御禊( 2 )——朱雀帝
四月一日には壁代や御帳台、几帳を夏らしい素材に変える更衣があり、内裏のなかも透明感のある生絹が目立つようになった。
室礼が明るく移ろっていくなか、先の大火やニノ宮の死が胸にのしかかり、ふさぎがちの朱雀帝のもとに届けられたのが、『月読』の主からの書簡だった。
曰く、
——『水神の剣』に斎く巫女を探し、災いの元凶を断つ、と。
皇が使役する隠密は、影で『月読』と呼び習わされているらしいが、その主は正式には朱雀帝ではなかった。
彼女は、皇に反する異形の者を殺め、力を得ようとすることをためらわない。
しかし時代が下るにつれ、皇の王威は弱まりつつある。
その証拠に、はるか東の地では京に対抗する逆賊が、決起して反乱を起こしているらしい。辺境の蛮族が勢いを増すなど前代未聞のことだ。今までなら、そんなことあり得なかった。
あの火災が記憶に新しいというのに、陰陽寮では再び火難の相が判じられたという。そればかりか、巽の方の大神の祟りも。
『月読』がその手腕によって祟りを鎮める霊威を得られるのなら、それは喜ばしいことなのだろう。
——そうでなければ、非業の死を遂げたニノ宮も浮かばれないではないか。
あれはただの瘧ではなかった。
否応なく、皇に祟る類のものだったのだ。
朱雀帝は桟敷の上で御行を眺めながら『月読』の主に礼をつくそうと、花橘——表は朽葉色、裏は青色の袿を贈ることに決め、側仕えの近習を呼び寄せた。
 




