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そして12年後……

 

 12年後、僕は17歳になり成人を迎えた。


 あれから弟が二人も出来た。父さんと母さんのイチャラブがあのエロ本朗読事件から激しくなったおかげだ。

 弟は二人とも可愛くて、僕がしっかりしなければと幼いながらに気合いが入りまくったものだ。



 さて、17歳になったばかりの僕は今、森の中にいた。



「最近やけに魔物増えたなぁ。まあおかげでご飯には困らないからそこはいいけど」


 森を歩いて害獣駆除。

 農家の息子である僕はこうして魔物を殺してまわっていることも多い。

 

 しかし、最近は特に魔物が増えたこともあって駆除した後がすごい。見渡す限りの死屍累々。僕が殺した魔物の血で地面は赤く染まり、血の匂いに釣られてまた魔物がやってくる。そしてそれをまた殺す。

 その繰り返しだ。


「ったく、職業『村人』が何してるんだか」


 17歳になると神様から『あなたはどの職業になりますよー』っていう神託を貰う。別に貰ったとおりの職業に就く必要はないけれど、強さだったりそれからの身体能力の伸びはこの職業に左右されることになるかんじだ。


 あの日、強くなると決意した僕は当時使えた魔法をひたすらのばし続けた。

 ひたすら特訓だ。


 魔力切れで気絶したって目が覚めればすぐに練習を再開した。魔力切れになるギリギリまで魔力を使って、なんとか初めて魔物を一人で倒した。だんだん魔物を倒すのが楽になってきた。ミリアと遊んだ。魔力の絶対量が増えたのか、魔力の減る感覚が薄くなってきた。魔法の強さが強くなってきた。そして魔力の減る感覚が全くなくなった。


 あの日の決意した自分と、エロ本をわかりやすいところに隠しておいてくれた父さんには感謝している。

 

 おかげで、僕はミリアを守ることができる。


 あれから大きくなった僕とミリアはいつからか互いに惹かれ合うようになり、お互いの両親からも大歓迎されて婚約した。村人同士の婚約というと、軽い口約束だけのものだと思うかもしれないが、僕とミリアはしっかりと書類に残して村の教会にもちゃんと報告した。それだけ本気だってことだ。


 それで、17歳で成人した僕とミリアはすぐにでも結婚式を挙げようと準備をしていたのだけど…………。



『賢者に、なった………!??』


『えへへ……私が賢者って意味わかんないよねぇ』


 なんとミリアは【賢者】の天職を手に入れてしまった。 

 賢者といえば、魔王討伐の旅に勇者や聖女と一緒に行く伝説の職業だ。王都で勇者召喚が行われたって風の噂で聞いてたけど、まさかミリアが賢者になるなんて。



 その瞬間、あの時読んだ『寝取られ』モノのエロ本が頭を過ぎった。



 父さん!ありがとう!父さんが分かりやすいところにエロ本を隠しておいてくれたおかげで僕はミリアを守れそうだよ!






 勇者の魔王討伐の旅について行くことになったミリアに僕はすぐにこう言った。


『なら僕も旅について行く』


『へっ?そりゃアイルは強いし、ついてきて欲しいけど………………でもアイル大丈夫なの?村人だったよね』


『ついこの前【グリーンドラゴン】を単騎で倒したけどそれでも駄目かな?』


『えっ、嘘だよね?』


『本当だよ?裏山に飛んできてたから村に近付く前に駆除しておいたんだ。鱗とか角とかとってあるけど見る?』


『うん、見る』


 グリーンドラゴンとはその名の通り、緑色の鱗をもった大型のドラゴンだ。肉食で、主に自分よりも小さい魔物(約24メートル以下)を食べているのだけど、人里を見つけると襲うこともある。

 だから僕はグリーンドラゴンを見つけると、すぐに山の中へと出向いていってブッ殺してきたわけだ。

 僕は幼馴染みだけじゃなく村人全員を守れる男になった。これであのエロ本の主人公のようにはならないだろう。

例え勇者がクズ男だったとしても絶対にミリアを奪われたりなんてしない。何故なら僕はレイリー君ではないからだ。



『うわぁ、ほんとにドラゴンの鱗だぁ。こんなに大きくて分厚い鱗なんてドラゴン以外に有り得ないよ。どうやって倒したの?』


『そりゃあ、こう……ぷちっ、と』


 蚊を潰す時のように両手をパン!と合わせてみせる。

 嘘じゃない。本当にこうしてぷちっ、とドラゴンの頭を潰して殺した。

 流石にドラゴン相手に手加減も出来なかったし、頭部の素材の保存状態が悪いものが多くなってしまったのは仕方ないと思う。それでもドラゴンの素材だから加工して防具なんかにすれば旅の冒険者に高い値で売れるけど。


『…………嘘、だよね?』


『いやいや、本当だよ?なんならこれから実践してみる?』


『あ………なんか今なんとなく本当だってわかったかも…………』


『遠慮しないでいいんだよ?僕もミリアのことを安心させてあげたいだけだからさ』


『………しゅき』


『僕も大好きだよ、ミリア』


 ミリアをぎゅうっと抱き締めて、額、頬、首筋、耳へとキスを落とす。

 ああ、ミリアは可愛いなぁ。絶対に手放したりなんてしないから。


 もしミリアに手を出そうとした奴が居たら…………………産まれてきたのを後悔させてやるよ………………。

 この時の僕とミリアの様子を見ていた友人に後で聞いた話だけど、パッと見だとイチャイチャしてるだけのカップルだけど、僕の放つ殺気というか威圧感が凄かったらしい。用事があって来てたそうだけど近付くに近付けなかったそうだ。

 なんか、悪いことしたな。







「さてと、そろそろ帰るかな」


 回想はここまでにして、そろそろ帰ろう。

 家にはミリアも母さんも弟達も待ってるし、今日の害獣駆除はもう終わりだな。


 魔物の死骸の中から状態の良いものを選んでいくつか魔法袋に入れて他は地面に土魔法で穴をあけて埋めておく。村人の土魔法は普通農業なんかに使われてるものだから僕みたいに魔物を殺したり、地面に大穴をあけたりするのに使ってる人は居ないだろう。多分この村の他の人が同じことしようとしたら魔力切れで倒れると思う。


 僕は魔物の死骸を埋めて、綺麗に地面を整えたのを確認してから山を降りた。



















「ん、何だあれ?騒がしいな」


 家に帰ってきたらなんだか中が騒がしい。なんとなーく中で何が起きているのかは想像できた。


「ただいまー…………………」


 ドアを開けて中に入る。

 案の定、というか部屋の中には僕とミリアの両親とミリアと弟たち、そして見たところかなりの高位だと思われる神官が五人ほど並んで立っていた。


「だから、ミリアはウチの息子の婚約者なんです!そんな危険な旅になんて行かせられる訳がありません!」


「そうだとも、結婚前のウチの娘を勇者とはいえ見ず知らずの男の元になんて行かせられん」


「あなた!それもですけど『危険』の意味が違います!」


「兎に角私たちは絶対に認めない。ミリアの幸せはミリアが決める。それに魔王なんて勇者に倒させれば良いだけだろう。僕の義理の娘がそんな旅に行かなければならないほどの理由が無い」


「ミリアねーちゃんはにーちゃんのおよめさんなんだぞ!絶対に連れてなんて行かせないからなー!」


「にーちゃ!ねーちゃ!」


「お父さん、お母さん…………おじさま、おばさま………エルくん、ルークくん…………」


 猛反発する僕とミリアの両親、そして弟たち。それを見下すような冷たい視線で眺める神官達。

 ついにこの時が来たか。

 僕は何か喋ろうとした神官の横を通り抜けて、ミリアの元へと向かった。


「ミリア!」


「アイル!良かった、来てくれた!」


 僕が姿を見せると顔をぱぁっと明るくさせて抱きついてくる。僕もミリアのことを抱き締めて優しく髪を撫でる。

 一瞬にして桃色空間が出来上がった。

 周りから両親達の生暖かい視線と神官達の刺すような冷たい視線が集まってくる。

 その時、非常に話し掛けづらい雰囲気を破って一番偉そうな神官が咳払いをした。


「……………ンンッ!ゴホン!…………それでは賢者様の婚約者も帰ってきたようなのでもう一度言わせて頂きましょう。賢者様は無理矢理にでも王都まで来ていただきます。賢者の職業を手に入れた以上、勇者様と共に戦ってもらわねばなりませ―――」

「アイルが一緒なら良いです!私より強いので!」


 一瞬にして話を切られた。

 確かに王都に連れていかれる時は僕も一緒にとは言っていたが、途中で話を切られた神官さんは渋い顔である。


「賢者様……………流石に無関係の一般人を巻き込む訳にはいきません」


「それなら…………………多分大丈夫だと思います」


 呆れた顔でそう言った神官さんに僕は視線を合わせる。

 突き刺してくるような鋭い目つき。まだ若く、三十代くらいに見えるが、他の神官の人達とは桁違いのプレッシャーが彼はこの中でも特に強い立場にあるのだと感じさせる。恐らく、いや、確実にこの人は強い。

 それでも僕にだって自信はある。大好きなミリアを守るためだけに鍛え続けたこの力がある。

 この村で一番というだけの井の中の蛙かもしれないけど、普通の人よりはずっと強いという自信はある。


 だから、僕は神官さんに向かって笑顔を向けた。



「一先ず外に出ましょう。そこで連れていけるか判断して下さい」








 やっぱり神官さんは渋い顔をした。

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