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水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
忍びの里
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婿がね( 2 )


「最近はあまり稽古に来ないそうだな、桜子」


 不意に話しかけられ、桜子は声のした方を振り返る。いつもと変わらぬ祖父の姿がそこにあった。


「桂木がめずらしく萎《しお》れておったよ。桜子に少し物を言いすぎたと」


 あまりに普段通りの様子だったため、桜子は色々なことを上手く口にすることができなかった。

 瑞彦は少し目を細めて言った。


「なかに上がって型を見せてみなさい。一から順番に」


 急な申し出に桜子は質問することも忘れて戸惑ったが、瑞彦は譲らなかった。


「稽古が終わる頃、一人で木刀を振っていたんだろう。私もその技をひとつずつ眺めたい」


 そうまで言われて断ることはできなかった。ちょうど良く、更衣室には稽古着の予備もある。

 桜子が小袖に藍染の袴をはいて帯を締めると、木刀を片手に日差しで暖められた板敷きの床を踏んだ。


 技を見てもらうのは久しぶりだった。ひとつめの型の足拍子をとらえる。と同時に、桜子は大きく一歩踏み込んで木刀を振り宙を切り上げた。


 一連の動きを終えると軸足を変え、あとは体が型をなぞるのにまかせる。こめかみに汗が浮かぶのも気にならない。祖父の視線もどこか遠かった。


 ——体が軽い。木刀の重さを全然感じない。


 いつまでもずっと続けられそうだった。木刀は既に桜子の一部だった。たんっと床を蹴ると、そのまま浮遊するような高揚感が桜子の内にのぼる。

 無心に型の流れを追っていると、いきなり近くで祖父の声がした。


「それまで」


 パシン、と手を打つ音が辺りに響く。

 桜子は夢から覚めたような気がした。こんな気持ちになるのは初めてだった。


 技のひとつひとつは桜子の内から自然と生じており、その流れに身を馴染ませていけば、いくらでも続けることができるのだ。

 祖父は桜子を見つめたまま口元をほころばせた。


「ここまでできるようになっていたとは。今の桜子は初伝《しょでん》を軽く凌《しの》ぐ」


 言われたことにきょとんとして桜子はつぶやく。


「今のは、もしかして伝位の審査だったの」


 瑞彦は頷いた。


「春には取る約束だっただろう。ずっと先延ばしになってしまったが、これでもう桜子も一人前だ。隠《なばり》流を継承できるほどに」


「でも、この稽古場は継げないのね」


 桜子は再び言った。

 去年の冬からあんなに楽しみにしていた伝位の初許《はつゆるし》なのに、祖父に技を褒められても不思議なほど喜びが湧いてこない。

 喜ぶには、もう何もかも隔てられていた。あんなにも好きだったこの稽古場すら、桜子とは関係のないものに成り果てようとしている。



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