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水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
剣の巫女
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混濁


 もう一度雷鳴がとどろく。

 桜子は意識が混濁するのを感じた。川岸に見えた光が遠ざかってゆく。気づけば、誰かの背がすぐ目の前にあった。



「桜子殿は私が」


「桂木が腕をやられた」


「足元がぬかるんで危険だ」


「川があふれる」


「急げ」



 (……桂木さん?)



 チラチラと複数の人影の気配を感じて、薄くまぶたを開く。


 見ると、応援に来たと見られる上忍のひとりに、桜子は背負われていた。激しい雨が地面をたたきつけ、五瀬川の穏やかな支流は見る影もなく、今はすべてを呑み込まんとするかのように黒い不吉な流れとなっている。


 その勢いはますます速くなり、容赦なく降る雨水を含んで、川の水面みなものかさを増していた。



 (薫——確かに、声が聞こえたのに)




 桜子は、五瀬川を振り返ろうとしたが、もう何も言うことはできなかった。

一度目をつむったが最後、雨音に呑まれるように前後不覚に陥り、ふたたび目を開くことはなかった。




***



 降り始めた雨は、その勢いを増し続けていた。

 激しい雨は支流の幅を越え、洪水をもたらし、軒を連ねた家屋を浸水させた。五瀬川を初め、谷あいを走る川は氾濫し、あふれかえるのに時間はかからなかった。


 これほどの凄まじい豪雨は、今までのためしにもない。

 事前に避難をうながした里長と瑞彦の計らいにより、流された人の少ないことは不幸中の幸いと言うべきだった。里の多くの人は、川があふれ足元が見えなくなる前に、お宮の山を目指すことができたのだ。




 桜子も上忍のひとりの背に揺られながら、負傷した桂木とともにお宮の方角を目指した。


 しかし、そのさなか——桜子は汚泥を含んだように、身の内で巣食っているものに気がついた。



 水脈みおの大蛇を斬った瞬間に、剣を通して流れこんだもの——それはかすかだが、確かに桜子の内側で暗く息づいていた。


 そして気づかぬうちに、少しずつ闇のあなの大きさを拡げながら、桜子の身を締めあげ始めていた。




 その兆候が異変として表れたのは、避難所となったやしろの一角に、横たえられた後のことだった。




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