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水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
忍びの里
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夜桜( 2 )


 桜子は薫が出てくるのを待ったが、その気配は感じとれなかった。自分の方が先に来てしまったのだろうか。そう思いながら、辺りを見回してみる。



 なばり流の型に足を運んだのは、そうしようと意図したわけではなかった。じっとしていると、様々な考えにとらわれて、身動きがとれなくなっていく気がしたからだ。

 夜気に触れたことで、いつのまにか指先も冷たく湿っている。そこから抜けだすように、気づいた時には古武術の型を無心にたどっていた。

 筋肉のひとつひとつが伸び、重心が下がる。転換し、体を軸足で反転させ、架空の相手にむかって半身になる。


 山のなかにいるように、意識の底が澄んでいく気がした。余計なことは何も考えない。ただ最善の足運びとそれに伴う回旋だけがあり、そのひと足と指先に集中すると、体を自在に動かすことができる。

 体が硬化することは、桜子がいつも避けていることだった。その状態からは踏みだせない。そして一度動けなくなったら、体中をめぐる気の流れを滞らせてしまうと知っていた。


 ——と、

 空気の揺れを感じて、桜子は回転させようとした指先の動きをとめた。いつからそこにいたのか、薫が月明かりのなか、桜子の様子をじっと見て佇んでいた。



「来たならそう言ってよ。待っていたのに」


 少し声をひそめて桜子は言った。いつもは夜になると寝てしまう桜子も、今日ばかりは起きていることができた。

 体を動かしたおかげで冷えた体の血のめぐりもよくなり、ますます目が冴えていくような気がする。


「今のは、隠流の古武術の型だね」


 薫はつぶやいた。

 夜を渡っていく風のせいか、感情の読み取れない声音だった。桜子が頷くと、薫は再び言った。


「本当は、こんなふうに呼びだすつもりじゃなかった。もっと慎重に進める予定だった」


 桜子が目線だけで問い返すと、薫の面差しが不意にあらわになった。月影に照らされた目は光を帯び、真剣味を増しているようだった。


「でも、そうも言っていられなくなってね」


「一体どういうこと?」


 桜子が聞くと、薫はわずかに唇を噛みしめた。


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