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ハッピーエンド?

聖戦士が勇者に施した『教育』、それは最早洗脳であった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「勇者様ー!おめでとー!」

「勇者様かっこいいぞー!姫様も綺麗だぞー!」

「ママぁ!勇者様とお姫様きらきらしてるよ!」

「あれはね、女神様が二人を祝福して下さっているのよ」

「姫様おめでとぉぉぉ!」

「あ"あ"あ"あ"姫様ぁぁぁ………でも、姫様が幸せならOKです!」

「勇者様ぁぁぁ、おめでとぉぉ!ずっと好きでしたぁぁぁ!」


 沢山の人々が勇者カズトと王女リディアの結婚を祝っている。純白のタキシード姿の勇者と、同じく純白のウェディングドレスを身に纏ったお姫様の二人の周りには虹色に輝く小さな光の玉が舞い、王都は喜びに包まれていた。


 勇者カズトと剣聖セドリック、聖女アリシアに賢者ミリア、そして聖戦士アイル。彼等五人によって魔王は打ち倒され、世界は平和に包まれたのだ。

 魔王が倒された事により、穏健派の魔族の国とは魔王が現れる前のように国交が結ばれ、早速二国間での貿易が始まろうとしている。魔族や魔物を嫌う人々も多く居たが、勇者パーティーに途中から加入したドラゴン『メイザー』の存在もあって、そういった人々もだんだんと魔族達を受け入れてきている。

 世界に本当の意味での平和がもたらされる日も遠くは無いだろう。


「あの勇者様が……………ね。女神様が勇者を祝福する気になるぐらいにアレがまともになって本当に良かった」


「つい一年ぐらい前の話なのに、遠い昔の事みたいに感じるな」


「変態だったのがよくあそこまで立派になったね………なんだか泣けてきた」


「カズト………良かったな…………」


 二人の結婚式に招待された僕達勇者パーティーの面々も、すぐ近くから幸せそうな二人の様子を見守っていた。

 旅立ちの前にお世話になった教皇聖下も旅立ちの前は終始げっそりとしていたが、今ではとても穏やかな表情で神父の役を務めている。なんでも『あの勇者様がまともになったとはこれ以上に嬉しいことはない』と今回の結婚式の神父の役を買って出たらしい。


「あの時まで僕の理性が保って本当に良かった」


 僕はミリアや勇者パーティーの仲間たちと共に幸せの絶頂に居る勇者を見て心からそう思った。


 最初は節操無しで猿並みの性欲で他人の婚約者にまで手を出そうとして来るようなクズ野郎だった。

 彼を殺そうと思ったことも一度や二度では無い。彼が犯罪紛いの事までしてミリアを襲おうとしてぶちのめした事だって何度もある。それでも殺すのはいけないと理性で怒りを押さえ付けて勇者を見逃し続けてきた。

 濁った彼の瞳に、同情を覚えたからだろうか。


 彼の金の玉を蹴り潰した事だって何度もある。肋骨を砕いてやった事だって何度もある。腕や足の骨を砕いた事だってもう数十は越えている。その度に回復魔法で治してやり、気絶した勇者を安全な場所に安置していた。

 あの勇者に対して『死ねば良い』とは思いつつも見捨てられなかった。



 どうしたって、彼は勇者なのだ。()()()()()()が勇者召喚で喚ばれる筈がない。それに、『もしかしたら』とは思っていた。



 父さんのエロ本。子供の頃に読んでしまったエロ本には続きがあった。

 それはあのクズ勇者は過去に人間関係でトラウマを持っており、その彼が力を持った結果、周りの人間を見下して物扱いすることによって自分を保っていたということ。

 寝取られていた主人公の婚約者もその後すぐに捨てられ、行く場所がなくなった彼女は元婚約者の元へ。しかしその元婚約者も既に自殺してこの世から去っており、家族や元婚約者の家族に散々に罵られ、追い出された彼女は遠い地へと移り住み孤独な最期を迎える。

 勇者も自己の肯定と罪悪感の狭間で精神を病み、単身魔王城に突撃。魔王と相討ちになって死を迎えるという誰も救われない終わり方だった。

 地元のおじさん達によるとエロティックな描写もさることながら、ストーリーもリアルで素晴らしいと、エロ本の名作らしい。僕にはわからないが。


 件の勇者も似たような経験があったらしい。

 勇者の目が覚めてから一度だけ、彼が話していた事なのだが、彼も信じていた人にこっぴどく裏切られた過去があるそうだ。それ以来人間不信になって引きこもりのような生活を続けていたのだが、此処に来て力を手に入れた事によって好き勝手やってやろうと思ってしまったという。『こんな事、悪いことをして良い理由になんてならない』と勇者は苦笑いしていたが、人間何が原因で堕ちていくかはわからないものだ。

 勇者を鍛えるようになってからも大変だった。一度堕ちたものはまた堕ちやすくなるのか、何度も元の勇者に戻りそうになるカズトを引っ叩いて目を覚まさせるのには骨が折れた。今はもう、安心して見ていられるようになって本当に良かった。


 父さんは何故あんな鬱にしかならないエロ本を買ったのかと思ったが、そのお陰で僕は助かった。

 勇者を勇者にすることが出来、婚約者のミリアも守ることが出来た。

 父さん、わかりやすいところにエロ本を隠していてくれてありがとう。





「ふふふ。今日はとてもお目出度い日ですが、アイルさん忘れてませんよね?」


 柔らかい表情をするようになったセドリックが笑顔で僕を小突いてきた。

 もちろん、忘れてなんかいない。忘れるわけがない。


「明日は僕とミリアの結婚式ですよ。まさか勇者様と同じように国中で祝って貰えることになるとは思ってませんでしたが」


「あ、アイル。緊張、するね」


「ミリア今から緊張し過ぎだって」


 勇者様の結婚式を祝っていた筈なのに、明日の事を思い出してカチコチになっているミリアの頭をポンポンと優しく叩いた。

 本来なら元々平民でしかない僕達の結婚式なんて国をあげて祝うほどのものにはならない。でも国王陛下の一言で僕達も盛大に祝って貰うことになったのだ。教皇聖下によると『この期に及んで賢者様を狙っている貴族共に、お二人の結婚は陛下が認めたものだと威圧を掛けるという狙いもあるのですよ』との事だった。陛下は元は只の平民でしかない僕達を、下衆な貴族から守ろうとしてくれているとの話だった。

 もちろん結婚式を盛大に祝う方が主な目的なので、王都から離れた場所に住んでいる家族達にも配慮されている。明日の結婚式に備えて、故郷の村から近衛騎士団を派遣してまで連れてきてくれたのだ。宿泊施設まで用意してくれて、もう本当に陛下には頭が上がらない。

 

「ところで、セドリック?」


「ん、なんでしょうか?アリシアさん」


 先程までぱちぱちと手を叩き続けていたアリシアさんがセドリックさんの袖をくいくいと引っ張った。


「なんとなく、この際だから言うけれど。私、貴方の事、好きよ」


「へぇ、そうなんですか……………って、ええ!?」


「私、これでも侯爵家の人間だから、簡単に逃げられるとは思わないでね」


「え…………あ……………お手柔らかにお願いします…………」


 言いたいことだけ言い終わると、また一心不乱に手を叩き始めるアリシアさん。セドリックさんは突然の事に目を白黒させながらも、満更でもなさそうに自分の首の後ろを少し撫でると、勇者様の方を向いて一緒に手を叩き始める。

 どうやらこのお祭り騒ぎも二日間では終わらないらしい。二人の結婚はまだまだ先になるだろうが、とりあえずくっつくことはもう確定だろう。侯爵と子爵とでは身分に差があるけれど、魔王を倒したパーティーの聖女と剣聖ならば問題ない筈だ。


 此方の様子に気付いた勇者がニッ、と笑って親指を立てた。アリシアさんは不適な笑みを浮かべてサムズアップしたが、セドリックは顔を赤くして俯いてしまった。お姫さまも気が付いたのか小さく手を振ってくれた。

 そして、勇者は僕と目を合わせると口の動きだけで伝えてきた。


『ありがとう、アイルさん』


 僕もそれに応えるように笑って小さく手を振った。すっかり涙脆くなった勇者は目にじんわりと涙を浮かべる。

 でも、勇者は目頭を一瞬押さえ付けて、泣きたくなる気持ちを押し込むと精一杯の笑顔になる。


「ありがとう!皆、ありがとう!」


 勇者は傍らの王女様を抱き寄せると、祝ってくれている国民全てに、この国の全てに向けてめいっぱい手を振った。






 父さん、分かりやすいところにエロ本を隠していてくれてありがとう。

                    完























「はっ………!」


 こ、此処は何処だ!?


「おっ、やっと気がついたみたいだね『魔王』君」


「貴様………女神か」


 気がついたら俺様は真っ白な空間に佇んでいた。

 目の前にはニヤニヤといけ好かない笑みを浮かべる女神が。本当、コイツは見た目だけはこの世の者とは思えないほどに美しいがとんだ俗物だ。無様に負けた俺を面白がってやがる。

 俺様は奴に一発食らわせてやろうと思い、手に魔力を集めた。だが、何故か一向に魔力は集まっていかない。微量の魔力が集まりかけては何かに邪魔をされて霧散していく。


「まぁまぁ落ち着きなよ、君の怒る気持ちもわかるけどさ」


「………何かしたのか」


「んん、何も?君、死んだからさ、身体無いじゃん?魂だけを維持するなら微量の魔力で充分って訳だよ」


 そうか………俺は死んだんだ。あの勇者と、言い伝えに無かった聖戦士とかいう奴に一方的に攻撃されて死んだ。

 特に聖戦士はヤバかった。攻撃も守りも速さも異常に高くて、反撃する暇さえ無かった。俺は死んだ、だから魔力も殆ど使えなくなってしまったと言うことか。


「フン………俺を此処にわざわざ呼んだと言うことは何か有るのか?」


「あー、うん。そうだよ。君の来世についてだけどさ、前世の記憶を残しておくか残しておかないか聞くために連れてきたんだよね」


「………!」


 前世の記憶を残す、だと!?

 つまりそれは、畜生以下の人間共に復讐する機会を与えてくれると言うことか。魔王の俺様では成し得なかった事に再び挑戦する機会を与えてくれると言うのか。


 普通なら女神はこのような事は絶対にしない。わざわざ魔王である俺様を倒すために勇者まで召喚したのに、その魔王を復活させるようなことをする訳がない。

 だが、今俺様の目の前でニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる女神なら『楽しみ』のためだけにやる可能性はある。ならば、俺様の出す答えは一つだけ。


「ククク………もちろん、『残す』だ」


「にししし、良いよ。それじゃあ次の人生、行ってらっしゃーい」


 俺様の身体の周りを暖かな光が包み込む。

 俺様の新しい人生の始まりだ。今度こそ畜生以下の人間共を絶滅させてやる。

 俺様はゆっくりと目を閉じ………




「あっ、言い忘れてたけど」


 …………何だ?


「君、次の人生は聖戦士と賢者の子供だってよ」


 ……………………はっ?


 女神が「ぶふっ♪」と吹き出して笑顔になる。


 ………嘘だろ?嘘だろ!?


「ふひひ♪がんばってね~♪」


「や、やめろぉぉぉぉ!前世の記憶は無しだ!無しにしてくれぇぇぇぇぇぇ!」


「行ってらっしゃぁ~~い♪」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」







         To be continued………………………?





アイルと変態勇者のお話はこれにて完結!

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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