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勇者、壊れる

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 勇者、ル●ンダイブ事件から二週間後。



「ひーっ、ひーっ、はーっ、はーっ」


 走る勇者、剣を振る勇者、また走る勇者、そして剣を振る勇者。ひたすらに前線に出されて戦い続ける勇者がそこに居た。


 魔物もだんだんと強くなってきており、倒すのも楽ではなくなっている。そんな中で勇者は()()()()()()戦わせられていた。


「はーっ、はーっ、お前らぁ、助けろぉ!」


「勇者様がんばれー(棒)」


「勇者様、粘ってください」


「くそがぁぁぁぁぁぁぁ!」


 助けを求める勇者に棒読みの応援で煽るアリシアさんと普通に応援したセドリックさん。勇者は今、毎日のレベルアップの為にパーティーの皆で決めた討伐ノルマをこなすために魔物の群れと一人で戦っていたのだ。僕を含めた他の四人はもう今日の討伐ノルマはこなし終わっている。

 どうして勇者がノルマをこなせていなかったって?そりゃあ戦いもせずに僕に『ミリアちゃんといちゃいちゃするな』だの『ミリアちゃんとの距離が近すぎる』だの『僕はまだ諦めていない。いずれ彼女は僕のものになる』だのいちいち後ろまで来ては戯れ言をたたいていたからだ。だいたいお前、ミリアに『半径五メートル以内に近付かないで下さい』って言われてるだろ。後ろに来る度に戦列が乱れて邪魔でしかなかったんだが。


「ひいーっ、ひいーっ、し、しぬぅ」


 ああ………勇者が死にそう。

 六本の足と細長く器用に動く鼻を持った巨体の魔物『エレファードン』に足で地面に押さえ付けられている。なんてこった、セドリックなら一人でだって倒せる魔物なのに。勇者、何度も疑って悪いがお前本当に勇者か?


「アイルさん、勇者、死にそう」


「流石に放置していて大丈夫でしょうか………」


「変態だけど死なせたら問題になりそう………」


 三人が口々に勇者の心配(?)をした。

 だけど大丈夫だ。僕は信じている。勇者、たとえ()の付く変態だとしてもお前なら出来るって。


「おや?アイル殿、助けに行くのですか?」


 すっくと立ち上がった僕にセドリックが話し掛けてきた。でも、勇者のことを助けに行くわけじゃない。


「いえ、ちょっと勇者の力を解放してきます」


「…………は?」


 思考が追い付かずにポカン、とした顔になっているセドリックと尻目に、僕は勇者と魔物の居る方向に向かって歩き始めた。


































 し、死ぬ。殺される。


「ばおお"お"お"お"お"お"ん!」


「ひぃぃぃぃ!」


 死ぬんだ僕。異世界で気持ち悪い象に殺されて一生を終えるんだ。

 ああ、一度で良いから可愛い女の子とイチャイチャしたかった。やりたい放題、好き勝手に暮らしたかった。


 そう、諦めかけたその時だった。




「負けないで、勇者様!」


 可愛らしい、女の子の声。

 僕を応援してくれる女の子の声。


「諦めないで、立ち上がって!」


 声のする方向を見ると、金髪碧眼のロリ巨乳が何故かチアリーダーの格好をして立っていた。何故チアリーダー?などとは全く考えない。可愛らしい女の子が僕を応援してくれている、それだけで身体の底から力が湧いてくるのを感じた。


「応ッ!見ていてくれ、必ず勝ってみせる!」


「がんばれ♥️がんばれ♥️」


 ポンポンがふさふさと揺れる。一緒におっぱいもたゆんたゆんと揺れる。

 僕の身体の底からぐんぐん力が湧いてきて、みるみるうちに象を押し返していく。今ならあの有名な野菜系戦闘民族にもなれそうだ。


「うおおおおおおおおおおおおおお!」


「がんばれ♥️がんばれ♥️勇者様フレッフレー♥️」


「ば、ばおっ!?」


「いけいけ勇者♥️がんばれ勇者♥️いえーいっ♥️」


「おりゃああああああ!」


 足を掴んで象を振り回す、そして空高く放り投げた!


「ば、ば、ばおおおおおっ!」


――――ドズゥゥゥゥゥン!


 象は空高く舞い上がると、そのまま地面に向かって急降下、そのまま頭から地面に直撃して土煙を立てた。


 勝利。僕の勝利である。

 僕は額に流れた汗を拭った。そしてあの女の子の居た方向を振り返り―――


「君、僕と結婚しy――――――――はっ?」


 ――――硬直した。

 なんで、お前がそこに居る?

 どうしてそこで彼女の肩に手を乗せているんだ?

 どうして彼女はそれを嫌がっていないんだ?


 硬直した僕に聖戦士はにっこりと微笑む。


「どうだった?勇者。僕の作った()()()は。勇者様好みに作ったから満足してくれたよね?」


「…………は?」


 何を言っているんだこいつは。何処に泥人形なんて居るんだ。


「かなり細かいところまで作ったし声帯も再現した、上から更に幻影魔法を掛けてるから人間にしか見えないでしょ?あ、感触にも拘って作ってるから近付いても多分泥人形だってわからないと思うよ」


「何……………を………」


 そう言った瞬間、チアリーダーの格好をした彼女は泥になって地面に沈んでいった。後に残ったのはあのいけ好かない聖戦士のみ。つまり、彼女の正体は彼だ。男だ。♂だ。


 そうだ、どうしてこんなところにあんなロリ巨乳の美少女が居るんだ。どうしてこんなところにチアリーダーの格好をした美少女が居るんだ。どうしてこんなところに僕好みの美少女が応援しに来てくれるんだ。


 ああ、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして―――――


「元気、出たでしょ?」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 僕の視界はブラックアウトした。


































「う…………夢、か?」


 気が付いたら知らない部屋のベッドの上だった。

 夢、では無かったらしい。おそらく此処は次の町の宿屋の部屋か何かだろう。


「おや、目が覚めましたか勇者様?」


「ひっ………!」


 な、なんで。なんでお前が此処に居る!?

 なんで()()()、お前が此処に居るんだ!


「怯えた顔しないで下さいよ。別にとって食ったりなんてしませんから。はい、リンゴを切っておきましたから食べて下さいね」


「う…………うう」


 にっこりと微笑んで綺麗に切られたリンゴをすすめてくる聖戦士。僕、こいつを目の敵にして嫌な目にしか会わせてない筈なのに。こいつの婚約者に手を出そうとして酷いことだってしようとしたのに、どうして。



 ……………………………………。



 …………………………………………………………。



 何、やってるんだろう。僕。

 自分が情けなくなってきた。何浮かれてたんだろう。勇者だからってやっていいことと悪い事があるじゃないか。なんでその程度の常識を忘れてたんだよ僕は。まるで夢みたいな世界だけど、ここだって現実の世界なんだぞ。



 差し出してくれたリンゴに手を伸ばすことさえ出来ず、そのリンゴをただ見つめていた僕に聖戦士は苦笑いして指を鳴らす。すると、あのチアリーダーの格好をした少女が部屋の中に現れた。


「………可愛い女の子にやって欲しかったーって顔してますね。良いですよ、()()でしたらいくらでも作れますし、他にもリクエストがあれば――――」

「……………いや、いいよ」


「…………?」


 わかってた。

 わかってたんだ。


 今の情けない僕じゃあいくら勇者という立場があったって現実の女の子に振り向いてもらえる訳がない。僕を応援してくれるのは、結局彼が作ってくれたような想像上の存在でしかない女の子達だけ。あの女の子はきっとそれをわからせる為だ。

 女の子だけじゃない。日本にいた頃と比べても、更にどうしようもない存在に成り下がった僕についてきてくれる人なんて居るわけなかった。思えば、勇者パーティーは今までずっと聖戦士を中心に旅をしてきていた。そしてなんだかんだで僕を唯一見捨てていなかったのは聖戦士。

 時にはえげつない殺気を飛ばしてきたり、肋骨を数本折られたこともあったけど、あれだけ迷惑ばかり掛けてきたのに彼だけが僕を見捨てていなかった。もし彼が僕を見捨てる決断をしていたら、とっくのとうに彼等は僕を見捨てて更に先へと進んでいたはずだ。

 でも、彼はそんなことしなかった。


「聖戦士………いや、アイルさん」


「…………?」


「今まで迷惑ばかり掛けてきてすみませんでした!」


 ベッドに両膝をつき、彼に向けて精一杯の謝罪の姿勢。深く頭を下げた僕に聖戦士は何も言わない。

 静寂が部屋に訪れた。それから数分間、僕も彼も何も話さずにただ時間が過ぎた。その間も僕はずっと頭を下げ続ける。




「貴方が……ミリアにしてきたことは許すつもりはありません」


「うっ………」


 そりゃそうだ。許してくれる訳が無い。

 僕が、どれだけ酷い事をやってきたか―――



「ですが!………僕は、とりあえずのところは許しましょう。でも、ミリアが貴方を許すかはわかりませんし、そこは貴方の努力次第です」


「えっ…………」


「心を入れ替えて、精進してくださいね」


「ありがとう…………ございます……………」


 涙が、溢れた。

 信じられない。

 僕を許してくれるのか、この人は。あんなに酷いことばかりしてきたのに。

 思わずまた顔を下に向けて涙を拭っていたら、彼が僕の肩に手を乗せてきた。


「やっと目が覚めたようで安心しましたよ。でも、勇者様は地力は強くとも皆さんと比べると遅れをとっていますので、これから僕が勇者様を本物の勇者に鍛えようと思います。ついてこれますか?」


「はい……………はい…………っ!」


 これからはアイルさんの言う通り、心を入れ替えて頑張ろう。

 胸を張って王都に凱旋出来るように、胸を張って自らは勇者だと誇れるように。

 この師の元で、精一杯頑張ろう。



【アイルの泥人形】


 アイルが製作した人間そっくりの泥人形。感触までバッチリ。男も女も子供も老人もやろうと思えばなんでも作れる上に、ゴーレムのように自動で動かしておくことも可能。

 今回アイルが作ったのは【チアリーダー】の女の子。勇者がこっそり買っているエロ本や、行く先々で勇者が口説いていた女の子のタイプから予想して作り上げた。勇者の好みにはミリアも含まれていたが、ミリアにだけは似せたくなかったのでこうなった。

 実はアイルの故郷の村でもアイルの泥人形は村人に紛れて暮らしており、アイルの母親の命令で父親の浮気防止及び24時間体制の監視を行っている。しかしアイルの父親はアイルの母一筋なので浮気なんてする筈無かった。


父親「最近誰かにずっと見られている気がする…………」




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