陰り( 2 )
東の空が、どんどん陰ってゆく。
それにともない足元の影も薄くなった。和人はすっと目を細めて言った。
「私はこれでも上忍の部類だからね。そう簡単に見破られまいよ」
桜子は、今度こそ血の気の引く思いがした。
頭にひらめくものがあったのだ。
「もしかして、『月読』の内の一人なの」
和人は薄く笑った。
「めずらしく察しがいいね。今回の使命は、剣の守り手となった君を得ることだった。だからその土壌を作るためにも、時間をかける必要があったんだよ」
淡々と、何でもないことのように和人は言った。
桜子は衝撃を受けて立ちすくんだ。
「薫は、このことについて知っているの」
和人は肩をすくめた。
「もともと剣の力を解こうと試みたのは優だった。薫はそれに同調しただけで、今回の計画のことは何も知らない。我々は本来皇に仕える組織だ。一番はじめにそう聞いただろう?
主君のために動くのが本分であって、主命にそむこうとする方が間違っているんだよ。主上は、君の力を欲している」
和人はそこで手を差しだした。
「私と一緒に来てもらおうか」
桜子は到底、承諾できないと思ったが、体を動かすことができなかった。
まるで金縛りにあったように、指一本動かすことができない。和人は、声の調子をやわらげた。
「力を制御する方法を教えてあげよう。そのままだと体に負荷がかかる。その方法を、桜子も知りたいだろう」
桜子は言葉を発することができなかった。
——つかまってはだめだ。
そう思うのに、どうすることもできない。
背に冷たい汗が流れてゆく。
気を失うのは一瞬だった。
膝の力が抜け落ちてゆく刹那、薫の名を呼ぼうとしたが、結局それも声にはならなかった。
ガクン、と体の均衡が崩れ落ちる。
——薫。
桜子は心のなかで、もう一度その名を懸命に呼ぼうとした。
それを最後に桜子の意識は遠ざかっていき、文目もわかぬまま、白濁した間へと落ちていった。




