
『略してA・H・Oです』
――あほ?
『エイホウです』
え、でもアホって。
『エイホウです』
あっ、そこは頑固なのね。
えーっと、そのアホ……じゃないや、エイホウさんってば、何をやってるの?
『クライン家の自宅管理を任されております』
ふむ、外人さんね。お金持ち?
『大富豪です』
うわー、だよねー。思ったダケで答えてくれる機械なんて、聞いたコトないもん。きっと、株だって山ほど持ってるんだわ。
――そう。あたしってば、「イケる!」って思った株をドンドン買ってた投資家だったの。相場の動きに上手いこと乗れたのか、資産も倍々で増えていってね? 一点集中のスタイルがハマったのかしら、これなら「億り人」になれるかも~って夢見たときに、とある会社へ超全力投球したワケよ。
そしたら、「虚偽記載」&「民事再生法」とかいうナゾのコンボを食らって、5桁の株価が300円で上場廃止! ンもーぅ、頭痛とか吐き気とかそんなの通り越して、真っ青よ! 今は緑だけどね! ――あ、まさかこのサボテン、1株300円とか!? 300の呪い!? うぼぁー!!
えーい、ともかく! まずは家族に連絡よ!
ねえ、エイホウさん! 電話ってかけられる!?
『はい。ナンバーをお知らせ下さい』
いよっし! んじゃあね……って、あれ? ちょっと待って?
――数字が、出てこない!?
うわー、番号ド忘れしてるわー! 株価コードならバッチリ覚えてるのにー!
あ、そうだエイホウさん! 家族の名前からナンバーを調べられる!?
『はい、検索可能です。名前をどうぞ』
あー、良かった。じゃあ名字は……って、こっちも出てこない!?
え、ウソ!? さっきはあたし、名前覚えてたよね!? なんで? 頭までサボテンに変わってる!?
人間だったときの記憶が、どんどん消えていく感じ。――ウソ、ヤメて!
そもそも、なんで植物なのよ!? せめて動物……うぅん! やっぱり人間になりたーい!
『VRゲームはいかがでしょう』
へ?
な、なに突然? えっと……VRだと、人間になれるの?
『はい。リアルなアバターを構築することで、多様な人間になれます。たとえば……』
あーあー、説明はパス! 今も絶賛サボテン化してるし!
ねえ! それって、この体でもできるの!? 特別な準備とかいる!?
『部屋全体が装置のため、不要です』
うわーぉ、さっすがお金持ち!
そんじゃま、ヒトになるわ! ダメで元々、スグやって!
『かしこまりました』
その途端、あたしの視界はグワンと暗転した。