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水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
忍びの里
23/108

稽古場( 1 )


 夜遅くまで起きていたことがたたって、翌日桜子が稽古場に出向いたのは、もう夕暮れのさし迫る時刻だった。

 淡い黄昏に混ざるようにして、とぼとぼ歩いてきた桜子を最初に見つけたのは桂木だった。


「めずらしいですね。桜子さんが稽古を休まれるなんて」


 ほがらかで何の他意もない口調に、桜子は顔をあげた。

 桜子は桂木を見つめたまま尋ねた。


「桂木さんは、すぐるさんの話を知っているの」


 突然の問いに、桂木はひるんだようだった。

 彼は首を振った。


「薫の父親について知っている人は、ほとんどいないでしょう。彼はみずからこの里を出て行ったのです」


 何かはぐらかされている気もしたが、とりあえず返事が返ってくることを良しとして桜子は再び聞いた。


「それは、私のお母さんが剣の守り手だったことと関係があるの」


 そう口にした直後、桂木の顔色が変わったのを桜子は見逃さなかった。


 と同時に、桜子は冷や水を浴びせられたような心地がした。母、撫子が「水神の剣の守り手」であったことと、薫の父親、優が失踪したことは、関連性のあることだったのだ。

 そしてそれこそが、今まで桜子の見ようとしなかったもの、無意識に抱えていた負い目だった。



「近頃、ずいぶん薫を気にかけているんですね」


 桜子の問いに答えず桂木はつぶやく。

 一瞬かいま見せた動揺は、もうどこにも残されていなかった。その表情をぬぐい去ってしまうと、声にはどこか諦念の響きさえあった。

 桜子は挑むように桂木を見返した。


「これは私からの忠告にすぎませんが、もう薫と関わるのはやめた方がいい。薫は確かにあなたの護衛役でしたが、今はもうそうではないのです」


 桂木が静かにさとすのを、桜子は黙って聞いていられなくなった。


「薫が私の護衛役ですって? そんな話、全然知らなかった。どうして誰も彼も私に本当のことを隠そうとするの」


「桜子さんは、薫と会ったのですね」


 桂木にそう指摘され、桜子はぎくりとした。深夜の密会を見られたのかと思ったのだ。

 しかし桂木が言ったのは、違う意味合いのことのようだった。桂木は口調を保ったまま言った。


「今後はもう会わない方がいい。薫は師範に破門されたのです。何をやらかしたかは知りませんが、おそらく余程のことがあったのでしょう」


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