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水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
忍びの里
22/108

述懐


 簡単に承諾できる話ではなかったが、桜子は薫を信じることにした。

 誰も彼もが桜子を遠ざけようと暗躍するなかで、薫だけは本音を語ってくれた。守り手がどう、という話よりも、桜子にとって大切なのはそのことだった。真偽のほどは眉唾ものだ、と思ってはいたが。


 薫は今の現状を、かなり正確に把握しているようだった。この頃は年に数回顔を合わせるだけの間柄だっただけに、どうしてここまで薫が介入するのか、桜子自身にもよく分からなかった。


 ——うまく話にのせられただけかもしれない。


 ちらっとそんな考えが頭をかすめたが、不思議と薫自体に嘘はない気がした。まだ教えていないことがあることは察したが、出し抜くつもりがあるとは思えなかった。薫は桜子を守ると言ったのだ。


 それを思いだし、桜子は胸の底がわずかに熱くなるような心地がしたが、瞬時にその甘言を振り払った。


 ——薫はそれが自分の務めだと言った。お母さんののこした言葉だと言って。


 それがどういうことなのか、もっと詳しい話を聞きたかったが、それ以上のことは聞けなかった。


 薫は、最後に合図の目印を桜子に教えてくれた。

その日がやって来たら、桜の木の枝に布を結んでおくと。それは注意して見ないと分からない場所だった。

 桜子がうなずくと、薫は一度かすかに微笑んだ。もうすべてを承知している顔で。


 もし本当に、桜子が「水神の剣」の守り手なのだとしたら——桜子はその可能性について思いをめぐらせた——もっと早くに知らされるべきだった、と考えて思い直す。

 自分は今まで、自ら踏み込んで思考することなどしなかった。本当は母について、周囲に聞きだして知ろうとする姿勢があってもよかったはずだ。桜子がそれをしなかったのは、自分のなかに負い目があるからだった。誰にも期待されない自分、母のような器量のない自分を、自分で認めるのが嫌だった。


 せめて強くなろうと稽古に励んでいたのに、その目的も見失ってしまった。目の前のことに集中するふりをして、煩わしいことには触れようとしてこなかった。


 ——今からでも、遅くないはずだ。



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