表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
剣の巫女
70/108

忍び寄る影


 あと一歩気づくのが遅れていれば、本当に手をかけられていただろう。薫はハッと蒼白になり、傍らの桜子を乱暴に突きとばした。

 突然のことに尻もちをついた桜子が、憤慨して文句を言おうとすると——見あげた先に、黒装束をまとった人物が音もなく佇むのが目にとまった。


 しゃの垂れ幕をしているせいで顔は見えなかった。薫がかばうように伏せたままの桜子の前をふさぐと、その人物は野太い声で言った。



郡司(こおりのつかさ)の息女、刀祢とねの桜子殿とお見受けする」



 そう指摘され、さすがの桜子も思わず身を引いた。ここで誰かの手にかかるわけにはいかない。

 薫は背後に桜子をかばったまま、敵意を隠そうともせず言いはなった。


「お前は誰だ。この人に手を触れたらただじゃおかない」


 そこで男は、初めて薫を視野に入れた。


「お前が黄泉の淵を渡る者か。組織を裏切り足抜けした男の性質を、受け継いでいる童男おぐなというわけだ」


 男は冷ややかにそうつぶやくと、懐から匕首ひしゅを引き抜いた。鋭く白いやいばが反射する。


「その芽は早く摘み取っておかねばならない」



 男に殺意がみなぎるのを見て桜子は息を呑み、直後怒りが体の奥底から湧きあがった。そんなことは到底、許すことはできないと思ったのだ。

 桜子は後ろからかまえ直した薫の腕を引くと、男の目の前に立ちはだかって言った。



「そんな勝手は絶対ゆるさない。だいたい恥ずかしいと思わないの。大の男が丸腰の子供に刃物をふるうなんて」



 男は桜子が前に来るとやや勢いを削がれたようだったが、匕首をおさめようとはしなかった。



「かばいだてなさいますな。そなたは何を庇護されているかをご存知ないのだ。そやつは黄泉の淵を渡り、風穴を開けるもの。放っておくと、大きな災いを呼ぶ」



 薫が——災いを呼ぶ?


 しかしそんな言葉に惑わされるわけにはいかなかった。桜子は相手をキッとにらみすえた。



「あなたの目的は私のはずでしょう。薫の何が災いになると言うの」


 その問いかけに男は冷笑して、背後の薫を見やるようにした。


「なるほど、何も知らせていないというわけだ。だがお前が水脈筋の奥深くに渡り、黄泉の淵を広げている事実に相違はない。

 その穴がこれ以上開かれればどういうことになるか、お前自身も分かっているだろう」



 桜子は、思わず男から目をそらし薫を見た。

 薫はこぶしを握りしめたまま俯き、むきだしにした敵意も失せて見える。



 ——どうして何も言い返さないのよ。



 薫の様子に打ちのめされるように桜子は思った。

 薫がうなだれると、男は残酷な笑みを浮かべたまま言った。


「桜子殿の身柄は保証しよう。先の守り手に出生を定められた時、お前は忌まわしい力を得てしまった。生まれてくるべきではなかったのだ」



 男は匕首を片手で持ち直し、突くかまえを見せた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ