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水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
忍びの里
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お宮


 翌日、にわとりが鳴く前に自然と目を覚ました桜子は、身支度をしてお宮の山を目指した。

 きのうの夜から強くなった風は、ほころび始めた川沿いの桜の木々をしきりに揺らしている。東には黒い雲が、嵐の予兆のようにのぞいていた。雨が降るかもしれないと桜子は思った。


 桜子の里は山間やまあいの谷間にあり、御影山みかげやまを中心に南へ開いている。

 里には山々を源泉とした五瀬川いつせがわの豊潤な支流があり、日当たりのよい肥沃な土地に、稲や作物も実りやすかった。


 お宮まで行く道も参詣しやすいように整備され、細い小道を歩いていくだけで赤い鳥居の門までたどり着ける。目指す小山が徐々に近づくと、桜子の歩みも自然と速まった。

 まだ朝になったばかりだというのに雲が低くたれこめているせいか、まるで夕暮れのように薄暗い。


 そんななかを一心に歩いていたため、鳥居の前で見知った宮司の姿を見つけると、桜子はホッとして側に駆け寄った。


 神社に古くから務める充房みつふさは、その少女が桜子と知って驚いたようで、竹箒を動かす手をとめた。


「桜子さん、どうしたんですか。こんな朝早くに」


「おばあちゃんに、ちょっと話があって」


 桜子はにっこりしてそう言った。

この少女が華奢に見えて同世代の男衆が敵わないことを充房も知っている。

 パッと見ではそうと分からないが、歩いていても仕草に無駄がないのだ。


清乃きよのさんなら社務所におられますよ」


「ありがとう」



 玉砂利を敷き詰めた境内はかすみがかっており、山に近い空気の澄んだ香りがする。その気を吸い込むと、頭のなかも冴えていくようだった。

 この清浄な地で暮らせるなら、巫女になるのも悪くないかもしれない。桜子は深呼吸しながら、一瞬そう思った。でも、そうしないことは分かっていた。


 この場は静かすぎる。

 桜子は体を自由に動かせる時間が必要であり、稽古場に通い詰めるのもそのためだった。

 桜子は頑なに自分が縁談を拒絶する理由は、異性が苦手なせいばかりでもないと考えた。自分は外から押さえつけられるもの、窮屈に感じる何かが嫌いなのだ。



 そんな物思いにふけりながら社務所を訪れると、戸口のところで清乃に出くわした。


 突然の訪問に驚いたのだろう。

 桜子の祖母も古希を過ぎたとはいえ背は曲がっておらず、立ち振る舞いには穏やかな品があった。


 その清乃が口に手を添え、何か言いかける前に桜子は切りだした。


「相談したいことがあって来たの。迷惑かもしれないとは思ったんだけど」


 清乃は軽く頷いただけだった。

 しかし普段とは違う孫娘の様子に気づいたのだろう。巫女装束の女性に何か言付けると、桜子を板の間へ案内してくれた。


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